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探索三日目: 研究施設

♦︎


「ねぇ、ちょっと待って」


 後ろの方にいた沙奈が声を上げて、皆を呼び止めた。


「今気づいたんだけど、あそこ、まだ中を見ていないっぽいよ」


 中を確認した扉は、それと分かるように全て開放するようにしていた。直線になっている見渡しの良い通路の後方をよく見ると、かなり先の方で閉まったままの扉が一つあった。


「あれ?おかしいな…」


 東のマッピングはさらに改良が重ねられて、一度通ったことのある場所を塗りつぶすことで探索状況を把握しやすいようにしていた。

 昨日から引き続き沙奈にもマップは共有している。沙奈だけ共有しているのは、その能力でこっそり覗きに行けるので、隠し扉を見つけたらフォルガーより先に中を確認しておきたいためだ。その目的はここから脱出する事とは別に、元の世界に帰る手掛かりを探すことだ。

 フォルガーには関係のないことなので、悟られないようにするため、相馬以外のクラスメイトらにもこの事は伏せて隠密に行動している。フォルガーというよりは、事の発端となったこの世界の住人は基本的に信用していないので、元の世界や召喚に関することはクラスメイト以外に明かすことはない。利用されないためにもできれば能力自体も隠しておきたかったが、共に行動するしかない状況で危険な敵がいるとなれば、目先の命を優先する他なかった。

 正し、隠密行動に関する能力だけは未だに隠し通している。例えば、マップや念話、転移能力などのことだ。特に沙奈の能力は隠密中心なので、そのほとんどを晒していない。


「とにかく戻ってそこを確認してみない?」


 東が気付かなかったのは、沙奈の能力で注意を逸らしていたためだ。今は解除しているので、確認漏れとなっていた場所が認識できている。


「単調な作業が続いていたから、見落としたのかもしれないな。そこを確認したら、少し休憩を取ろう」


 フォルガーがそう言って、ぞろぞろと皆で引き返す。東以外は特に違和感を持たれなかったようだ。


 少し歩くとその扉はあった。石扉の表面に刻まれている模様には、壺のような絵も描かれている。

 中に入ると、照明がパッと点いた。そこは広間になっていて、壁面にはずらりと棚が並んで、瓶や壺、書物などが雑多に置かれている。中央には釜戸と机がいくつかあって、机上は書類の他に瓶やすり鉢などが転がっていた。


 フォルガーはざっと見渡すと、近くにあるものから検めていく。


「ここが研究施設で間違いないだろう。ただ…どれも朽ちてしまっているな。中身もないし、書物もほとんど読めなくなっている」


 瓶や壺は割れているものが多く、書類と共に床に散らばっているものもあった。荒らされてから、随分時間が経ったという印象を受ける。


 クラスメイトらも続いて調べていくが、使える物や読み取れそうなものは特に見当たらない。


「これだけ荒れているし…ここに何かあったとしても、すでに持ち出されていそうだな」


 小高が溜め息を吐いて、残念そうに肩を落とす。


「…」


 東が沙奈をちらりと見る。目があって、小さく頷き返された。ここにある隠し扉は既に確認済みのようだ。


「あ!」


 声が上がったと同時に、ガコンと重みのある音がした。皆そちらに目を遣れば、東の足元の床に穴ができていた。


「何か触っちゃったみたい…」


 東がぎこちない動きをして台詞を棒読みする。

 あたふたと焦っているようにも見えるが、事情を知っている沙奈からすると、わざとらしい言動に見えて思わず苦笑する。


「…階段の先に扉が見える」


 フォルガーが穴の空いた床下にライトを当てて、そのまま降りていった。まずは扉に仕掛けがないか確認をする。鍵穴があるが、押し込むとそのまま開いた。


「ここも鍵が空いていたか…」


 フォルガーは少し訝しんだが、とりあえず中を覗く。特に問題はなさそうなのでクラスメイトらを招き寄せて、皆で中に入った。


「どれも状態が良いな。最近まで使われていたように見えるほどだ」


 中は居住用の小部屋と変わらないように見えた。広さは十畳ほどで、棚や机、ベッドなど、生活用の家具が置かれている。違いがあるとすれば、生活感がそのまま残っていることだ。ここは書庫や宝物庫と同じように、状態維持の魔法がかけられているのか、物が劣化していない。棚には書物や瓶が並んでいて、長机には書類の塊が乱雑に置かれていた。


