表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

嘘は武器



ヒトは誰しも生まれたときには、善性を持っており社会や周りの人間が汚れているためにヒトの性質が変質していき善性が失われて、悪性が現れる 。

そんな考えがあったが、それならば原初のヒトはどのように善性を失ったと考えるのか?最初のヒトはオスとメスから始まったとすると、社会はまず形成されるはずはなく環境からの影響を受けたというのは考えられない。ならば周りの人間による影響と考えても、最初の二人は、善性しか持っていないためにお互いに悪性を与えることはできないだろう。すると周りの人間よる影響とも考えられないのでは?

ならばヒトとは生まれながらに悪性を持っているのだ。『ウソ』も『騙し』も、ヒトの本質『悪性』によるものなのだ。

そんなことを考えながら、台所に立つ女がいた。

「ふぅ...そろそろあの人を起こしにいかなくちゃ」

そう言いながら、まだ寝ている『あの人』のためのお昼のお弁当を作り終え、ゆっくりと足音一つ立てずに階段をのぼり、『あの人』が寝ている部屋の扉を静かに押す。

そこには、ひとりで寝るには広すぎるベットに、大人しく横になっている男がいた。

女はそっと男に近づき

「朝ですよ。起きてください」

と言い、男の肩を数回優しく叩くと、男は体をゆっくりと起こし、まだ開ききっていない目を擦りながら

「おはよう 真麗まりさん」と言う。

『真麗』と呼ばれた女は、男のあいさつに対して

「はい。おはようございます。あなた」

「朝食の時間まであと少しです。下でお待ちしておりますので、顔を洗って身支度を済ませておいてください」

と伝えると部屋を静かに出ていき、ゆっくり階段を降りて行った。

部屋に残された男は、手早く身支度を済ませ、階段を降りる。そのままリビングに入り、朝食が並べられる机の椅子に腰を下ろす。

真璃は男の正面に座り、手を合わせて

「「いただきます」」というと、その後二人は朝食を口に運んでいく。

先程作ったばかりの朝食だが、味噌汁だけすでに少し冷めていた。

二人が朝食を食べ終えると、真麗は男を玄関まで見送りこの

「真麗さん、今夜は会食があるから僕の夕食はいらないから」

「はい。わかりました」

そんな会話だけで男は家を出て行った。

「じゃあ、私も『お仕事』を始めますか」

そういうと真麗は朝食の後片付けを始めた。

専業主婦の真麗にとっての仕事場は、この二人で持て余すほど広い家である。しかしその仕事内容は、炊事、掃除、洗濯などの単純な家事だけではない。

慣れた手つきで家事を終わらせると、真麗は男の寝室に入っていき、男のデスクを漁り始めた。

「ここまで調べたんだ、今日こそ見つけなくては」

真麗は真剣な表情になっていた。すると真麗は、デスクのカギのかかった引き出しを開けていく。その中に真麗の探していたものが仕舞われていた。その中には、たくさんの数字が書かれた通帳と使い込まれている印鑑があった。

「やっと見つけた。」

達成感と疲労感の入り混じった声でそういうと。通帳と印鑑を素早く手に取り、部屋を後にし、近所の銀行に向かっていた。

銀行に着くと受付で手続きをはじめた。

通帳の預金残高には0が6つ並んでいた。預金の引き出しが終わると、次の銀行へと繰り返し引き出しを行い、通帳の中身をほとんどすべて引き出し終え、真麗はバックの中からもう一つの通帳を出しATMで引き出した金を別の口座に預けた。こうして『仕事』を終えた真璃は、あの広い家への帰り道を歩いている最中に彼女のスマホが鳴った。

誰からだとスマホの画面を見ると、そこには「馬場」という名前が表示されていた。

「もしもし、急にどうしたの?なんかあった?」

真麗は少し面倒くさそうに電話に出ると、スマホの向こう側から幸せオーラいっぱいの陽気な声で

「今夜、暇?空いてるなら一緒にご飯食べに行かない?」

「今夜は特に何もないから空いてるけど」

「よかったなら来てくれるってことでいい?」

馬場は少々強引に約束を取り付けようとしてくる。ここで断っても馬場があきらめないので抵抗するのは無意味であることを真麗は知っているので

「うん。もうなんでもいいよ」

半ばあきらめてそういうと

「OK!決まりね、じゃあ時間と場所は後で送っておく」

こうして真麗の今夜の予定が埋まった。というか埋められた。こうなってしまっては夜に馬場に会う前に仕事の片付けをしなくてはならない。真麗は足早に家へと向かう。

家で抜き出したものをすべて戻し、真麗は馬場と会うための身支度を始めた。

服を着替え、軽くメイク、最後に瞳からカラコンを取り出し眼鏡をかけると真麗は先程までとはまるで別人のようになっていた。綺麗に澄んだ青い瞳は黒い瞳に、後ろでまとめられていた髪は、解かれ降ろした状態になっている。ついさっきまであった明朗さがなくなり気怠いようにも見える。準備を終え、時計を見ると19時を迎えそうであった。

