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探索一日目: 彷徨

 戻ってきたのか、似たような新たな分岐点なのか。

 目の前の光景に、一同は呆然と立ち尽くす。


「入った先、間違えてた…?」

「いやそんなはずは…ここはさっきの場所か?」

「…そのようだな。昨日の血痕が残っている」

「どういうことだ?唯一通ってなかったもうひとつの道と繋がってたとか?」

「ほとんど真っ直ぐで、そんなにカーブしてなかったと思うけど…」

「え、待って…だとしたら、広間はどこいったの」


 フォルガーがウエストバッグからコンパスのようなものを取り出した。


「…ダメか。方位磁針が狂ってる」

「これって、さっき言ってたダンジョンってやつの仕業ですか」

「そうとしか思えないが…しまったな、こうも早く動かれるとは。少数で移動したところを狙われたか」

「…千田。そろそろ俺の腕がちぎれそう」


 千田は武石の腕により一層力を入れると、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。


「手分けしたいところだが、孤立を狙っているならそれは悪手になりそうだ。先ほどは階段がある道もあったことだし、ひとまず先へ進めるルートを探ろう」


 方向感覚が失われているので、抜けてきた出入り口に確認済みを意味するバツ印を彫り入れる。


「先に進めたとしても、誘い込みかもしれない。決して離れず、常に警戒はしておいてくれ」


 フォルガーはそう言って、正面に見える出入り口へと踏み入った。

 武石は慌てて千田を立たせると、五人は固まってその後ろに続いた。


「…武石さ。道変わったのわかんなかったの?」

「これだけ広いと難しいな。この場所全部が生き物だと言われてもいまいちピンとこないし…」

「そっか…そりゃそうだよね……うぅ…」


 千田は力なく項垂れると、しくしくと静かに泣き始めてしまった。


 どんよりとした空気が漂うも、一同は着実に先へと歩みを進めた。

 すると突き当たりに差しかかり、そこには上り階段があった。


「…このまま進む。おそらく、ここは最初に通った道だ」

「なんでわかるんですか?」

「我々は初めて入る場所に地図もなく手探りで辿ってきたからね。通った出入り口には目印をつけていたんだ。…ほら、あそこだ」


 フォルガーが指し示した先の壁には、ナイフで削ったようなバツ印がふたつ刻まれていた。


「念のため先ほども追加で印をつけておいた。私がここを通ったのは二回目ということだ。この先から変わっている可能性もあるが…それを確認するためにもまた刻んでおこう」


 バツ印を三つ並べると、皆でそのまま階段を上がって行く。

 上がったその先は開けた場所になっていて、また四方に出入り口のある分岐点だったが、先ほどまでいた場所と少し雰囲気が違う。大きな空間に何本もの巨大な石柱が立っていた。

 振り返った壁には同様にバツ印がふたつ並んでいて、フォルガーはそこに三つ目を刻み入れた。


「先ほど通ったときから変わっていないようだな。あとはここが知っている一階層かもしれないということだが…リスクを承知で行くしかないか。我々が辿って来た道を戻ってみる」


 ここがもし一階層で戻るようなことになれば、その先は城内に繋がっているということだ。すでに魔族に地下の存在が知られて捜索をされていたら、会敵してしまうこともあり得る。


「あの…別の方向に行ったほうがいいんじゃ…」

「本来ならそうしたいのは山々なのだが…ここがどこかわからない以上、何か手がかりが欲しい。一度リセットすることができれば、探索を仕切り直せるかもしれない」


 四人はそれに戸惑いながら、沙奈の方を伺う。ずっと黙したままだが、気にしていたのはこのことだったのだろうか。他に突破口があればと期待を込めたが、小さく頷き返されただけだった。


 五人はフォルガーに従うようにして後をついて行く。

 何度も分岐をして順調に進むにつれ、皆の緊張感が増していく。いよいよ出口が近いのか特にフォルガーは前方への警戒度を最大限に高めており、こちらへの意識が薄れた隙を狙って沙奈が四人に向かって話しかけた。