「そのまま持って帰った方が手っ取り早いけど、休憩がてら、ちょっとここで見ていく?」

「そうだね。机にある書類は何かの研究資料のようだから、読んでみるよ」


 元々休憩しようと話していたのでちょうど良いとばかりに、有原はベッドに腰掛ける。小高は興味深げに資料に目を通す。

 他の皆もそれぞれ腰掛けたり、中を物色していく。ダラダラと気が緩み始めていた。


「なんかここ、すごい落ち着くんだけど。寝そう」


 有原は特に何もする気はないようで、上体を倒して寛ぎ倒している。


「へぇ。なんか凄そうな魔法薬がいっぱいある。…ぶっ」


 君島が棚にある瓶を適当に手に取って面白そうに〈鑑定〉で見ていたが、とある小瓶を見て思わず吹き出した。少し頬を赤らめながら、そっと棚に戻した。


「なになに。どうしたの…ぶふっ」

「何かあった?…」


 君島の反応が気になった埴生が、戻された小瓶を見て同じく吹き出した。側にいた国分もそれを見て、困ったように顔を俯けた。


「ふーん、何か色々あんのね。てか、媚薬って。やば」


 有原が後ろから顔を覗かせて棚を眺めれば、それを見て若干引いた。


「育毛剤…強壮剤…。ここにいた奴って、ただのキモいおっさんじゃん…」


 この部屋の主の正体を想像して、有原は完全にドン引きだ。ここが落ち着くと言っていた自分に鳥肌が立ち、ショックを受けて部屋から出て行く。国分もさりげなくそれについて行った。


「おっさんになると色々あるんだなぁ」


 埴生がしみじみと棚を眺めているのを見て、フォルガーは苦笑する。


「まぁ、ここにあるからと言って本人が使っていたとは限らない。この遺跡には貴族が多くいただろうから、研究者も大変だったろうな」

「貴族ってそうなんだ…」


 君島は我儘放題にしている貴族を想像して、絶対に関わるまいと密かに誓う。


「これ面白い」


 棚から本を手に取って読んでいた海上が、機嫌が良さそうにぽつりと呟いた。


「…ん?あーこれ、なんて言うんだっけか」


 海上の手元にある本を覗き見て河内が何かに思い当たったが、喉元まで出かかっているのに思い出せず頭を捻る。その様子を見た君島も本を覗き込み、すぐに気づいた。


「あ、これ。ゲームブックってやつだよ」

「あぁ、それだ」

「読み手の選択によってストーリーの展開と結末が変わっていくんだよね。自分で物語を進めていくワクワク感が堪らなかったな」

「じーちゃんの部屋にあったやつで、昔遊んでたっけ。懐かしいな」

「“さあ、ページをめくりたまえ”」

「それそれ。まじでのめり込んだわ」


 君島と河内が笑い合いながら、幼き頃の思い出に暫し浸る。


「へー。それはどんな内容なんだ?」


 興味を持った埴生が海上に尋ねた。


「迷宮から脱出する」

「え?」

「今、死んだ」

「…え?」

「やり直し」


 —-ガタンッ


 音がした方に顔を向けると、机の下で蹲る小高がいた。


「…うっ」


 その顔は真っ青で、吐き気を催しているようだ。


「大丈夫?」


 新田が心配そうに小高の背中を摩る。


「…うん、ごめん。ちょっと気分が悪くなって…」

「とりあえずこれ飲んで」

「…ん。ありがとう」


 新田が能力で水玉を出して小高に飲ませた。

 机に散らばった資料を見る。


「何か、わかった?」


 顔色が少し戻った小高が立ち上がった。


「…少しね。ここのセキュリティシステムのことが書かれていた」


 ぽつりぽつりと、小高は読み取った内容を語っていった。


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