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「翠さん」
ズルがしっかりとした様子で聞いてきた。
「少し教えてください」
「はい」
「その……翠さんの国の古代の神話ですが」
「うん。古事記っていうの」
「それはどのくらい信憑性のある記録なんですか?」
「うーん、神話のお話だから……実際にそのときに記録されたものではなくて、お話として伝えられたものを、その後の時代にまとめられたものだったと思う。だから歴史の記録としてはあまり信憑性のあるものではないわ」
「なるほど……古事記に書かれているストーリーは、今僕たちがやって来たこの土地、この時期だけのものですか?」
「いいえ。古事記は世界が作られた創世の話しから宙皇の……たしか三十代くらいまでが書かれているの。えーと、こんな時にスマホがあれば細かい年も分かるのに……」
「スマホ……あの機械のことですね」
「うん。ああ、でも持ってこれたとしてもこの時代にはインターネットがないからだめか……」
「ふふふ、情報網のことかな。そうですね」
「天界の時代から、だいたい千四百年前までのことが書かれていると思う」
「僕たちが来たこの時代は、だいたいでいいんですがどのくらい前のことだと思いますか?」
「古事記のはじめのほう。古事記を信じるなら三千年前くらいなんでしょうけど、だいぶ盛っていると思う」
「盛っている?」
紬が不思議そうに聞いた。翠が苦笑しながら答える。
「神話だからね。より古くから宙皇家が続いているって書いた方がありがたみが増すでしょ?」
「宙皇家の人がそれ、言っていいのかな~」
「ふふふ。そうだなあ、三千年前ってことはないと思う。私はある理由から千八百年前くらいって思っているんだけどね」
「翠さんの推定も何か根拠がありそうで興味深いですね……ですが今は時間がない。翠さんの想定の千八百年前ごろということで認識しておきます」
ズルはそう言って少し考えてから、
「では翠さんが行ったあの勾玉を使った儀式。それで魔法契約が発動したわけですが、それでこの時代への道が開いたことの理由に心当たりはありますか?」
と問うた。
翠はそう聞かれて困ってしまった。何しろ儀式を行いはしたけれど、効果は精神的なものだろうと思っていたし、魔法契約の発動なんてものは想像外だったのだ。
だが、今はあえてその理由について推測してみようと翠は思った。
「これは……私がこういうことかなって思うだけなんだけど……」
「今は推測でも良いのでお聞きしたいです」
ズルは翠が考えを言いやすいようにそう促した。
「私が願掛けを行った理由について話したでしょう?皇統断絶の危機にあって、皇位継承は男系男子っていうのが今の決まりなの」
ズルと紬は頷いた。
「その決まりとか、皇統そのものを知るにはルーツであるこの時代に来るのが、考えてみたら一番良いと思う」
「うーん、なるほど!」
ズルは膝を叩いた。
「それに、不思議に思うかもしれないけれど……」
ズルは首を傾げて翠に先を促した。
「昼孁と呼ばれる、おそらくは天照大御神と言われる最も偉い神さまなんだけど、それは女神として伝えられているの」
「えっ」
紬が驚いた声を出した。
「あれだけ男の子のさらに男の子を王様にするって拘ってるのに、一番大元は女ってこと!?」
翠は苦笑しながら頷いた。
「それは興味深いですね。確かに実際はどうだったのかを知ることで翠さんの今後にも役立てられそうだ」
「言い伝えでは、アマテラス神の孫、その人は男性なんだけど、天孫降臨と言ってその人が地上に降ってからは男性の系譜で続いていくの」
「ふーん。でもでも、元を正せば女神さまなんでしょ!その昼孁って人に聞いてみよう。女系でも王さまになっていいかって。私が女だから言うわけじゃないけれど、別にいいんじゃなかなって思うもん」
無邪気な紬の言葉を聞いて、翠は抱きしめたくなるほど可愛いと思った。
「そうだね。聞いてみようか」
翠は紬に微笑んでから続けた。
「あと、もう一つ話しておきたいことがあるの。ズルは気づいているかもしれないけれど……」
「根子さんのことですね?」
ズルは即答し、翠は頷いた。