表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/68

迷宮脱出

♦︎


「それにしても…何か違和感が残ったな…。私たちの得体の知れなさの演出は戦力未知数という抑止力として働いていたとは思うけど、それ以外にも敵対したくない理由でもあったかのような…稀人とかいうのも…あれはこちらの反応を見るためだった…?」


 相馬はぶつぶつと呟きながら、視線を宙に彷徨わせて思考の渦に飲まれようとしていた。


「うん、それは私も気になったんだけど…今は目の前のことをどうにかした方がいいというか…」

「……ごめん、お願いしてもいい?」


 現実逃避をしていた相馬を沙奈が引き戻したが、数瞬固まってからお手上げされた。

 沙奈は引き攣る顔で、目の前で繰り広げられる騒ぎに入り込む隙を伺う。


「私が先に行くから!みんなを犠牲にすることなんて、できない…!」

「犠牲って…人聞き悪ぃな…」

「先に誰かを行かせて、も、もし間違って変なところにワープでもしちゃったら…私、一生自分を許せなくなる…っ」

「そんなに足震わせたお前を先に行かせるこっちの身にもなれよ…」


 転送陣の傍で、千田が必死で皆に向かって演説していた。

 悲壮感漂わせた顔をして、その様はまるで死地に赴く戦士の如くだが、腕はブルブル、足は左右にガクガクと、全身を震わせている。武者震いであれば良かったのだが、残念ながらそうではなかった。


「千田のイマジネーションには、魔法の才を感じるよね」


 ふっと笑みを浮かべてしたり顔で呟く小高は徹夜明けハイになっている。


「はあぁぁッ」


 気合いを入れた千田の体を包み込むように凍てつく冷気が吹き荒れた。

 その眼は血走って覚悟ガンギマリだ。


「その力、探索初日に見たかったぜ…」


 鏑木はもはや諦念に達したかのような心持ちでそれを見守っている。


「危険だからこっちには絶対近寄らないでね!別のものが入り込んでワープするとめちゃくちゃヤバいことになるからっ」


 千田を取り巻く冷気はどうやら防波堤や浄化のつもりのようだ。


 だがその後ろをすっと沙奈が通りすぎて、静かに魔法陣を起動させた。


『あ』


 沙奈の姿が消えたのを見て周囲からは声が漏れたが、千田はそれどころではなくて気づくような気配はない。


 程なくして同じ場所に沙奈の姿が現れた。その場をそっと離れながら腕で丸を作っている。問題ないというサインだろう。


 千田劇場はいよいよ佳境を迎えている。


「みんな…今までありがとう。私は先にいくけど、あとはよろしくね。紬希、確認だけお願いね…」


 魔法陣のエリア内に入った千田は、冷気で髪を揺らしながら目に涙を溜めて相馬を見つめる。


「あ…うん」


 聴衆と化していた相馬は思わずそれに頷き返す。〈念話〉が届けば生きているという証になるので、千田が消えた後はそれを試せという意味だろう。


「…じゃあね。ばいばい」


 儚げな笑みを浮かべた千田の姿が消えた。


『…』


 臆病なのか勇敢なのか。

 何とも言いがたい微妙な空気が流れて辺りは静まり返っていたが、それに戸惑いつつも沙奈が沈黙を破った。


「……えっと…それじゃ、心配だし私も行くよ。安心させたいから一人ずつ順番に来てね」


 そして魔法陣の中で再び沙奈の姿も消えた。


♦︎


 転送された先は、鬱蒼とした森の中だった。昼間のはずだが、生い茂る木々にほとんどの日光が遮られていて薄暗く、少し肌寒い。

 王都のすぐ側にあるというのに人の手は入っていないのか、立ち並ぶ木は密集していても不揃いで、古そうな倒木もちらほらとあり、苔や雑草などの下草も多くて、見渡す限り原生林のように見えた。

 遠くの方からは鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえている。


 その中にぽつんと佇む人影が二つ。


「…大丈夫?」


 沙奈は伺うように小さく声をかけた。


 名前: サナ=ミノウ (美濃 沙奈)

 種族: ネオヒューマン

 天職: スカウト

 能力: 鑑定、収納、瞬間転移、念力、仙法、奇術

 才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気、次元、重力、通力、直感

 加護: 火神(邪)の寵愛


「あ、うん…。大丈夫だったみたい…」


 冷静さを取り戻していた千田は、頬を少し赤らめて恥ずかしげに俯いた。


 名前: アカリ=チダ (千田 朱莉)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ウォーデン

 能力: 鑑定、翻訳、氷結、毒生成、解毒、捕縛、召喚術

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、冷力、植物支配、魔獣召喚、自己回復

 加護: 運命神の祝福


 しばらく間を置いたあと、次々と人が転送されてきた。


「あ、もう落ち着いてる感じ?」


 名前: チサト=ニッタ (新田 知聖)

