第6話 TS
小鳥の囀りが聞こえる。
カーテンが無いため日差しが直接顔にあたり、思ったよりも早く目が覚めてしまった。
眠気的には二度寝したいが、二度寝すると遅刻しそうな、もどかしい時間だが、ここは勢い任せに起き上がる。
「よし!やるぞ!」
別に無理矢理テンションを上げているわけではない。散々文句を言ってはいたが、社畜ばりの仕事の多さが嫌なだけで、殺すのが嫌なわけじゃないんだ。
時計を確認するが、まだ朝の5時40分。
早過ぎると思われるかもだが、色々確認が必要なので、これぐらいがちょうどいい。
最初の確認はっ───バッと、勢いよく服を脱ぎ捨て、鏡の前に立つ。
「最悪だ……」
やっぱりな……。どうりで、声にも体にも違和感があると思ったよ。
お前らは、今の状況に?を浮かべてると思うが、俺の行動にもちゃんと意味がある。
とりあえず。この前話しきれなかったルールの話をしよう。
ルールの一つが、今俺が確認したことだ。
まず、他作品に入り込むこと。これがそもそも異常なことだ。
そんな異常事態が起きると、作品はその異常の原因を無くそうと、他作品からきたキャラを自分の作品のキャラとして消化する。
最初は驚いたが、毎回のように見た目が変わるので、もう慣れてきていた。
じゃあ、何故俺が違和感を抱いたのか。
俺が体に違和感を抱いた理由……いつもそこにあった物が無く、逆に今までなかった物が、ある感覚。
あの真っ白な空間にいた時の俺とは、声も背丈も顔も年齢も、そして性別も違う。
「おいおい……! TSするなんて、聞いてねぇぞ!」
☆☆☆
TSというジャンルは知っている。特別好きではないが、R18などにはよく出てくる設定だ。男女の性別が突如入れ替わるという、本当に一部の人間に刺さるジャンル。
まさか、自分がTSするなんて、思いもしなかったぜ……
「てか別に、TS好きなやつでも自分がなって嬉しい奴なんていねぇのに、好きでもない俺がなって嬉しいと思うか普通?!」
鏡の前に立つ少女をクソ女神に見立てて、罵詈雑言を吐き出す。
はぁ、こんな事してたら遅刻するか……
愚痴は、「この仕事が終わったあとに言いたいだけ言ってやろう」と考え、とりあえず勉強机の上に置いてある紙を手に取る。
これは、この世界の報告書だ。
今の俺の身長や体重に、生年月日などの大雑把なプロフィールから、一人称や喋り方などの、細かい設定も書いている。
簡単な世界観の説明。
国の名前。
地域の名前。
通っている学校や会社。
親や友人などの周りのプロフィール。
主人公の大雑把なプロフィールなど。
まるで、ゲームの攻略本のように、この世界ことについて事細かく書かれているため、俺たち殺し屋にとっては欠かせない物だ。
俺はラブコメ世界が担当なので、たまにある近未来な世界などの、現実世界とは異なった世界観などでも無い限り、報告書も数枚程度で済むのだが……メリーの話によると、異世界は世界観が、特殊な作品が多くて、数十枚が普通、3桁に行くこともあるらしい……
「時間も無いし、一通り演じるキャラの練習をしないとな」
瞬間記憶とまでは行かないが、ある程度の記憶能力には自信がある。
ということで、報告書から大体の情報は読み取れたし、暫くは俺……サトウもとい、私『不知火誠』という名前で、過ごすのでよろしく頼む。
てか、こいつって、まだ中学2年生だったの?! 別にラノベでよくある、美少女ってほどではないけど、案外顔整ってるし、妙に大人びてる感じだから、てっきり高校生かと………
「最近の中学生って、こんなに発育が良い物なのか?」
JCの物とは思えないような、胸の膨らみを思わずガン見して揉んでみるが、なんだか犯罪臭がしてきたのと、自分の理性が、元に戻れなくなる前に、元の話に戻るとしよう。
これが、TSか──なんて恐ろしいんだ……
「よし! 情報は全部頭の中に叩き込んだし、学校に行くかな」
今の時間は、7時ちょうど。
後やることがあるとすれば、朝ごはんと身支度ぐらいだし、そこまで焦る必要もない。
「女の体か……まだ、流石に慣れねぇが、少し楽しみだな」