真麗が馬場と約束した店に着くとすでに馬場は席に座っていた。馬場は真麗を見つけて

「おーい。こっちこっち」

と呼びかけてくる。真麗は馬場の座る席へと向かい、馬場に向かい合うように腰かけた。

「で、この急な呼び出しはなんで?」

と少し冷めた声で今回の食事の目的を問おうとすると馬場は

「まぁ、いつもみたいな世間話、あんたと話したくなったんだよ」

「どうせ、あんたの旦那との 惚気話を聞かせてくるんでしょ?」

「違うって、今回は私の話じゃなくて真麗の話をしに来たの」

「私の話?あんたと話すようなことはなんもないんだけど」

「真麗。あんた、まだひとりなんでしょ?早くしないともう年齢的にも急がないねぇ」

真麗は結婚していることは周りの人間には隠しており、馬場は真麗が既に結婚していることなど知らずに

「結婚はいいもんだよ。今まではさ一人の方が楽じゃんとか、他人との生活なんて考えられなかったけど、意外といいものだよ」

と結婚の魅力を語るが、真麗にはいまいち響かない。

今までたくさんの男の人と結婚を繰り返してきた真麗はそこに特別な感情を抱けなくなっていた。

そんな真麗の無関心さは、彼女の態度にも表れてしまっていた。しかし、馬場はそんな真麗の態度を全く気にすることなく話を続ける。

「真麗 あんたどうせ自分で出会いを求めたりしないでしょ。私がいい人紹介してあげようか?」

「いや、今は他の人との関係なんて考えている余裕はないかも」

「それは、とおる君のことも関係しているの?」

透は真麗の弟であり、幼いころから両親のいない真麗にとっては、守らないといけない唯一の家族である。

「透のことは関係ないよ。」

「そうならいいけど、そういえば透君は元気にしてる?」

「透は元気だよ。最近は部活に夢中みたいで忙しくしてるよ。大学にも行きたいみたいだから・・・」

「そっか元気ならよかった。また、透くんに会いにいってもいい?」

「もちろん来てよ、馬場が会いに来てくれたら透も喜ぶよ」

馬場と真麗は、幼馴染であり、馬場は、真麗の家庭環境も理解しており、真麗が一人で家族の生活費を賄っていることを知っていた。だからこそ、真麗がずっと一人で背負い続けている現状から変わるべきだと思っていた。馬場が、しつこく真麗に結婚を勧めるのは、馬場なりに真麗のことを考えてのことだと真麗自身もわかっている。真麗はそんな馬場の心づかいには心から感謝しており、いつも助けられている。

そんな二人は、互いにその思いは腹の底に隠したまま・・・。そのあとも二人の他愛もない話が続き、気づけばラストオーダーの時間を迎えていた。会計を終え、二人は店の外に出た。

「今日はありがとう。いろいろ話聞いてくれて」

真麗は、馬場に感謝を述べた。

「大丈夫だよ。私たちの仲なんだからさ。また都合がいいときにでも話聞かせて」

そう言って馬場は真麗からの感謝を受け取った。

真麗は馬場と別れ、今後のことを考えていた。

(今回の仕事は無事成功に終わったし、次のターゲット探しと、今の旦那ターゲットの後処理はどうしようか。)

真璃は仕事で今まで数多くのターゲットを相手にしてきたが、ターゲットの処理をすることが一番大変であった。

(旦那の浮気の証拠を偽装する。DVの証拠を偽装する。突然行方をくらませる。)

真麗は現実的なアイデアが思いつくことないまま、気づけば家の前までついていた。家の明かりはまだついておらず、真麗は旦那がまだ帰宅していないことに気づき、安心して家の扉を開けようとすると、鍵が開いていた。真麗は恐る恐る扉を開けて、家に入るが家の中はやはり明かりがついていなかったが、おかしいと思った真麗は、家に上がるために靴を脱ごうと足元に視線を下したときに、旦那の革靴と見慣れない靴があることに気づいた。その瞬間に真麗は今回は悩むことなくスムーズに進みそうとわかると自然と笑ってしまっていた。普通の夫婦は、浮気に気づいてしまった場合は感情的になるのだろうが、真麗は普通でない。真麗の歩く速度は速くなるが足音を一切たてずに旦那の部屋まで行き、扉を静かに開けると、あの広いベットで旦那と見知らぬ女がいた。