 種族: ネオヒューマン

 天職: シャーマン

 能力: 鑑定、収納、神霊憑依、神域、神水、巫術

 才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気、空間、神託、再生、森羅万象

 加護: 水神(邪)の寵愛


「朱莉!平気…そうだね?」


 名前: ユイ=シイナ (椎名 結已)

 種族: ネオヒューマン

 天職: クレリック

 能力: 鑑定、翻訳、治癒、回復、浄化、聖域、光雨

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、聖光、相殺、束縛、封印

 加護: 運命神の祝福


「癒される…眠い…」


 名前: ケイタ=カズサ (上総 恵大)

 種族: ネオヒューマン

 天職: アルケミスト

 能力: 鑑定、翻訳、錬金魔術、物質加工

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、錬成、冶金、合成、調合

 加護: 運命神の祝福


「…ふぅ」


 名前: ハヤテ=カブラギ (鏑木 颯)

 種族: ネオヒューマン

 天職: パラディン

 能力: 鑑定、翻訳、剣術、回避、奇襲、回復

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、不屈、俊足、心眼、防護

 加護: 運命神の祝福


「すごい…大自然だ」


 名前: レン=オオスガ (大須賀 蓮)

 種族: ネオヒューマン

 天職: マシーナリー

 能力: 鑑定、翻訳、機械創造、修理、加工

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、機械知識、機械操作、設計、整備

 加護: 運命神の祝福


「…あれ、何の鳥だろ?」


 名前: ミナト=コダカ (小高 湊斗)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ウィザード

 能力: 鑑定、翻訳、魔術創造、魔法陣生成

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、魔術知識、元素理解、多重詠唱、詠唱省略

 加護: 運命神の祝福


「もふもふ」


 名前: リオ=コクブン (国分 里桜)

 種族: ネオヒューマン

 天職: コーラー

 能力: 鑑定、翻訳、召喚術、精霊術

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、幻獣召喚、精霊理解、多重詠唱、詠唱省略

 加護: 運命神の祝福


「木、でっか」


 名前: ユウマ=ハニュウ (埴生 悠真)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ボマー

 能力: 鑑定、翻訳、破裂、爆発

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、張力、膨張、圧縮、連鎖

 加護: 運命神の祝福


「はあぁ、ついに外!」


 名前: リン=アリハラ (有原 凛)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ファイター

 能力: 鑑定、翻訳、体術、憤氣

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、闘魂、反転、崩落、上昇

 加護: 運命神の祝福


「ここが…」


 名前: サキ=アズマ (東 咲希)

 種族: 魔人

 天職: ハンター

 能力: 鑑定、翻訳、蒸発、催眠、斬撃、地図、解除

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、血気、陶酔、狩猟、把握

 加護: 運命神の祝福


「…動物の気配しかないな」


 名前: カズキ=タケイシ (武石 一輝)

 種族: ネオヒューマン

 天職: シューター

 能力: 鑑定、翻訳、気配察知、看破、遠見、投擲、狙撃、魔弾

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、感知、命中、加速、魔力凝縮

 加護: 運命神の祝福


「んー!ここにきてはじめて息吐けた気がする」


 名前: フウカ=タガヤ (多賀谷 風花)

 種族: ネオヒューマン

 天職: マジックナイト

 能力: 鑑定、翻訳、剣術、強化、弱体、解放、代償、挑発

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、増減、耐性、蓄積、保護

 加護: 運命神の祝福


「あ〜なんか空気が美味い」


 名前: カズト=ウスイ(臼井 一翔)

 種族: ネオヒューマン

 天職: テイマー

 能力: 鑑定、翻訳、使役術

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、捕獲、命令、追従、連携

 加護: 運命神の祝福


「さむい」


 名前: ソウスケ=ウナカミ(海上 蒼介)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ランサー

 能力: 鑑定、翻訳、薙刀術、弓術

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、断獄、貫通、硬直、連撃

 加護: 運命神の祝福


「へぇ…なるほど」


 名前: ツムギ=ソウマ (相馬 紬希)

 種族: ネオヒューマン

 天職: コマンダー

 能力: 鑑定、翻訳、念話、記録、設定、偽装、思考加速

 才能: 魔力感知、魔力操作、文献、走査、統率、計略、予測、並列思考

 加護: 運命神の祝福


「はぁ、やっと外に出られたぜ」


 名前: ユウト=カワチ (河内 勇人)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ウォーリア

 能力: 鑑定、収納、限界突破、豪腕、衝撃、接近、反撃

 才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気、空間、憤怒、旋風、復帰

 加護: 風神(邪)の寵愛


「…」


 名前: ナギ=キミシマ (君島 凪)

