くだらない
♢
—-ゴゴ…バタン
辺りは濃い闇に覆われている。
乱雑に置かれた様々なものが見える。
どれも朽ち果てており、使い物にならないだろう。
「…」
薄気味悪い場所だ。
目の前にいる存在が、それを助長している。
「カカカッ」
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名前: 無名の不死王
種別: ロード
分類: スケルトン
系統: アンデッド
魔法: 闇属性
能力: 魔物召喚、闇魔術、邪術、呪術、魔法解除、即死、錯乱
耐性: 物理、全属性魔法、状態異常
弱点: なし
装備: 屍のローブ、死の大鎌
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眼窩から覗く青火が怪しく揺れている。
——こそ泥が。始末してくれる。
——へぇ、まだ自我が残ってたのね。
——お前、何者だ。
——どうでもいいでしょ。あなたはイェルカーね?
——魔族の手先か。
——違うけど。ああ、でも。あなたの子孫、その魔族に殺されてたっけ。一族も、この国も滅んだ。ご愁傷様。
——そのような戯言、信じぬ。
——そういえば、王族の子だけまだ生きてたな。どうしてくれようか。
——貴様。それ以上の侮辱、許さぬぞ。
——ふふっ…そう、やっぱりね。
——我らの復讐、悲願。永劫、潰えることはない。呪い尽くしてやる。
——復讐、ね。される側になってみる?
空間が捻れるように一瞬歪み、空気が張り詰める。
神域が展開された。
これであいつはもうここから逃げられない。
「カカカカカカカカカッ」
喚くように顎を動かしているが、骨が喋れるはずもない。
「うるさい」
何かしようと動いているが、関係ない。
自分の瞳に熱が集中しているのを感じる。
空間に亀裂が入った。
ヒビが広がり、大口を開けたような穴がアレを呑み込む。
穴を塞いで、この世から魂ごと存在を抹消する。
虚無の世界で怨嗟したまま永劫の時を過ごせ。
「…」
辺りを見回して、目的の扉を見つける。
鍵を使って中へと入った。
室内を漁る。あった。
「…」
私は将来を台無しにされた。
これまでの十六年間は、何だったのか。
通いたい大学があった。
なりたい職業があった。
恋愛して、結婚して、家庭を築いて。
苦楽を経て、最期は家族に看取られる。
そんな、ごくありふれた人生を歩むはずだった。
既に私は死んでいて、ここが六道のどこかであれば、まだ話は分かる。
未知の世界。
そんなもの、誰が望む。
私は生きていて、これからも生きる。
この世界で?
なぜ。どうして。何のために。
悪霊にまで、取り憑かれた。
一体、私が何をしたと言うのだろう。
こんな目に遭うほどの業を背負っているとでも言うのか。
「…ふ」
手元の小瓶を見つめる。
中には黒いモヤと共に、微生物が蠢いている。
これが悲願とは、嗤わせる。
魔族を憎み、挑んで、負けて。
何千年と同じことを繰り返して、また、敗北した。
そうして辿った果てに、何があるというのか。
結末は、何の因果もない私たちだけが、取り残されただけ。
「…くだらない」
手に光明を集束させると、小瓶が消滅した。
この場の空間を包み込むようにして、光の慈雨で瘴気を洗い流す。
出口に向かい、最後に振り返って室内を見渡した。
「復讐か。それもいいかもね」
全てがもう、どうでもいい。