え!?
「…ちょっと、こっち来て」
「…」
怯えたように震えていたのは東だった。それに気づいた相馬は事情を聞くべく、皆とはさらに離れた隅の方へ東を誘導した。
「どうしたの?何か様子がおかしいみたいだけど」
「……あの、さ。あ、ちょっとここだけ、念話にできる?」
(これでいい?とりあえず私たち二人だけにしておいたよ)
(ありがと。あのね、私たちって、なんか種族が…人間じゃないっぽいよね?この国が戦争してる相手は魔族って話だったけど…)
(うん。なんか微妙に違うよね。ネオヒューマンってなってたけど)
「…え!?」
驚きのあまり、思わず声が出た東。その声はクラスメイトらには聞こえたのか、一様にこちらを凝視している。
(今になって、それ、そんなに驚くことなの?)
(あ…ごめん。ちょっとびっくりしちゃって…。みんな同じじゃないの…?)
(何が?…ちなみに、咲希は何だったの?)
(私…魔人って…なってたんだけど…)
「え!?」
今度は相馬が声を上げた。クラスメイトらは訝しげにこちらを伺い始める。
(え、なに。実はみんな種族バラバラだったの?ちゃんと聞いてたわけじゃなかったけど、なんとなく一緒なんだと思ってた…)
(私も…。だから驚いちゃった。さっきは、戦争相手が魔族って聞いて、魔人なんてバレたらどうなるんだろうって、なんか怖くなって)
(あ、そういうことか…。他の種族はヒューマンしかまだ見たことないから何とも言えないけど、見た目は私たち何も違わないよね?まぁフォルガーさんたちは、ちょっと彫りの深い浅黒系の外国人って感じだけど。でも、この種族って何なんだろうね…人種程度にしか思ってなかったな。他のみんなにも聞いてみる?)
(…うん。そうしよ)
二人は揃ってクラスメイトらの輪に戻ると、相馬が全員共有の念話に切り替えて話しかけた。
(ちょっと聞きたいんだけど。ステータスに種族ってあったよね?みんなは何て表示されてた?)
(あぁ、あれか。微妙に人間じゃない感じだったやつ。俺はネオヒューマンってなってたけど)
(私も〜)
(僕も。見た目は変わってないし、みんな同じじゃないの?)
次々と返答があり、結局、東を除く全員がネオヒューマンという種族だったことが判明した。東の顔は引き攣っている。
相馬は再び二者間念話に切り替えて、東を伺う。
(…どうする?言ってもいい?)
(……うん)
(あのね、咲希がさ、どうも種族が魔人になってるらしくて)
『え!?』
(…私も驚いたけど、今はデリケートだから、話は念話でしてね)
(ごめん。魔人って、あの戦争してるって言ってたあの魔族のとこの?)
(…そうみたい、だねぇ)
(それでなんか様子が変だったのか。てか見た目、全然変わらなくね?種族ってさ、何なの?)
(それね。私もその辺よく分からなくなって、こうやって聞いてみたわけなんだけど)
(鑑定によれば種族は色々あって、エルフやドワーフなんかもいるらしいんだが…てっきり、映画とかゲームのような、ファンタジーなイメージしてたわ)
(俺も。ただ、あの騎士たちと俺らじゃ、明らかに人種は違うよな?言ってもネオが付くかどうかだけだし、その程度の差と思ってたけど、俺たちは魔人寄りの外見をしてるってことか?)
(…うーん、どうだろ。最初のフォルガーさんの警戒ぶりを思うと、その可能性も捨て切れないけど…。にしてはいくらある程度予想してたとしても、どこから召喚されたかもわからない、もしかしたら魔族の国から召喚されたかもしれないのに、あまりに態度が明け透けのような…)
(だよな。たぶんあの様子だと、始めに警戒されてたのは、王族しか知らないはずの場所に、不審な人物がわらわらいたからだったと思うけど。側に遺体もあったわけだしな)
(まぁそう考えるのが妥当か。外見ですぐ判断できるのなら、見かけた瞬間に逃げるか攻撃されてたと思うし)
(そもそもさ、なんか頭から信用しちゃってたけど、この鑑定が表示する情報って本当に正しいものなの?)
(あーそれ思ったぁ。数値も全部同じで違和感ありまくりだし、なんかバグってる気がしてるんだよねー)
(話との整合性を取ると、最低でも一部は正確なんじゃないか?)
(そこ疑い出したら、もうなんもできねーよ。とりあえずさ、実際に見た種族ってヒューマンくらいじゃん?今はまだ比較するのは無理っしょ)
(まぁ、この先どうするか分からないけどさ。見た目じゃ判別できない、鑑定もできていそうにない、となれば、バレるようなこともないんじゃない?そもそも、この国にヒューマン以外も普通にいるかもしんないし)
(でも迫害とかあるかもしれないし、念のため私たちの種族については秘密にしておこうよ。違和感持たれてないなら、ヒューマンで押し通そう)
(…そうだな。こんな閉じこもった場所でもし衝突なんかすれば、お互いほぼ自滅行為になる)
(あんなに小さな子たちがいる前で、そんな血生臭い事になるとはさすがに思いたくないけど…。ここの人たちの価値観とかわからないから、警戒し過ぎるくらいが今はちょうど良いのかもね)
種族の件はこれで一旦話がまとまった。その事に考えを集中していたからか、先ほどまであった直情的な怒りは少し落ち着いていたが、流石に皆の顔が晴れるようなことはない。モヤモヤした感情を胸に抱いたままだ。
とりあえず当面はここに留まることになりそうだと溜め息を吐くと、皆ポツポツとその場に座り込み始めた。騎士たちとの距離は遠く保ったまま、隅の方で壁や柱を背にしてもたれかかったりなどして、顔だけは向き合うように、円になるような形で固まった。
(…で、これからどうする?)
(どうするもこうするも、な。ここにいるか、出ていくか、しかないだろ)
(結局また振り出しか…。もういい加減、気分的に疲れてきたな。身体は全然軽いままだけどさ)
(うん、でも、なんかお腹は空いてきた)
(それはさすがにね…。時間がわからないけど、差し込んでる陽が陰ってきているから、もう夕方くらいなんじゃないかな。誰かサバイバルとかに詳しい人いない?)
(キャンプの経験は少しあるけど、文明の利器あってこそ、だからねあれは)
(それより、自然あってこそだろ。こんな地下に身一つで潜ったまま、何ができるかって話よ)
(あーやだやだ。こないだ見たグロ映画思い出した)
(ちょっとやめて。それ以上は何も聞きたくない)
(…このチョコ、食べる?)
(ありがたいけど、それは最後まで取っておいて)
(最後とか言うなよぉ)
皆浮かない顔つきで、これでもかというくらい溜め息を吐き合った。