 種族: ネオヒューマン

 天職: クラウン

 能力: 鑑定、翻訳、話術、変身、糸操、撹乱、能力回復

 才能: 魔力感知、魔力操作、走査、文献、必殺、変化、裁縫、演奏

 加護: 運命神の祝福


「わ、すごい…」


 名前: ノア=シヅ (志津 乃愛)

 種族: ネオヒューマン

 天職: ガーディアン

 能力: 鑑定、収納、結界、反射、減衰、回復

 才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気、空間、堅守、放射、吸収

 加護: 雷神(魔)の寵愛


 騎士たちは王子と王女を伴ってまとめて転送されてきた。

 気絶していたレーメンスは自然と目醒めることができたが、アルファンは憑依が解けてまだ間もないことから強制的に覚醒させたあと回復薬を与えていた状態のため少し辛そうにしている。


 沙奈は最後の転送を確認すると〈瞬間転移〉で中に戻って転送陣の鍵を回収し、また転移で外に出てきた。これで特定されるまでの時間を少しは稼げるだろう。


「…さて。ではここでお別れですね」


 相馬がフォルガーたちに向き直って、改まった姿勢を取った。

 他の皆もそれに倣う。


「ああ。ここまで来れたのは君たちのおかげだ。本当にありがとう。…そして、我が国はそんな君たちに取り返しがつかない事をしてしまった。謝罪の言葉だけで済むことではないが、それでもきちんと謝りたい。本当に申し訳なかった」


 騎士三人は礼をとったあと、腰を折り曲げて深く頭を下げた。王子と王女もよくわからないなりに合わせて頭を下げている。

 クラスメイトらはそれぞれ抱えている想いがあって複雑な顔を向けるが、相馬は苦笑しながら代表してそれに応えた。


「謝罪は受け入れます。私たちも貴方方がいなければあのまま途方に暮れていたと思います。原因となったこの国に思うところは今後も消えないでしょうが、何も知らない個人に対してまで広く恨みを持つつもりもありません。…余計に辛くなりますから」


 相馬は無理に作っていた薄い笑みが徐々に崩れて眉間に皺が寄る。声が掠れてくる。


「…そうか。我々は君たちへの感謝の気持ちを生涯忘れない。恩を仇で返すことのないよう恥じぬ生き方をすると誓う。ここでのことを口外することは一切しないし、もしどこかでまた巡り合わせることがあって助けが必要なら、その時は全力で支援させて欲しい」


 頭を上げたフォルガーの瞳は澄んでいて、力強い口調で意思表明する。その態度からは確かな真摯さが伝わってくる。


「ありがとうございます。…そうですね。また逢えることが良いのか悪いのか今はまだわかりませんが、もしその時があればお互い笑顔であることを祈ります」


 相馬はあるかどうかもわからない未来に想いを馳せる。それが不幸なことでなければ良いと願いながら。


「元気でね」


 王子ハーラルトと王女レオノーラに各々別れの言葉をかけていく。今回ここまで心を尽くしたのは、無垢なこの子たちの未来を守るためだった。


「うん。皆も元気で。色々とありがとう」

「ありがとう」


 今はただ純粋な笑顔を向けるだけの子どもたちに想う。

 国が滅ぶまで我欲に駆られた大人たちとは関係のないところで、命を大切にしながら最期の時まで生きて欲しいと。


♦︎


 フォルガーたちから先に動いて、その場を後にした。

 無用なしがらみが生じることがないようにお互い行先を伝えてはいない。


 しかしながら、魔族に伝えた捜索禁止期間である最低三日が遵守されているかを確認する必要があるため、新たに召喚した守護用の幻獣一匹が貸与された。何かあればこの幻獣を通じて伝わり、安全圏に辿り着けるまで遠隔から支援するということだった。


 彼らはやはり英雄召喚された者たちであろう。

 世情に無知で自分の能力を把握しきれていない様子ではあったが、その潜在能力はいずれも異常だった。

 ほとんどの属性の魔法を操り、見たこともないスキルばかりを目にした。精度や威力、基礎的な身体能力も常人のそれではない。

 そう遠くない将来、この世界にとって脅威となる存在になり得るだろう。


 戦力としてこのまま同行してもらうことは頭を過った。

 だが亡国となってしまっては、全てが今さらのことだった。

 今は王族を守って逃げ延びることだけで何もかもが精一杯だ。


 物資や情報をいくらか分けたので、彼らが生き延びることはできるだろう。

 この国に恨みを持っているだろうから、せめて敵対せずに別れたかった。


 何より、彼らは帰りたいと強く願っていた。

 まだ幼さが残る若人だ。善良でもあった。


 この世界と対立することなく、故郷に無事戻れることを切に祈る。


ーーーーーーーーーーーーー>

次回、第一章改序章【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