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「やっと領地に戻ってこれたぞー」
ルーカスはご機嫌に部屋のソファに倒れ込んだ。
途中から歩くのに飽きて、国の認可もイマイチ降りていない新しい技術で作られた飛行船とやらに乗ってこの国まで帰ってきた。なかなかいい経験だったと思う。
「お帰りなさいませ、旦那様」
雇っていたメイドがいつも通りの挨拶をしてくれる。
「ああ、ただいまだ。領地は今どうなっている?」
「旦那様のいない間に問題は特に起こっておりませんよ?」
「そうだよな。起きなさそうな時期に行ったもんな。さすが俺だ。ははは」
「久しぶりにルーカス様節を聞けて、私感動しております」
このメイドは内政の補助としても使えるくらい大変有能だが、このとおり少し人を食ったようなところのある人物で、なかなか扱いにくいのだった。だからこそ生き残っているのかもしれない。ルーカスが子供の時からいる古株のうちの1人である。
「叔父上は見つかったか?」
「見つかりませんよ。遠くに行っていた旦那様の方がまだ分があるでしょう。見つかりましたか?」
「見つからなかったぞ。はあ……全く、帰ってきても別に殺さないってきちんと言っているのに。それどころか次期当主まで確約しているのに何故帰って来ないんだ?」
唯一残っているルーカスの親類である、お祖母様が早く見つけろとうるさいのだ。最近はルーカスのことを認めつつあるが、幼少の頃はこんな子供外には見せられないと、家から出してくれなかったものだ。家を繋ぐためには叔父上が必要だと言うのも分かるので、しぶしぶルーカスはそれに協力していた。
「常々言っていますが、条件が良すぎるんですよ。当主になりたいからと殺そうとした相手に、当主の座を渡すからさっさと帰ってこいなんて言われて信じられますか?」
「まあ、そうだな」
ルーカスは1人で逃げた叔父上を許すつもりはなかった。残された叔父上の息がかかった部下たちは、計画の関わりの有無に関わらず、ルーカス自らの手で全て始末した。帰ってきても飼い殺しにして、さっさと良さげな女と結婚させて子供を作ってもらう予定である。叔父上はさほどルーカスと年齢が変わらないのでまだ猶予はたくさんあるのだが、ルーカスは元々体が弱いこともあり、自身が長生きできるとも思っていないため、結構真剣に探しているのだった。
「まあ見つからないのを嘆いても仕方がないよな。財力の方はどんな感じだろうか」
「有り余ってますよ。ルーカス様は本当にお金好きですね」
ルーカスのおかげでこの領地の予算は大変潤っていた。趣味で初めた闘技場と土地運用だったが、これがルーカスが考えていたよりもずっと上手くいってしまった。そしてせっかくなので金貨を仕入れて行商人をスカウトして市を開いてもらって……とやっているうちにお金がどんどん溜まってしまったのだ。貴族はあまり商売に興味を示さないため、そこの穴にルーカスが上手いことハマれたのだろう。
「お金はあればあるだけいいだろ」
「そうですかねぇ」
メイドがため息をつく。
ルーカスの領地は3つの国と接している辺境だ。それもあって行商人の通りが良い。しかし、同時にそれだけ重要な土地であるということでもある。中央から遠い土地がそれだけお金を持っているというのは十分警戒対象になり得る。ルーカスが王や有力貴族と仲良くしているおかげで今のところはなんとかなっているが、随分危ない橋を渡っている。
「俺は領民に好かれているだろうか」
「領民【には】好かれていると思いますよ」
「それなら良かった」
領民以外に好かれていないのはルーカスもよく分かっているので、不自然なアクセントなんて無かったかのようにスルーした。
「そろそろ結婚した方がいいんじゃないですか?いよいよ女王様の愛人という噂が真実味を帯びてきてしまいます」
「ああ……まあ半分本当だからな、それ」
「え!?」
内政以外ほとんどこの家のことを知らない哀れなメイドは驚愕した。いや、虐殺に近い粛清が何度か行われたことはさすがに知っているが。
「真実ってわけじゃないんだが、否定もしきれない。おかげで不名誉な噂も野放しにするしかない」
ルーカス自身の問題でそもそも結婚はできない、ということを言わなくて良いように話を逸らす。賢く歳を重ねた女性がいれば、自身の繋ぎとしていいかもしれないな、とぼんやり思った。
「なんですかそれ」
「ごっこ遊びだ。性別をひっくり返して演じるだけの。子供の時からずっとやっている。あいつは自分が男じゃないのをずっと気に病んでいたからな。俺も大概普通じゃなかったからそれに乗った。言ってしまえばそれだけなんだが……」
「愛人ではないけど、そう受けとられかねないし人に言えないことはやってる。そういうことですか」
「ああ、そうだ」




