第2話 いつも通りの日常2
──午後8時過ぎ
電車を乗り継いで行き、予約している旅館に着いたので、荷物を置いて一息する。
「思ったより、時間かかっちゃったなぁ」
「お昼軽かったし、なんか食べに行こうよー」
「もうすぐ夜ご飯だから、我慢してくれ…」
「む〜……仕方ないなぁ、もう……」
「何か俺が、悪いみたいになってる?!」
そうして談笑していると、雫が『仕方ないから、空腹を紛らわすために旅館を回ろう』と言ったので、旅館の施設を回ることにした。
だから何で、俺が駄々こねてるみたいになってるんだ……
旅館の施設を一通り見て回ったが、本当に皆んなが、旅館の施設を頭に浮かべてみると出てくるような普通の旅館だ。
まぁ、俺としては変に変わった旅館よりも、普通な方が良いのでありがたい。
雫は、そんな俺の反応とは違って、見るもの全てに興味津々だった。
「見て龍くん!露天風呂だよ!映像でしか見たことないから、憧れてたんだ!」
「料金は高いが、個室で正解だったな。時間を気にせずにゆっくり入れるぞ」
「見て龍くん!卓球台があるよ!私やったことないけど、龍くんはある?」
「小学生の頃ちょっとだげで、ほぼ初心者に近いが、ルールは、ある程度覚えてるから後でやってみるか」
「見て龍くん!明後日のお昼から近くの海でお祭りがあるんだって!」
「最終日の予定は決まってなかったし、昼からなら行ってみても良いかもな」
「見て龍くん!カラオケだよ!」
「いや、カラオケはいつも行ってるよね?!」
「見て龍くん!自販機が10台もあるよ!」
「雫……もう言うことないなら、無理矢理続けなくて良いんだぞ」
ある程度旅館のなかも見終わり、そろそろ部屋に戻ろうとすると『ちょっと、お手洗いに行くから先に戻っててもいいよ〜』と雫に言われたのだが、寂しく一人で戻るも嫌で、『待ってるよ』とだけ伝えて何の気無しに外に出る。
もうあたりは暗くなり気温も下がって肌寒い。
出たのは良いものの、やっぱり雫が来るまで中で待ってようかな。
そう、震えながら踵を返すと、視線の奥に見覚えのある人物を見つけた。
「え……もしかして、健二か?!」
驚きで、思わず拍子抜けした声を出してしまったが、仕方ない。声を発した方向には、確かに俺の親友の床田健二が歩いていた。
「お、おう、まさか龍太がいるとは、偶然にしちゃあ出来すぎだな」
俺の声が聞こえたのか、小走りでこっちに来て、そう言う。
こんな所で健二と会うとは、健二が言った通り偶然にしては出来すぎだと思う。コンビニの袋を持って急いでる感じだが、どうしてここにいるんだろうか。
「あぁーなるほど。もしかして、旅行中だったか?それならすまん!ちょっとお邪魔しちゃったな」
何かを察して、デートの邪魔をしたと思ったのか、手を合わせてごめん!と謝る。
こっちから呼び止めたのに、こういう時に機転が効くのは流石だと思う。
「俺が先に声をかけたんだし、別に気にすんなよ。それより、健二は何しに来たんだ?」
「俺はちょっと、婆ちゃんの家に行ってるんだ。そしたら、『着いて早々悪いんだけど、ちょっくらお使いに行ってきてくれんか?』なんて言われてさぁ、アイス買っていいよ。って言うから渋々買いに行ったんだよ」
急いでいるのは、アイスが溶けないためなのか? 今の季節と時間なら、そんなに急がなくても、アイスは溶けないと思うんだが。
「それより、びっくりしたのは俺の方だよ!まさか、昨日今日の話で旅行に行くなんてびっくりだぜ!」
「あはは……雫も喜んでたから良かったけど、ちょっと自分でも、はしゃぎすぎたなって思ってるよ」
肩を叩きながら笑う親友につられて、思わず笑ってしまう。
あと力が強すぎて、肩痛めそうだから叩くのを一度止めて下さい健二さん。
「ここで会ったのも何かの縁だし。ここは龍太の親友である俺が、直々にアドバイスをしてやろう」
「何だか、言い方が鼻につくが健二のアドバイスなら聞こうじゃないか」
そう、こいつは俺と違って普通にモテる。
コミュ力も高いし、イケメンだし、身長高いし、性格良いし、運動神経も良いときた。ちょっと頭は悪いが、女子の間では『逆にそこが良い!!』みたいに言われてる。
これを口にすると、すぐに調子に乗るので言わない。ただ、そんなモテ男な健二からのアドバイスは、恋愛経験のない俺にはありがたい。
「アドバイスと言っても、別に大したもんじゃないけどな」
「急に保険かけんなよ」
「龍太はコミュ症で陰キャだから、必然的にアドバイスの幅も狭くなるんだよ」
「グハッ………」
アドバイスって言われてノーガードになってた所に、突然ストレートパンチを入れられたんだけど?!
「それで、アドバイスっていったい何なんだよ?」
「旅館を出て、すぐ左に真っ直ぐ進むと海があるだろ」
「あぁ、明後日から祭りがあるらしいね」
ちょうど祭りのポスターを雫と見ていたので、海の存在は知っているが、アドバイスって?
「祭りも確かにデートなら定番だ。だが、それよりも先に、お前はやることがあるだろ」
「やること?」
「告白だよ!」
「え?」
想像していた事と違い目を丸くする。
「もうすぐお試し期間終わんのに、いつ告白する気なんだよ!」
そうだ。完全に忘れていた。俺はまだ、雫と正式に恋人同士な訳じゃないんだ。
「告白か……」
「俺からしたら、あそこまでラブラブで、まだ告白すらしてないことにびっくりなんだけど」
「でも、告白なんて俺に出来るか?」
俺が自信なく吐いた言葉に、健二がはぁ……と、ため息をつく。
「そうだろうと思ったよ。──なら今日の夜だ!」
「え?」
「今日の夜。告白をしてこい。」
「はぁぁぁぁあ?!」
健二の言葉に驚いて大声を出してしまい。従業員さんに見られ、恥ずかしくなり小声で話す。
「お前っ……そんな無茶言うなよ」
「無茶じゃねぇよ。後回しにしてないで、勇気を出せ!」
「──分かった。ただ、どうすれば良いんだよ、告白なんてなんてした事ないぞ?」
「だから、俺がアドバイスをするって言ってんだよ。いいか?まずだなぁ───」