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「刺突の勇士を無視するとは」


 ルーカスは不貞腐れながら小石を蹴飛ばした。


「刺突の勇士は今の僕じゃ倒せない。殴打の勇士なら……いやアイツも強いけどまだやりようはある」


「俺も協力するって言ったのに。あの女は呪詛がメイン攻撃だろ。俺なら殺せる」


「……。そうなんだろうけどそれは違うじゃん」


 ノアが頬をひくひくと動かしながらそう言った。

 ルーカスは首を捻りつつ、復讐とは自分でやらないと快感が得られないものだとおじいさまに言われたなと思い直した。不合理な動機でことを起こしているのだから、不合理な行動で然るべき、か。


「そういえば防護のやつより俺を先に殺しに来てたよなお前。俺はそんなに弱そうだったか?」


「……多数の魔物相手に苦戦してるところしか見てなかったし」


 なるほど。それはルーカスには不得手な状況だ。ルーカスが魔族領に行かないのは国の方針や本人の体が弱いというのもあるが、何より敵の本拠地でマトモに戦える気がしない、というのが大きかった。範囲攻撃はできないし、体躯も小さく、何より体力がない。

 どうやら1周目のルーカスはその不得手な状況で戦わされていたらしかった。それは確かに弱くも見えるだろう、とルーカスは思った。


「よしよし、関所についたな」


 ノア達は湾曲の勇士の力により認識阻害を行っているようで、周りから騒がれる様子はない。

 ルーカスが前で話せば問題はなさそうだ。……ルーカスはこの関所を通る必要がないという点を除けば。この国境沿いに歩いていけばルーカスの領地に面する別の国境があるので、そちらで関所は通ればいいし、その方が安全と言えた。


「俺はこの辺りで別れることになる。今まで旅してきたよしみだ、話くらいはつけておいてやって、も……おい、避けろ!」


 おじいさまが指を指していた。ルーカスがふとそこを見ると刺突の勇士がいて、携帯できるサイズの杖を構えているのが見えた。

 ルーカスは焦りながら頭を回し、ノアに警告をした。


 ノアは咄嗟の判断ができていないらしく、止まったままだ。舌打ちをしながらルーカスはノアの前に飛来してきた棘を、ナイフで弾く。


「ルナ、【下】に防御魔法を使え!!」


「は、はい」


 間に合ったようだ。範囲の広い防御魔法のおかげで下から生えた多数の棘は全て防がれた。

 ルナが防御魔法を使えるかは賭けだったが、なんとかなった。ルーカスは一息つく。この手の呪詛はインターバルがある。少しの間だけだろうが余裕はできた。


「……刺突の勇士だ。襲撃をしかけてきた」


「あ、ああ。ありがとう」


「お礼を言う前に準備をしろ。また来るぞ」


 ルーカスの言葉にノアが悔しそうに唇を噛む。同じ復讐対象に庇われたのが気に食わなかったのだろう。それも仕方の無いことだ、とルーカスは考えた。


「でも、殺意がなかった……」


 ノアが下を向いたまま自信のなさそうな声でそうやって言った。


「殺意?なんだそれは?ああ、剣士とかがよく言うあれか。そんなもの、分からない俺の方が強いんだから気にするな」


 だから獣相手に手こずるのだが、そこに気づいていないルーカスだった。

 そのまま走って刺突の勇士……サリエリの方へ向かう。


「っ」


 ルーカスは持ち前の素早さでサリエリの目の前に辿り着いた。それに気がついたサリエリが棘を生やすが、1度跳んで降りた後棘の側面を足場とし、再び跳びながら体を移動させ避けた。


「曲芸みたいね。お姉さん感心しちゃうわ」


 ルーカスは近づいて首元にナイフを当てようとするが、サリエリは右手の杖を捨て、左手に持っていたルーカスの身長よりも大きいランスを両手で構え、阻まれる。こういう時に自身の体格の悪さが嫌になるな、とルーカスは思った。


 一対一なら問題なく勝てるだろうが、呪詛のあの攻撃があることを考えると後ろでノア達がやられる可能性があり、やりにくいなと考え、そして、どうして自分がそこまでやらなきゃいけないんだ?とルーカスは思い至ってしまった。

 ノアはいかに面白い能力を持っているとはいえ、ルーカスを殺そうとしており、とてもじゃないが協力的とは言えない。メリットデメリットで考えるのならば、ここで無理をする必要はないのだ。


「なんで勇士であるあなたがそこの犯罪者に協力しているの?洗脳されているのかしら」


「いきなり攻撃をしかけてきたからだろ」


 上から降って来る多数の棘をバックステップで避けながらルーカスは言った。目で追えているので特に問題はなさそうだ。


「お前が襲撃してきた理由次第では傍観するぞ、俺は」


「理由、理由ね……。国際指名手配犯であるあの男を捕まえようって当たり前の話だと思うのよ。もちろん、庇おうとしたあなたたちも同罪」


 国際指名手配とは言うが、実際のところノアを問題視している国はさほど多くはなかった。この国境を越えてしまいさえすれば、躊躇いのない攻撃はできなくなる。だからここで襲撃したんだろうに、建前にこだわる面倒なやつだな、とルーカスは思った。


「はあ……強すぎるやつはダメだな。自分が正しいと疑おうともしない」


 ルーカスは傍観を決めこむことにした。サリエリの主張に一定の正当性があると認めたからだ。


 前から飛来して来た棘をナイフで全て弾いた後、ナイフをしまい、両手を上げた。


「じゃ、俺はもう戦わないから」


 発言がブーメランになっていると気づかないまま、ルーカスは地べたに座った。


「おじいさま、頼みますよ」


『はいはい』


 不意打ちされた時、すぐに気づけるように、おじいさまに教えてくれるようお願いしておく。


「……後にしてあげる」


「そうしてくれ」


 ルーカスは完全に観戦する姿勢に入った。





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