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「杖無しでもあの棘放てるんですね」


『あれはただのブラフだったようだな』


 ルーカスはそんなことをおじいさまと話しながらぼんやりと眺めていた。


 ルナが防御魔法で的確に範囲攻撃を防御し、細かいものはロアが受け持っている。

 ロアはまだまだ余裕がありそうだが、ルナの方が息切れしてきている。そろそろ限界のようだ。


「【湾曲】」


 エマが片手を出してニンマリ笑いながらそう言うと、刺突の勇士は顔を抑えて倒れ込んだ。


 ……どういう仕組みか分からないが、随分強い力のようだ、とルーカスは思った。


 倒れる隙を見逃すはずもなく、ロアがその高い身体能力で殴り掛かる。

 そして、サリエリのランスによって遠くに吹っ飛ばされた。


「いい度胸、ですね?」


 今までの真剣な目付きとはまた違う、鋭い視線を向けながら刺突の勇士が言う。


「こんなお粗末なスキルで私を殺せると思ったのかしら?」


 湾曲の勇士に飛びかかり、そのままランスで突き刺そうとして、それは湾曲の力で防がれたので、そのまま殴り倒した。


「ええ、貴女も有罪。だって人を殺すのは罪だもの。弱者を虐げる者はすべからく、殺さなきゃ、ね。社会のゴミ、存在してはいけないものだもの」


 一見正しそうな言葉だが、強者を殺していい理由としては弱い。破綻した理論だな、とルーカスは思った。


「ええ。ええ。貴女もさっき、そこにいた蟻を踏み潰していましたね?見ていたわ。弱い生き物を虐めるなんてあってはいけないことよ」


 そう言って防御魔法ごとルナを吹っ飛ばした。


 殺意なんてあるわけがない。これは処理だ。サリエリが産業廃棄物と判断したものを解体して捨てるための処理。


「な、なるほど。こういう性格ですか」


『ろくでもないと言っただろう』


 少しルーカスは引いた。おじいさまもため息をついている。

 ルーカスの動揺は実際正しく、サリエリは小動物や家畜を殺そうとした人間を刺し殺して回る恐ろしい女だった。本国に帰ると良い顔をされず、だからここに留まっているのだ。


「……」


 そして余裕をなくしていたサリエリは、後ろから忍び寄っていたリンに気づくことなく、そのままあっさりと刺された。



 ▫



「ぐっ、うぁぁあああああああああああ」


 サリエリが急に叫び始めた。


「はあっ、はあ……」


 息を吐いて調子を取り戻そうとするが、戻らない。


「商会のお嬢様なんでしょ?戦わないで家に戻ったら?良い嫁ぎ先用意してくれるんじゃない?」


 エマが殴られて酷い状態の顔面で、片方だけ口角のつり上がった歪な笑みを浮かべながらそんなことを言う。


「……」


 サリエリがエマを睨む。


「わあ、怖い」


 エマが笑いが止まらないというように空を見上げるように頭を傾けながら、顔を手で抑えてケラケラと笑う。


「もっと見せてよ!動揺しているところをさぁ!私をもっと楽しませてよ、ねえ!!できるだろ!!!!」


 顔を元の位置に戻したと思ったら怒りに染った表情で叫ぶ。


「【湾曲】。湾曲、湾曲、湾曲!湾曲湾曲、湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲湾曲わんきょく湾曲湾曲湾曲。あーっはっはっはハハッ、アハハハハハ!」


 エマがさっきのようにおかしくてたまらないというように笑い始める。明らかに普通の様子ではなかった。

 その様子を目の当たりにしていたルーカスは顔を引き攣らせながらノアを見る。

 ノアは諦めたように頭を抱えていた。どうやらノアにもあれは制御できないらしい。


 サリエリの刺された背中を見ると、服が切り裂かれていて、血が流れる中に多くの刺し傷が見えた。あれは随分古い……魔物にやられたとも思いがたい傷だな、とルーカスは場にそぐわない冷静さで分析した。


「はあ、はあ……」


 息も絶え絶えという様子で地面から棘を大量に生やす。


「痛いのは嫌よね?私も嫌よ。だから……死んで」


 その棘が範囲を広げていき、より大きく、鋭くなっていく。

 サリエリの傷がどんどん大きく、黒くなっていく。血を使って呪詛の効果を上げたのだろうか。


「ふふっ、……ひくっ、ぐすっ」


 強がっていただけだったのだろう、サリエリの笑いが解けて涙を流し始める。

 美女だから様にはなっている。

 通行人は避難を終えているらしく、近くには誰もいない。関所の役人はどうやら優秀らしかった。


「うわああああああん。うぅ、ひっく、ぐすっ、ゲホッ、ゴホッ。……なんでこんなに上手くいかないの?わたし、やっぱりどこかで間違えた?」


 サリエリが口を開く度に棘は増えていき、足の踏み場が無くなっていく。どうやら本人に自覚は無いらしい。


「まあ……追憶よりはマシですかね?」


『なんで我に聞く』


 危うい雰囲気を察して建造物の後ろに隠れたルーカスはなんとも言えない気分でおじいさまと話した。









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