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「それにしてもドラゴニュートは初めて見た。俺も魔族には詳しいつもりでいたんだがな。ドラゴニュートは魔族の中でも上位種ってことで有名だよな?高い耐久力と魔法適正、あと筋力も高いんだったか?羽はあるやつとないやつがいるんだよな?お前はどっちだ?もちろん嫌だったら答えなくていい。耐久性が1番よく聞くよな。鱗を見ると、確かに光の反射が妙だ」
ルーカスは暇なので、ロアに話しかけていた。
嘘だ。宿には少し好感度の上がったルナを味方につけて何とか泊まることができた。そこに隣接する飯屋で夕食を食べようとしたらたまたま会ってしまい、人が多いからと相席にされ、仕方がないので話をふっているだけだった。
しかし、初対面が初対面なので取り付く島もない。
ルーカスはなんだか楽しくなって、無い牙を見せるようにニンマリと口角を上げる。
「実は前切ったお前の手、回収して剥いであるんだな、これが。見るか?」
「はあ!?」
無表情で受け流していたロアが、さすがに聞き逃せないという様子で驚きの声を上げる。
「ようやく俺の方を見たな」
「……からかったのか」
「まあそうだな?しかしお前の鱗を持っているのも本当だ。こんな貴重な資料をドブに捨てるようなミスは犯さないぞ、俺は」
ルーカスはニンマリ笑いながら、ロアが考え込んでいるその隙に夕食を食べた。
「そうだ、お前は勇士。魔族も相応殺している」
「ああ、その通りだ。そこを否定するつもりはない。俺の……いや、俺達の研究に必要だったから少し使わせてもらった」
そう言いながらルーカスは立ち上がる。食べ終わったのでここにいる意味はもうない。
「……」
黙り込むドラゴニュートの少女を見ながら、ルーカスは宿に戻った。
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「ずっと気になっていたんですがあれって」
『皆まで言うな。はあ……厄介なやつが来おったな』
ルーカスが何故早く立ち去ろうとしていたかと言えば、ロアとの気まずい雰囲気から解放されるため……というのもあるが、飯屋にいた“それ”に気づいてしまったからだ。
「刺突の勇士、ですよねぇ。やっぱり」
背の高い美女のよく目立つことと言ったら。
ルーカスだけではなく、あの場にいた者たちは皆気づいていた様子だった。
『そうだな。考えたくもないが、あの女だろうな』
「……そんなに恐ろしい女性なんですか?」
珍しくおじいさまが嫌な顔をするので、ルーカスは思わず質問した。
『恐ろしい……まあ恐ろしいか。あの女はろくでもないぞ。実際見ないとあの迫力は分からないだろう』
「そんなこと言われたら気になるじゃないですか」
『そうだった、お前はそういうやつだったな……』
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「刺突の勇士ですよね。1度会ってみたいと思っていたんです!」
そういうことで、ルーカスはまだ飯屋にいた刺突の勇士に話しかけに行った。
「まあ。嬉しいわ。可憐なお嬢さん」
「い、いや、私は男です」
あまりにも自然と少女扱いをされてルーカスはたじろいだ。
「あら。それはごめんなさいね」
「いえ、気にしていません。よくあることですから。それより貴女の名前を教えていただけませんか?」
「む。その傲慢で尊大な物言い。あなた貴族ね。お姉さんそう言うの分かっちゃうんだから」
「なっ」
なんでバレた?そう思い、ルーカスは無意識におじいさまを見ていたらしい。呆れた顔で首を振られた。
「クソッ、ああ、そうだ。俺は確かに貴族だとも。この国の人間では無いがな。名前を名乗らなかったのがお気に召さなかったか?いいだろう、名乗ってやる。俺の名前はルーカス・エバンス。隣の国の辺境伯だ。名前くらいは聞いたことがあるかもな」
ルーカスは諦めて敬語を解き、貴族として振る舞う時のそれに態度を変えた。
「確かに聞いたことがあるかも……あ、思い出した!切断の勇士よね!?」
刺突の勇士が大きい声でそんなことを言うものだから、周りのざわめきが大きくなる。
「おい、やめろ。俺もそこそこ有名人なんだ。ただでさえお前は目立つのにこれ以上騒ぎになったらどうするんだ。なんのために俺が下手に出てやったと思っている」
ルーカスは小声でそう言った。
「おいじゃなくて、私はサリエリよルーカス。姓はキーストン」
「ああ、ミスキーストン」
狙い通りと言って良いかは分からないが、少なくとも名前を聞き出すことに成功した。
キーストンは大きい商家として聞いたことがあるな、とルーカスは思った。
「お前と話してみたかったのは本当だ。刺突の勇士。お前はどんな能力を持っていてどんな性格なんだ?良ければ教えてくれ」
そう相手を値踏みするように目を細めて笑いながら続けた。




