事の始まり
……。
人類は魔族という名の異種族と長く争っていた。
人類は魔族と比べはるかに弱かった。
そのバランスを対等にするためか、一定の期間をおくと人類から勇士が選ばれた。
“神”から選ばれた8人。
1人死ぬとまた1人増え、そうしてそれは今も続いている。
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「今日討伐するのはナイトメアだよ〜皆頑張ってね!」
そうやって口を開いたのは湾曲の勇士だった。
闊達な少女である。
勇士達は国家間で管理されており、しばらくの間は他国と協力して勇士を1箇所に集めようということになっていた。
この頃出てきた魔族の王を倒すためだ。
「いやお前も頑張れよ」
切断の勇士が偉そうに口を開く。
貴族なのでそれが正しいのであった。
「ナイトメアっていうと黒い馬だったか?」
防護の勇士が首をかしげながら言う。
彼は聖職者だ。しかしあまり真面目ではないらしい。少し着崩していた。
「そうね」
興味がなさそうに遠い目をしながら刺突の勇士が言う。
何も言わなければ貞淑な淑女といった様相だ。
「……殲滅と追憶は呼んでこなくてよかったの?」
体の大きい殴打の勇士がそう言った。
殲滅の勇士と追憶の勇士は自身向きではないと、この場にはいなかった。
「仕方ないだろ、来なかったんだから」
「……ルカ」
「はあ?俺が悪いのか?」
「いや違う。ほら、前」
ナイトメアだ。
悪夢を見せる黒い馬。
「……。俺とは相性が悪そうだな」
幻想でできた黒い馬。いかに“切断”が強力でも不利なことに代わりはなかった。
「僕との相性も悪い」
「あー、じゃあ私かー?しょうがないなー!!いっちょ行ってやるぜ!!」
「時間稼ぎがいるんじゃねえの」
「そんなことは分かってる」
その瞬間空気が凍った。
意図せず防護は湾曲の地雷を踏み抜いた。
「いや、オレは…」
「来るよ!!」
避ける。
しかし、避けれず取り残された少年がいた。
「ちっ、役たたずののろまめ」
「そう言うなって、ほら傷はすっかり元通りだ」
その少年は帰路の勇士だった。
「ははは、囮にでもしなよ?そんな薄汚れたガキ」
「まあ、それくらいしか役に立たないしな」
「ルカがそう言うなら」
「ええー…ほどほどにしてくれよな。オレそれまだ使いたいんだわ」
「汚いことを言わないでくれるかしら」
そんなことを言いながら、勇士達は話をまとめる。
少年を囮にすると。
少年は傷ついていく。
それを踏み台にして切断の勇士がナイトメアにきりかかる。
殴打の勇士がそれに続く。
防御の勇士が盾をかまえる。
湾曲の勇士が札を取り出す。
そうして“湾曲”した。
ナイトメアは掻き消える。
そうして少年も。
───────“回帰”