第1話 いつも通りの日常
俺の名前は須賀龍太
特に紹介できるような趣味も特技もない普通の高校生だ。
両親が毒親で、逃げるように遠くまで一人暮らしだ。仕送りなんか来るわけも無いので、学校が終わったらバイト尽くめ。
学校でも、陰キャもコミュ症も関係なく。
こんな時期に転校してきたら友達なんて出来るわけがない。実際、友達も片手で数えるぐらいしか居ない。
………もう考えてるだけで涙が出そうな人生だが、そんな俺にも、神が振り向いてくれたらしい。
俺の転校してきた『品良川高校』には、100年に1人と言われるほどの美少女がいる。
ーー神巫雫。しなやかなロングの黒髪に宝石のような黒目を持つ。街を歩けば、老若男女問わず、誰しもが振り向いてしまうほどの美貌とプロポーションを持った少女。
それでいて性格も良く、見た目とは裏腹にクラスメイトとも、とても気さくに話し友達も多いと来たもんだ。
まさに神が丹精込めて作った《最高傑作》と言っていい。
俺みたいな陰キャのコミュ症からしたら、オーラだけでアースジェットの放送禁止cmのように消し飛ぶような、まさに生きる次元が違う存在。
転校して同じクラスになってからも、絶対に交わらないだろうと………思っていた。
☆☆☆
ピピピッ。ピピピッ。
アラームの音で目を覚ます。
時間は朝の5時30分。
まだ外は暗いが、もうこの時間に起きるのも慣れてきた。
「筋肉痛。まだ治ってねぇか」
昨日は、回転寿司のバイトでセールキャンペーンだった。日曜日に人がいないからって、シフトを入れてないのに呼ばれて腕も脚もボロボロ状態だよ。
マジで、何回想像のなかで店長を殺したことか。
無限に出てくる愚痴を止めて、ベッドから起き上がり家事を始める。
☆☆☆
一通り家事を終わらせ、身支度を始める。
朝ごはんは? 何て思う奴もいるかもしれないが、食べる時間も無いのでいつも無糖のR1一本で済ませる。
まあ、もう少し早く起きれば食べる時間も出来るだろうが、そうすると本格的に俺が死ぬので仕方ない。
「いってきまーす」
「おはよう龍くん。今日は、マフラーを付けてるんだね」
「おはよう。温暖化のせいで、急に寒くなったからな」
玄関を開けると、転生物の女神のような美少女がはにかんだ笑顔で立っている。
最初に言った100年に1人の美少女。神巫雫は俺の彼女だ。偽の彼氏とか、罰ゲームとかでもない正真正銘の本物の彼女。
どうしてこうなったのか、それはある日のこと…………何て、回想にすると長くなるから、簡潔にまとめると。
1ヶ月前。転校してから初日で『私は、あなたに一目惚れをしました!私と、結婚を前提に付き合ってください!』と放課後に告白された。
俺も最初は、何かの罰ゲームだと思っていた。ここは一旦、1ヶ月お試し期間として恋人になる。と言うことで話を終わらせた。
何なら、あの突然の告白の時よりも、最近愛が重すぎる気もするが……まぁ、ちょっと重いぐらいが、女の子は可愛い。ってどっかで言ってたし、実際可愛いから別に良いだろ。
「昨日の夜。龍くんとの旅行が楽しみすぎて眠れなかったよー。えへへ」
「俺はバイトのせいで熟睡だったけどな……。
でも、俺も楽しみだよ」
昨日の学校で、俺の唯一の親友である。床田健二が『明日から秋休みだし、雫さんと旅行でも行けば?』と言ったので、速攻で旅館を予約して一泊二日のお泊まりデートに行くことになった。
ありがとう親友。あの瞬間俺は、お前のことが仏に見えたよ。
「………」
「こっち見つめてどうした?」
ふと横を見ると、雫がこちらを覗いていた。息が当たるぐらい近いのもあるが、自分の顔がわかるほどの綺麗な黒目だ。
「いや、ちょっと、今日の龍くんもカッコよくて……。見惚れてただけだもん!」
もうやだ。今すぐ抱きしめたいだが、少し顔を赤らめて、そんなことを言われたらリアルに吐血する。だが、こんな事で毎回抱きしめていると、いつになっても旅行に行けないので腕に折れるぐらいの力を込めて止める。
まてよ?こんな可愛い恋人と一泊二日するって、俺の心は持つのか?
今になって、自分の精神が保てるのか不安になるが、何があっても傷付けるようなことがないように、仮だとしても、改めて彼氏としての自覚を持ってエスコートしなければ!