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「お嬢ちゃん、1個おまけつけておいてあげるよ」

「わあ、ありがとうございます」


 リンゴをもらい、歩いていく。


「おじいさま、私のことお嬢ちゃんですって。ふふふ」

『良かったじゃないか』

「冗談はやめてください」


 そう笑うのは1人の青年であった。

 黒く長い髪はひとまとめにしていた。

 真っ白い服で、丈の短いズボンを履いている。

 背は低く華奢で、とてもではないが今年で23になるようには見えない。


「ああ、勇士に選ばれて本当に良かった。あの酷い咳も随分マシになって、研究も早く終わらせられました」

『女王様が寛大で良かったではないか。勇士は大抵魔族領に送り込まれるものだ』

「そうですよね……あとは叔父さんを見つけてそれから」

『ここでは言わない方がいい』


 “おじいさま”が目を向けた方向を青年は見る。そこには張り紙があった。


【帰路の勇士が防護の勇士に宣戦布告】


「物騒な世の中になったものですね」

『お主が言えたことでもないがな』


「1人で話してどうしたんだい?」


 青年は暇そうにしている屋台のおじさんに話しかけられた。


「あ、ああ。ふふ、気にしないでください」


 おじいさまは青年以外には見えていないのだった。


「そうだ!帰路の勇士というのはどんな人なんですか?それとも他の勇士の情報も知っていれば教えて欲しいのですが……」

「それはいいけど買い物をしてくれないと」

「いいですよ、買いましょう。ちょうどお金もたくさん持っていることですしね」


 おそらくこの屋台に置いてあるもの全てを買えるだけのお金を彼は持っていた。


「追憶と殴打、湾曲は俺もよく知らない」


 そう言った。続けて。


「防護の勇士は知っているよな?」

「はい。それはもちろん」


 背が高くがたいのいい男が描かれた絵画を見たことがある。

 聖職者で勇士。教会もよく宣伝している。


「この国じゃ切断の勇士が次に有名だな。お貴族様で見た目も大変良いらしく女王様のお気に入りで、厚く庇護しているらしい。愛人という噂もある。…今のは聞かなかったことにしてくれよ?」

「分かりました」


 青年は神妙な素振りで頷く。


「刺突の勇士は大変美女らしい。そして清廉潔白だとか。1番慕われているのは彼女かもしれないな。そうだ、背が高いって噂だ」

「私よりも?」

「坊ちゃんより?そりゃそうだろ」


 あまりにも当たり前に言われて青年は少したじろいだ。


「殲滅の勇士。これも有名だろうなぁ。向こうにえぐりとられた山は彼がやったって話だ。背の高いいけ好かないイケメンだったよ」

「お知り合いなんですか」

「まあな、俺はこれでも顔が広いんだ。詳しい話は後でしてやるよ。最後に本題の帰路の勇士だがこれは大変美少年で───────」


「伏せろ」


 青年が屋台の店主に警告する。

 遅れて圧力がかかる。

 青年はそれを“斬る”。


「悪いな店主。屋台がダメになったら俺が弁償してやろう」


 青年が見せる雰囲気は今までと全く異なっていた。

 店主は怯えた様子で頷いた。


「うらあああああああああ!!!!!」


 攻撃をしかけてきたのはドラゴニュートの少女だった。そこから硬化させた腕で殴りかかってくる。

 ドラゴニュート……竜人は珍しい種族だ。言うまでもなく魔族にあたる。


「……悪いな」


 その攻撃を避けながら青年はナイフを取り出す。

 すれちがいざまに片手を切り落とした。


「……な」


 血がふきでる。


「う、あ。なんで、手が…う、う」


「ドラゴニュートっていうのは思ったより柔らかいんだな」


 ドラゴニュートは硬いことで有名な種族だった。

 それがいとも簡単に斬られたのだ。その少女よりずっと小さくて華奢な青年によって。


「お、お前は……」


「許さない!許さない!!ノアは貴方のせいで!!!!」


 腕を抑えた少女が激昂する。

 血が多く出ているのにまだ元気らしい。これがドラゴニュートの頑丈さかと青年は頷いた。


「!?」


 青年が獣のような金色の目を見開く。その少女の断面から腕が生えてきたのだ。

 ……青年はそんな話を聞いたことがなかった。


「帰路の勇士」


 店主は呆然と呟いた。


「大変美少年で幾人もの強く美しい女をひきつれて、隣国の皇帝を幽閉し、防護の勇士に喧嘩を売った気狂い。……そして失くなった四肢を復活させる奇跡を扱う───────」


「やあ、“切断”の勇士ルーカス・エバンス」


 青い髪を持つ少年が歩いてくる。


「な、切断の勇士!?」


 店主は青年を見ながらその顔を驚愕に染めた。

 その後青くなる。

 自分はあの時、切断の勇士のことをなんて言った?


 そうしてその青年──ルーカスは納得がいったように頷いた。


「俺も有名になったもんだな。それとも昔会ったことがあるのか?…悪いな、俺は役たたずの顔は覚えられないんだ」







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