「…そのまま自然に。一時的にフォルガーさんの意識がこちらに向かないようにしたから。話し声も遮断した」


 それが沙奈のスキルなのだろうと察して四人はこくりと頷くと、上総が口を開いた。


「気になっていたことって、これのことだった?何かわかる?」

「ええ。ただ疑念が晴れただけだけどね。元々、引っかかってはいたの。この階層の奥までは進まなかったけど、さっきの出入り口付近までは昨日のうちに見に行ってたから。その時にフォルガーさん達どころか生物の気配すら何もなかったのに、短時間でいつの間にかあの広間まで接近されてた。それでどういうルートを辿ってきたのか確認してみたかったの。そしたら、私が通った道と同じところからあの分岐点までやってきたと言うものだから、それじゃどこかで見かけてなかったのは不自然だと思って。鎌を掛けるつもりで、適当に右に行きたいって言ってみたんだけど、あっさりそっちに行っちゃうし。で、結局真相はこういうことだったというわけ」

「…そうだったのか。それじゃもしかしたら美濃も迷って戻って来れなかったかもしれなかったんだな。構造が変わるタイミングに何か法則性でもあるのか…ただの気まぐれか…?」

「そこはまだなんとも言えないかな。私が戻って来れたのは、スキルのおかげだったと思う。あそこから抜け出せたのもそれなんだけど、一度認識した場所は自由に転移できるみたいで」

「てんい?」

「うーん…ワープ?とか、瞬間移動みたいな感じ」


 それを聞いて目を丸くする四人。


「なんだそれ。すげぇな」


 ここは本当に何でもありだなと呆れ返る鏑木。


「え、じゃあそれで私たちあの広間にすぐ戻れるんじゃ…!」


 希望が見えて、千田の瞳に輝きが戻った。


「たぶんできるとは思うんだけどね…。まだ自分だけしか試したことがないから、もし失敗したらどうなるのかよく分からなくて、ちょっと躊躇ってる。あとできればフォルガーさん達には能力を知られたくないのもあるし。だからこれは最終手段と思っておいて」

「失敗って、例えば?」

「そうね…次元の狭間に取り残されるとか、座標が狂って思ってもみないところに行っちゃう、とか…?」

「あぁ、いしのなかにいる、ってやつか」

「なにそれ?」

「父さんが昔やってたゲームに、そういうのがあったんだよ。ワープトラップに引っかかって飛ばされた先が石壁の中でみんな即死しちゃうの」

「ヒィッ…!」


 それを聞いて、千田の瞳が再び絶望に染まる。その顔は恐怖で引き攣っていて、唇がわなわなと震えている。


「…何考えてんのかしらねぇが、お前ってほんと想像力豊かだよな」


 鏑木が呆れを通り越して千田に哀れみの目を向けた。


 千田は封印していた記憶の中から、テレビの深夜放送で観たホラー映画のことを思い出してしまっていた。転送機に紛れ込んだハエと男が転送過程で融合してしまった話だ。特に実験の犠牲になった犬のエピソードは涙を滂沱しトラウマものだった。怖がりほどこういうものをつい観てしまうのである。


「あの、転移先の状況を確認してから発動するし、さすがに何かに埋まるとかはないと思う…よ」


 言いながら、目が泳いで少し自信がなくなる沙奈。座標失敗したらそういうこともあるのかと、可能性を否定し切れなかった。


「……万が一の時は、私のことは気にせず捨て置いてね…」


 千田は全てを諦めたかのような虚ろな目となって、死を覚悟しようとしている。とても気にせずにはいられない痛ましさだ。


「お前…そこまでして…」

「まぁまぁ、最終手段って言ってるんだし、とりあえず目の前のことに集中しようぜ」


 ゲームの話を出した武石は居た堪れなくなったのか、努めて明るい声を上げた。


 しばらく気まずい空気が流れたが、突き当たりに大きな扉が見えてフォルガーが足を止めた。


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