2
「そうだ!」
ルーカスは手を叩く。
今自分を殺そうとした相手に対し、まるで味方であるかのように微笑みながら。
「お前に会ったら聞こうと思っていたんだ」
「…何?」
帰路の勇士は手を下ろした。
話を聞く体勢をとる。
「俺と手を組む気はないか?そうだ、防護の勇士を共に倒そうじゃないか!!」
「聞き入れるわけないだろ」
帰路の勇士は幼いけれども端正な顔を歪ませながら言った。
ルーカスはやれやれと首を振る。
「冷静になれ。俺になんの恨みがあるかは知らないが、お前は俺を殺したいんだろ?ここは手を組んで油断したところを刺せばいいんじゃないのか?」
ルーカスには恨まれる心当たりはあった。……ありすぎてどれが理由なのか彼にはわからなかった。
ただそんなことはどうでもいい。
「…断ったら?」
「そりゃあお前がアイツを殺しに行く前に俺が裁きに行くのさ。当たり前だろ?」
「僕を殺そうとしないのか」
「どうやらお前は有益らしいからな。俺は役に立つやつには優しいんだ。望むなら土下座だってしてやろう」
「……分かった。僕の名前はノアだ。ノア。ファミリーネームはない」
ノアは深く考えるような素振りでそう言った。
『悪くない選択だな』
ルーカスの“おじいさま”もそう言った。
「ほら、金。助かったよ、情報をくれて感謝する」
屋台はさっきのドラゴニュートの血でもう使い物になりそうにない。
「な、この額は……!?」
▫
「防護の勇士に宣戦布告した理由はなんだ?」
ルーカスは料理屋で食べる物を頼む。
腰を落ち着けて話をするためだ。
「……」
「言いたくないなら言わなくていい。まあでも予想はできる。お前はなかなか顔も整っているしそういうことだろ、違うか?」
ルーカスがそう言うと、ノアの顔は怒りに染った。
そうして殴りかかった。
ルーカスはもちろん避ける。
防護の勇士はその実力と功績から勇士の中でも1番の知名度を誇るが、幼児に手をかけるなどその手の悪評もよく聞こえてくる、問題のある人物でもあった。ただ幸運なことに……いや不運なことに、その栄誉ある立場のせいで、彼を糾弾することは誰にもできていなかった。
「ふふふ、いかにも俺にとって都合がいい。あの聖職者は処刑するべきだ、被害者によって。俺ではなく」
ノアはそれを見て少し息を吐く。
「1つ聞いていい?」
「どうぞ」
そう言いながらルーカスはノアの周りにいる女達はなんのためにそこにいるのかを考える。
戦闘をさせたいのならば、女ばかりというのも変な話だ。
単純に強さを求めるならもう少し男がいてもいいはずではないか。
戦闘したいという女は男よりも少ないだろうし、そうであるなら街中を歩いている男女比よりも女が少ないのが普通であるはずだ。
「ここで防護の勇士を倒すのは損だと言わないのかい。生えてくるとは言ったって、次も彼のような…強い戦士とは限らないじゃないか」
「ん?ああ、そういうこともあるのか。構わない、そうだとしても彼がいた方がマイナスだ。アイツは未来ある多くの少年少女の尊厳を奪っている」
「……つまり、アイツが弱っちい未来のない少年だけにご執心だったら何もしないということ?」
「まあ、そうなるな。俺もそんなに暇じゃないしな」
悪くは思うが。とルーカスは続ける。
『お主はそれでいい』
とおじいさまは言う。
「やっぱり君は僕の敵だ」
「そうか?」
『ルーク』
「…悪い、俺は少し席を外す」
「分かった」
外に向かう。
「どうしましたか、おじいさま」
『あの、ノアといったか。あの少年にはどうもナイトメアの呪いがかかっているようだ。気をつけておくように』
「……。ありがとうございますおじいさま。でもそんなことは分かっています」
『ならいい』
机に戻りに行く。
ノアは周りを取り囲む少女達と会話をしていた。
「本当によろしいんですか?彼は貴方を頻繁に役たたずと罵り、囮や肉盾として使った非情な男だと言っていたではありませんか」
「いいんだよ。彼が言った通り折を見る」
「…私の殺気にも気づかないような人間でしたものね。いつでも殺れますわ」
殺気とはなんだろうかとルーカスは考える。
相手が殺しにかかってくるならば、自身はそれより速く動けばいいのだ。簡単なことである。
そう、こんなふうに。
「ぐっ……」
恨みがましい目をしている。
四肢を切り落とされたにも関わらず献身的なことだ。
さて、この始末はどうしたものだろうか。
ノアの影に隠れていたアサシンである。
短剣を投げてきたので避けて彼女より速く動き、近づいて四肢を斬ったのだった。
「何回見ても不可思議だな……」
手足が断面から生えてくる。
ノアが不審に思ったのか近づいてくる。
「ノア。これはどうすればいいんだ?俺には分からない」
ルーカスは困ったようにそう言った。
「君は食事を取っていい。僕がなんとかする」
「どうもありがとう」
ルーカスは机に戻り、出された料理を全て食べた。