事情を聞く
♦︎
今この国は、島国である隣国と戦争状態にあるらしい。
魔人と呼ばれる種族—魔族—の国が攻め入って来ていて、数年に渡り攻防を繰り返していたが、ついに王都を突破されて王城まで落とされた。
王国全土はほぼ焦土と化していて逃亡先もなく、追い込まれた末に王族しか知らないはずのこの地下遺跡に隠れ潜もうとした。しかし、ここに入る前に魔族の兵隊に見つかってしまい、護衛していた他の王侯貴族や王国騎士はそこで斃れてしまった。その中でなんとか逃げ延びることができたのが、ここにいるフォルガーたちであった。
先ほど亡くなった近衛隊長はその際に既に負傷しており、魔道具と呼ばれる回復系アイテムやポーションと呼ばれる魔法薬でなんとか生き永らえていたが、ここまで持ち堪えることができなかった。
通常であればそれらのアイテムを使えば死亡するには至らないはずだったが、結果から見て、おそらく何らかの特殊な毒物や呪詛などが付与されていたのだろうと予想された。
ローブの男性—王国魔法師団のイェルカー—も同じような傷跡だったので、死因は同じだろうと思われた。かろうじてここまで辿り着けたようだが、まもなくして事切れてしまったのだろう。
イェルカーがどうやってここに入り込めたのか実際のところは分からないが、おそらく別口で他の王族に何かを託されて目的を果たそうとしたのかもしれない。それは見届けることなく終わってしまったようだが、その目的とは、状況から見て君たち—クラスメイトら—のことではないか。
イェルカーはこの国では魔導召喚の第一人者で、王からの信任も厚かった。しかし通常は、戦力になってもらう魔獣や精霊を召喚するものであり、もしこれもそうであるならば、人であるケースは初めて見たことになる。
過去には、他国で英雄召喚というものが行われていたことがあり、それは人の場合もあったと記憶しているが、それでもたったの一人だと聞く。
今回のこれがその英雄召喚だったとするならば、この窮地を救うような何か、一縷の望みを託すという意味合いがあったのではないか。
「…私から言えることはこのくらいだ。君たちに関しては状況から見た、ただの推測でしかない。ここにいる我々は何も聞かされていないし、地上、特に城内に生き残りはもうほとんど居ないだろうから、この件に関して詳しい事情を知っていそうな者の心当たりがない。もしかしたら、隊長は何か知っていた可能性もあったのだが、残念なことになってしまった」
想像を遥かに超えて、外は最悪の事態となっていた。戦争という言葉を聞いただけでも、クラスメイトの誰もが顔を真っ青にした程だ。
ここが一番安全と考えて逃げて来たとなれば、ここから動かず、このまま立て篭もるしかないのだろうか。
「見たところ、少し風変わりではあるが、君たちは普通の子供たちのようにしか思えない。我々は何を期待して、これほどまでの人数の召喚を行ってしまったのか…何をして導いてあげるべきなのかも、皆目見当が付かない。もし君たちがどこかで普通に暮らしていて突然この場に移されたのであれば、召喚というよりは拉致になってしまったのではないかと、個人的に大変申し訳ない気持ちもある」
クラスメイト一同は血相を変えていて、震える者もいる。
フォルガーはどうすれば良いのか分からず、済まなさそうな顔で少し俯くと、そのまま沈黙してしまった。
(…こんなことって、ある?)
(この人、これ以上本当に何も知らなさそう。じゃあ誰に怒って文句言えばいいわけ?誰が責任とってくれんの。誰が…元の場所に帰してくれるの…)
(無責任どころの話じゃねぇぞ。自分たちの都合に巻き込んでおいて、関係者は全員死んでるからあとは知りませんってか)
(結局なんもわかんないまま、ここでよくわかんない人たちと一緒に缶詰めになるってこと?ほんと、勘弁してよ…)
誰もが腹の虫が治まらないなか、尋常じゃないほど震えている者が一人いた。怒りからというより、怯えているように見える。
「…お話は分かりました。ありがとうございます。まずは私たちだけで、今後のことを相談し合いたいと思います。フォルガーさんたちもそれぞれ大変な状態でしょうから、こちらのことはお構いなく、ひとまずはあちらの皆様と共にお体を休めてください」
相馬は何とか声を絞り出してそう返答した。フォルガーの仲間たちは離れたところで既に休憩に入っていたので、そちらに目を遣る。これ以上の会話継続は良からぬ事態を招きそうだったので、不和が生じる前に体よく遇らう。
「…あぁ。本当に済まない。私たちはしばらくここで籠城するつもりだ。何かあれば遠慮なく声をかけてくれ」
そう言ってフォルガーはトボトボと離れて行った。
それを見届けると、相馬は東に声をかけた。