「何してるんですか?」

真璃は大声をあげ、ひどく動揺してみせた。その声を聞きベットのふたりは慌てた様子で振り向く。

「真麗さんどうしているんですか?」

「私の住む家に私がいることに問題がありますか?」

真璃は感情の籠っていない声でそう言った。心の奥底は隠したまま・・・

「私はこの人とは話すことができたのでお引き取り願えますかね?」

真麗は、冷めきった声で旦那が連れていた女にそう言う

女を帰したあと、真麗と旦那の間にはしばらくの沈黙が続いた後、真麗が口を開く。

「さっきの女性とは、どんな関係なんですか?」

「仕事で出会った人です」

「私よりきれいな人でしたよね。やっぱり私不愛想すぎましたよね」

「いや・・・そんなことは」

「私は、あなたが私よりもさっき方を選ぶのを止めることはありません。きっと私たちの間にすでに『愛』なんてなくなっていたんでしょう」

真麗は、やんわりと夫婦関係を終わらせることを伝える。

それを聞いた真麗の旦那は、返す言葉が見つからず、受け入れることしかできないようだった。

「特に異論がないのであればすぐに話を終わらせて、手続きを進めたいのですが」

「わかりました。僕から反論することはありません。」

旦那は、すべて諦めた様子で答えた。

「では、早いうちに済ませてた方がいいでしょう」

翌朝、真麗はいつも通り朝食を作り旦那を起こしに行く。昨日の朝と変わらない様子で朝食を済ませ、真麗は旦那を仕事へと見送る。真麗は旦那がいなくなった家から自身の私物をまとめて、荷造りを始めた。元より私物をあまり持っていなかった真麗は、すぐに荷造りが終わり、弟の住む家へと荷物を送る準備を整え、役所に書類の提出に向かった。何度も離婚をしている真麗にとってはこの手続きさえも慣れた作業のような感覚になっていた。書類の提出を終え、透の住む家へと帰った。

「ただいま」

「おかえり姉さん。今日からまたお休み?」

「そう、今までやってた仕事が終わったから休みもらって帰ってきたよ」

「どれくらい家に居られそうなの?」

「急用が入らなければ、しばらくは居られるよ」

「よかったぁ、久しぶりに姉さんの料理を食べたかったし、また一緒に遊びたかったからさ」

真麗は台所に立ち、透と自分の夕食を作り始めた。味噌汁に生姜焼きという至って普通のメニューだが、久しぶりに姉の手料理を食べる透にとっては特別に見えるだろう。

二人は、向かい合うように座るとテーブルに並べられた料理を食べ始めた。

「そういえば、馬場がまた透に会いたいってよ」

食事中に真麗は先日のことを思い出し、透に話した。

「馬場さんと会ったんだ、僕も久しぶりに会いたいかも」

「馬場の予定が合うときにでも、うちに来てもらおうか」

二人は来る日に期待をしつつ、食事を終わらせた。

「最近、学校はどう?勉強とか部活とかの調子はどうなの?」

真麗は、台所で洗い物をしながら透の近況を聞こうとした。

「最近やっと、レギュラーメンバーに選ばれて順調にいってるよ」

「そっか、頑張ってたもんね。よかったじゃん、部活は順調にいっているようですが、勉強の方はいかがでしょうかね透さん?」

真麗は、ふざけたような聞き方をした。しかし、真麗はなんの意味もなくふざけているのでは無く、学生にとって『勉強』という言葉はどうしても気持ち良いものではない。だからこそ、真麗から透に勉強のことを聞くとには、少しでも軽い気持ちで話せるようにと気遣っての事だった。

その効果があってなのか、透は友達と愚痴を言うように真麗に聞かせる。

「来週試験があるから、マジで勉強大変なんだよね。しかも今回の試験の範囲がバカみたいに広いんだよ」

「お姉ちゃんは透ほど頭が良くないから、教えてあげることはできないけど、手伝って欲しいことあったら何でも言ってよ」

「ありがとう姉さん。また、なんかあったら頼らせてもらうかも」

そんな会話をしている間に、真麗は食器を洗い終えた。透が自分の部屋に戻った後、真麗は自室で明日からのことを考えていた。いつから次を始めるか、次の相手探しをどうするか。考えなくてはいけないことは尽きないが、久しぶりに家に帰って弟の様子を確認できた安心感からか、気づけば真麗は考えることをやめ、目を閉じて眠っていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