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『この世界は二周目だ』
宿で1人きりになったので、ルーカスおじいさまから詳しい話を聞いていた。
「2周目?どういう意味ですか」
『説明が難しい。だから今まで言っていなかった。どうやら帰路の勇士は時間を巻き戻す力があるらしい。それで1周目で他の勇士から受けた屈辱的な仕打ちの報いを受けさせるために行動していると言ったところか』
なるほど。ノアが時間を巻き戻す力を持っていて、それを1回使っているから、今時間が流れている、日時として過ごしているこれは2回目、つまり2周目ということか、とルーカスはひとまず納得した。
「屈辱的な扱いを受けて黙っている性分にも見えませんが」
『1周目はあのような性格ではなかった。そして全く力も使いこなせていなかった。だから防護の勇士に良いように扱われていたのだ』
「そういうことだったんですね」
1周目に被害にあったという事象は過去に戻ると同時に消えた。それは被害者と言えるのか?ルーカスは首を捻ったが、復讐に元より正当性などない。気にすることでもないかと思い直した。
『他の勇士達からも手酷く扱われていてな、まあお前からも例外ではないが』
「防護の勇士を黙認していたという話ですか」
1周目の自分が何かしたなら、あれだけ憎まれているのも納得だ。
『……。1周目のお前は帰路の勇士が力を発揮できないのを強く疑問に思っていたらしい。当時の帰路の勇士は自己の肉体の時間を戻すことしかできなかったものだから、お前は意図的に帰路の勇士の肉体が破損するよう仕向けていた。そして能力を見極めようとそれを繰り返していた……というわけだな』
「それは……いかにも私がやりそうなことですね」
『そうだろう?』
ルーカスはなんとなく後ろめたくなって冷や汗をかいた。自身の悪癖がいかんなく発揮される状況であればやる、間違いない。そして、人間社会に適応していたいルーカスにとって、その悪癖は今すぐにでも棄てたいものだった。
「それで痛め続けた結果、あのスキル群でしょう?正直過去の私の考えは間違っていなかったというか、お礼を言いたくなってしまうこれが良くないんですよね、はあ」
悪感情からノアは成長し、強くなった。それを試し、実際に確認できたことが嬉しくて、ルーカスの口角が上がる。そして、自分が喜んでいると分かり、湧き上がってくる自罰感情によって溜息をつく。
『仕方のないことだ。それがお前の性質というものだからな。それで恨まれるのも仕方のないことだが』
「そうですよね」
ルーカスはおじいさまの言葉で少し自尊心を取り戻した。仕方のないこと。自身がどうしようもない悪趣味な外道なのは仕方がない。救いようもなく悪辣な男なのだから誰かに恨まれるのも仕方がない。甘い言葉だ。おじいさまはルーカスが何を求めているかよく分かっている。
「ノアに打倒されても仕方がない。……そうか、俺はそのために生きて……」
生きているのがずっと辛かった。愛してくれた親も殺し、ほとんど育ての親のようだったメイドも殺し、慕ってくれた従者も殺し、信頼できる友も殺し、ルーカスの周りにはもう誰もいない。
ルーカスの被害者、恨んでいる者にルーカスが殺される。これより良い終わりは見つけられなかった。ずっと前からそうされるべきだったのだ。
『……。いや、それは仕方なくないぞ。しっかり生き残ってもらわないと我が困る。領地には帰れ』
「はーい」
ルーカスはさっきまでの弱々しい雰囲気はどこへやら、あっけからんとした返事をして、布団を伸ばした。
この一連の流れは、ルーカスとおじいさまの間ではよくある会話だった。こんなことを何度も話して、ルーカスは自身の思考の整理をつける。
望まれている限りは生き残らなくてはいけないし、ここで倒れては、自分が犠牲にした者たちの意味がなくなってしまう。そんな強迫観念から逃れられないルーカスは、今日も諦めて健康のために良質な睡眠を取ることにしたのだった。




