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「刺突って言うくらいだから刺す攻撃をするんだよな?魔物の殺し方で勇士の能力は決まるって考えると、やはり魔術系か?そういえば刺突の勇士は魔族領に攻め入り多大な貢献をしたことで知られているんだったな。今回も魔族領帰りか?お前の拠点は確かこの隣だったはずだし経路としてはない話じゃないか。どうだ?そうでもないか?」
ルーカスはとりあえず聞きたいことを全て聞くことに決めた。ノアがサリエリのことに気がついたら、話せる状況でなくなるのは火を見るより明らかだった。その前に思い残すことがないように聞けることは聞いておきたい。
「そういえば切断の勇士って何をやっているのかしら?魔族領じゃ見ないけれど」
サリエリが逆に疑問に思ったらしく、ルーカスに聞いてきた。魔族領帰りなのは間違いないらしい。能力の方は教えてくれないようだ。ここは期待していなかったので別にいい。性格の方は話しているうちに分析していけばいいだろう。
「俺か?俺は領地が魔族領のすぐ隣でな。というか俺の領地に結構魔族、入り込んできていてな。その処理というか、まあそんな感じだ。勇士になる前からずっとそうして来たし、これからもそうするだろう。女王様からも国境を守るよう言われている」
「そうなの?切断は守るより、前に攻めて行く方が適していそうだけれど……」
さっきから言葉は煽っているのかというように厳しいが、表情は相手を慮るそれであるので、ルーカスはそこに言及できずにいた。
「……魔王討伐に乗り気な国ばかりではないということだ」
どこまで情報を出そうか迷ったが、攻めるのに適しているという言葉を否定せず、国の方針を伝えるところまではいいかとルーカスは判断した。少し調べれば分かることだ。
「お貴族様ってしがらみが多いのね」
つまり、目の前の女は国から指示があって魔族領に行っているわけではない、と言っているのかとルーカスは考えた。
「刺突はやはり攻撃型なのか?」
「……そうよ」
納得がいかなさそうな顔でサリエリは頷いた。
これ以上情報を抜けなさそうだと判断したルーカスは撤退することにした。この状態でノアと遭遇すると厄介なことになると気づいたのもある。
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「おはよう」
「ああ」
宿屋で昨日買ったパンをかじっていると、ノアが訪ねてきた。
「……気づいてたよね?」
「何を?」
本気で分からないといった様子でルーカスは首を傾げる。
「何をじゃない。刺突の勇士とお前が話してたってご飯を食べている時に店主から聞いたぞ」
「ああそれか」
本気で今思い立ったという様子で頷く。
「せっかく見かけたし話してみようかと思ってな。お前に見つかったらそれどころじゃなくなりそうだし」
「……自由だなぁ」
「サリエリだったか。目立つ美女だったな、性格に難はありそうだが」
嫌な予感こそしたものの、どこに問題があったのかまでは分からなかった。見た目だけなら華のある威圧感の大きい美女という印象だ。金髪碧眼、白磁のような肌。ルーカスは嫌いではないタイプだ。
「……。何が言いたい?僕はあの女はごめんだよ。暴力的だし、陰湿だし感情的で、あと僕より背が高いのがダメだ」
ノアにはお気に召さなかったらしい。仲間の1人に加えるつもりかと思っていたので少し意外だ。
「へえ。お前の好みはよく分からんな。俺は見た目は好きだぞ。中身はまあ……なんとも言い難いが」
「はあ?なんであの男女を……ってそうか、そうだったね」
「何を納得したかは知らないが、どうするんだ?このまま見過ごすのか?……それとも殺しに行くか?」
ルーカスが笑う。
普段は伏せ気味の黄金色の瞳をギラギラさせ、口は三日月のように歪んでいる。
それを見たノアは少し怯んだ。
「……。勇士なんてどいつもこいつもろくなものではない。俺は言うまでもないが、お前もそうだ。自覚していないわけではないだろう?」
顔を硬直させるノアを見て、ルーカスは笑みをやめ、落ち着いた声色でノアを諭す。
「なあ、お前は本当に残虐に相手を殺さなければならないほどのことをあの女にされたのか?お前の正当性なんてどこにある?どこにもないはずだ。お前が魔族領で大半を過ごすあの女と、ましてや殴打の勇士と会う機会なんてどこにもなかったのだから。そうだろ?にも関わらず、お前は殺そうとしている。お前は俺と同じだ。その必要がないのに、傷つけるべきでないのに、相手を殺さずにはいられない」
「お前と同じなわけないだろ」
「そうか?まあそうかもな。しかし俺は勇士のやつらにはどこかシンパシーを感じている。感情を共有できる仲間なんじゃないか、ってな。もちろんお前に対してもだ」
そう言いながらルーカスは楽しげに笑った。




