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天井裏シリーズ

天井裏は今日も凍えるほど寒い

作者: 泉川葉月

「公爵令嬢様!いい加減、罪をお認めになって下さい!!」


 若干吹雪いてきた天気に呼応するかの様に、冷え込んだ空気が漂うパーティ会場。王立学園の第二王子主催のパーティである。


 響き渡る子爵令嬢の悲痛な叫び声。


 その子爵令嬢の隣には、王国騎士団団長の次男。そして表向きは魔法科教師ということになっていたが、紆余曲折の末に素性が割れてしまっている、兄とは年の離れた王弟が立っている。


 次世代の王国の顔になるかも知れない面々が、公爵家次女に詰め寄っている、その頭上。


「今回も始まってしまいましたねぇ、公爵家次女様のところの——」

「あ、どうも第二王子殿下のところの——」


 影。


 それは王家や高位貴族など国の要人の情報を収集する諜報や、見えないところからひっそりと護衛する裏方役である。


 天井と床の間にある僅かな隙間に潜み、階下で繰り広げられる茶番劇を観察するのが今日の彼らの任務だ。


 彼らが思い出すのは数年前のこと。当時、王太子であった第一王子と男爵令嬢による公爵家長女との婚約破棄騒動。

 第一王子を唆し、その婚約者であった公爵令嬢を陥れようとした男爵令嬢は、他国のスパイであったことが発覚。第一王子は王太子の地位を剥奪。第一王子と同様に男爵令嬢に付き従った宰相家長男、騎士団長長男、そして王弟の三人は「女を見る目のない(間抜け)」として、年頃の令嬢から蛇蝎の如く嫌われた。

 その中でも特に、成人していた王弟は「生徒に手を出すロ◯コン教師」と陰口を叩かれ、社交界から爪弾きにされる顛末であった。


 それから時は流れ、今度は子爵令嬢と第二王子の婚約者である公爵家次女との騒動である。


 階下では、騒ぎを聞きつけた第二王子と宰相家次男が公爵家次女を庇う様に立っている。


「こんばんは〜殿下と〜、ご令嬢の〜——」

「どうも」

「お疲れ様です。宰相殿と——、騎士団長殿のところの——」


 影。この数年間よく顔を合わせたメンツが揃った、と言っても目元以外は頭巾に覆われているので、相変わらず互いの風貌は知らない。


 授業中、教室の天井裏から。屋外では物陰から。忙しい保護者に代わって、子供達の様子に気を配る「子供たち見守り隊」が彼らの任務である。



 子爵令嬢に話しかけた騎士団長令息が、公爵令嬢の横に移動する。


「今回の〜皆さんとの共同任務、た〜のしかったですね〜」

「良き」


 各家で分担して子爵家の闇を暴く共同戦線の任務は、彼らの記憶に新しい。


 騎士団長令息は、子爵令嬢の動向を探っていた公爵令嬢方のスパイであった。公爵令嬢を罠に嵌める為に利用していた騎士団長令息が裏切り者だったと知り、顔色が悪くなる子爵令嬢。


「王弟殿、第一王子の婚約破棄騒動の時に懲りたと思ったんですが」

「ま〜た小娘に引っ掛かっちゃったんですか〜」

「チョロい」

()がもうあいつは放っておけと仰るのでねぇ。今回も放置ですねぇ」


 主とは、国王の事である。


 公爵令嬢に何やら耳打ちされ、数年前より少し窶れた端正な顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、土下座して公爵令嬢の足に纏わりつく王弟が見える。


「ご令嬢、良〜い蹴りしてますね〜」

「最近は体術も習ってるんですよ」


 騒ぎを聞きつけて集まって来た野次馬からは見えない角度で公爵令嬢が入れた蹴りは、王弟の鳩尾にヒットした様だ。土下座の姿勢のまま伸びている。


そんなこと(阿呆王弟)より心配なのが、第二王子なんですよねぇ」

「あ〜第一王子(お兄さん)に似て、ちょ〜っと後先考えないとこありますよね〜」

「猛暑とか極寒とか。兄弟そろって極端な季節に(ゲストの事を考えない)パーティを開く時点で」

「お察し」


 次々と暴露される自身の悪行の数々に、追い詰められた子爵令嬢がしらを切り続けていると——


「王家の影を舐めないでいただこう!」


 第二王子がドヤ顔で高らかと宣言する。


「あ〜あ」

「言っちゃいましたね」

「失態」

「…あんのクソガキャア……」


 影。


 決して表沙汰にできない裏方役。

 国の中心を担う有力者にとっては欠かせない強力な私兵であり、重要な情報収集隊。だが国民には公表することのない非公式の組織。


 その存在を堂々と宣言、しかも王家の人間が発するという事。それは「王家は非公式組織を使って国民を監視している」と公言するのと同義。


 つまり——大問題である。


「とりあえず〜我々も今日は解散しますか〜」

「然り」

「一旦落ち着きましょ?ね?ね?」

「どうしてくれようあのクソ(以下自主規制)」


 影の存在を王子が公にしてしまったことで、国の重鎮である各家の主たちも対応に追われることになりそうだ。


「ひと段落したら〜また念話飲み会(リモート飲み)しましょ〜」

「愚痴聞く」

「いつもの様に音声通話のみ(sound only)になっちゃいますけど」

「グスッ…お気遣いありがとうございます…」


 グループチャット(念話)の約束をして、それぞれの影達は、己の主の所へと消えていった。


 真冬のこの狭い天井裏のスペースで、護衛対象を観察する任務は疲れる。主に節々への負担で。


 今日も狭い天井裏は凍えるほど寒い。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
王家の影さんに同情の涙がチョチョ切れました
内容は面白いけど、恋バナじゃなくて、勤め人達の愚痴の集いだから、文芸辺りのコメディかヒューマンドラマ辺りが妥当かなあと思いました。
おもしろので⭐️置いとくわ
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