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「そろそろ着くかな」


 まだ国境らしきものは見えてこない。ルーカスは思わずおじいさまを見つめた。


「……」


『まああと1日くらいじゃないか?』


 思ったよりは近いが、そろそろと言うほどでもない距離感であったため、ルーカスは無言でスルーすることにした。


 国境近くなら宿もあるだろうし、そろそろ室内で寝たいなと思うルーカスだった。


「こうして旅をしていると俺は経済的には恵まれているんだなと思わされるな」


 街の中を歩いていると嫌でも目につく。孤児や乞食、家のない人々。盗人。普段ルーカスがいる場所では見ることのない種類の人間がたくさんいる。

 自由と平等の国は、確かに皆豊かだが、国境近くまで行くとそうでも無いようだった。


「そう思うなら、お前がなんとかしなよ」


「はあ。平民どもはそう簡単に言うがな。そもそも俺は辺境伯だ。領内では自由にやらせてもらっているが、それ以外の土地は管轄外。俺一人の権力など大したものでは無い」


 その返答に、ノアは眉をしかめた。自分が無知だと言われたようで腹が立ったのだろう。


「……辺境伯って王にも意見できる人もいると聞いたことがあります。女王とご友人だったということは、そういうことですよね?」


 ルナが鋭い質問を投げかけてきた。その通り。ルーカスは魔族領との国境沿いにある辺境を治めている領主だ。土地も広く、歴史も古い。ルーカスの一族は建国の時から辺境伯だったと聞いている。貴族での発言力も上から数えた方が速い。


「まあな。……専門外のことに口を出すと議会の奴らから疎まれるのだ。ただでさえ俺は評判が悪い」


 こういう話は貴族以外に話しても通じないからあまり話したくなかったんだがな、と考えつつ、そう言った。


「というか俺の話じゃなくてお前らの話をしろ。なんだ、俺には知られたくないのか?」


「ええ。あなたに話す話なんてありません」


「はは。嫌われてるな。ルナと言ったか。お前は見たところ修道女に見えるが、教国の人間か?」


 何回も他の人が呼んでいるのを聞いたため、ルーカスもさすがに名前は覚えた。オズワルドの処刑の後からルーカスへの態度が少し軟化したので、何か関わりがあるのかと聞いてみることにした。


「あんなやつらといっしょにしないでください」


「そ、そうか。でも教国もそんなに悪くないところだと思うぞ?まあ少し隠蔽体質なところと陰湿で保守的すぎるキライがあるが、宗教の権威を示すところとしては悪くない」


「防護の勇士のおかげで権威、落ちましたけどね。いい気味ですよ。辟易としていたんです。上層部の連中はアイツを次代の救世主とか言って、醜聞を全て握り潰していた。それが嫌で出ていったんです」


 ルナが怒りながら教国を貶めることを言う。

 それを聞いてルーカスは、やはりこの女は教国出身で間違いないようだな、と思った。当初想定していたよりも身分は高そうだ。


「そうか……。それは良くない、な。やはり教義を国の指針として掲げている以上、罪は犯すべきでない。神罰を否定するような行動を自ら起こしては国自体の威信に関わる」


「そうですよね!?良かったです、意見が同じで」


 ルナが嬉しそうに微笑む。

 ルーカスはそれを見て一瞬だけつまらなさそうな顔をした。その後口角を上げた。ルナはそれを見て共感の笑みだと思ったようだ。


「思ったより良い人じゃないですか」


 ノアの方を向いてそんなことを言った。


「すぐ人を信じるのはルナの美徳だけど、今回はやめた方がいいよ。外面がいい……とはとてもじゃないが言えないけど、他人を騙すことに躊躇がない人間だよあの男は」


 一瞬のつまらなさそうな顔を見ていたノアは顔を歪めながらそう言った。


「……そうですね。確かに私が短慮でした」


 ルナはすぐさま謝罪をした。


『また誤解をされているぞ』


 おじいさまがその様子を見ながらルーカスを心配したように言う。


「ですね。まあいいでしょう、よくあることです」


『お前はそうやって面倒くさがって誤解を解かんからいつも足元を掬われるんだぞ』


「耳が痛いですね」


 正直なところ、さっきの会話はルナの話を聞きたいという意図“しか”なかった。その後の言葉はルーカスの本心ではあるが、それだけしか考えていないわけでもない。気を悪くしないように都合のいいところだけ切り取った。その方が会話が円滑に進むことを今までの経験からよく分かっていた。

 ルーカスは改めて自嘲の笑みを浮かべる。


「リンだったよな?その武器はなんて言うんだ?ああ、いや、嫌だったら教えてくれなくて構わない。わっと、油断も隙もないな。そういうの嫌いじゃないぜ?」


 ということで、悪びれず他の女に話しかけにいくことにしたのだった。





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