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【完結】好きな子に恋人ができたはずだが諦められないと思い告白したら、なぜか恋人などおらず無事にOKがもらえ付き合えた話  作者: アズト


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第43話 特等席

 花火が始まる時間が近づき、おれ達は早めに会場へと向かう。だが、琉奈の歩みが遅い。それが気になり、琉奈の顔を見ると引きつっているように見えた。


「もしかして、具合でも悪いのか?」


「え? ……う、ううん、大丈夫だよ」


「そうは見えないんだが……。悪いが、ちょっといいか。……これは、血が出てるじゃないか」


 もしやと思い、琉奈の足を見ると怪我をしていた。琉奈は浴衣に合わせて下駄を履いていたので、それが原因だろう。


「とりあえず、そこに座ろう」


「……うん」


 琉奈を近くに座らせて、足の傷から出ている血をティッシュで押さえる。さて、このあとどうしたものか。


「ごめんね。でも、会場までは頑張って歩くから」


「いや、無理しないほうがいいぞ」


「でも、せっかく特等席のチケットをもらったのに……」


「まあそうだが、花火ならここからでも見えそうだしな。どうしても、特等席で見たいのか?」


「……日希くんがいいなら、わたしはここでもいいけど」


 なら、琉奈の身体のほうを優先すべきだろう。そう思っていたら、誰かから声をかけられた。


「あれっ、二人ともどうしたの?」


「おお、由か。お前らこそどうしたんだ?」


「ぼくたちは花火の会場に向かうところだよ」


「そうか。おれ達は、その……」


 見た感じ、鬼咲さんはまだ由に告白出来ていないように見える。ならば、その足かせになることは避けたい。そう思い琉奈を見ると、おれの考えを理解したのかコクリとうなずいた。どうやら、琉奈も同じことを考えていたようだ。


「……ちょっと疲れたから休憩中だ。だから、おれ達のことは気にしないで会場に行ってくれ」


「うん、分かった。じゃあ、またね」


「あ、その前に鬼咲さん、ちょっといい? 日希くんも」


「どうした?」


「これ、鬼咲さんにあげてもいいかな?」


 琉奈は特等席のチケットをおれに見せてきた。確かに、このままではおれ達はこのチケットを使いそうにない。それなら、鬼咲さんの恋を応援するのに使ったほうがいいだろう。


「……まあ、琉奈がそうしたいなら、おれは構わないが」


「うん。それじゃあ、鬼咲さん、良かったらこれを使って」


「! おい、これって特等席のチケットだろ。お前達で使うんじゃないのか?」


「あ、えーっと、それは……」


 琉奈は困ったようにおれのほうを見た。琉奈では上手い言い訳が思いつかないだろうし、ここはおれが助けないとな。


「……いや、偶然もらったんだが、人の少ないところで見ようってことになってな」


「う、うん。実はそうなの。だから、遠慮せずもらって」


「そういうことならいいか。ありがとな、二人とも」


「あ、その代わり……、その、……頑張ってね」


「! おう、アタシ頑張るよ!」


 琉奈の応援で、鬼咲さんには気合いが入ったようだ。そのあと、鬼咲さんと由は会場へと向かっていった。特等席のチケットを譲ってくれた射的のおっちゃんには申し訳ないが、あの二人にだってふさわしいだろうし許してくれるだろう。


 まあ、本音を言えば、おれにも特等席に行きたい理由があったのだが、琉奈がこの状況では仕方がない。今は、琉奈の怪我のことを考えるべきだ。


 さて、こちらはどうするか。確か、近くにコンビニがあったので、そこでばんそうこうを買ってくるか。だが、なにかあるといけないので、琉奈を一人にするわけにもいかない。どうするか迷っていると、再び誰かに声をかけられた。


「おっ、日希と姫宮さんじゃないか」


「おお、龍心か」


「ん? もしかして、姫宮さん怪我してるのか?」


 恋愛マスターと名乗るだけのことはあり女性のことを気にかけているのか、龍心はすぐに琉奈の怪我に気付いた。それなら、龍心に琉奈と一緒にいてもらい、その間におれがコンビニまで行ってくる手があるな。


 だが、龍心が一人でいるということは、まだ運命に人に出会えていないか、もしくはすでに振られたということになる。そう考えると頼むのは申し訳ないんだが、状況が状況だし言うだけ言ってみるか。


「悪いんだが、ばんそうこうを買いにコンビニに行くから、その間だけ琉奈と一緒にいてくれないか? でも、迷惑なら断ってくれて全然いいから」


「オイ、日希。なにバカなことを言ってんだ」


「や、やっぱそうだよな。悪い……」


「まったくだ。このオレが、親友が困ってるのを見捨てるわけがないだろう」


「た、龍心……!」


「ほら、分かったらさっさと行ってこい!」


「ああ、ありがとな、龍心!」


 こうして、おれは安心してコンビニへと向かうことが出来た。そして、急いでばんそうこうを買ってきて、無事に琉奈の傷の手当てを終える。


「助かったよ、龍心。もう大丈夫だ」


「そうか。まだなにかあるかもしれないし、オレとしては一緒にいてやってもいいんだが。………………どうやら、恋愛マスターであるこのオレの勘が、そろそろこの場を離れたほうがいいと言ってるな」


 そう言って、龍心は歩き出す。その背中におれと琉奈は声をかける。


「改めて、ありがとな、龍心」


「迅列くん、ありがと」


 おれ達のそのお礼に龍心は言葉を返さない。その代わり、後ろ姿のままいつものようにサムズアップを決め、恋愛マスター迅列龍心はクールに去っていった。


 *****


「そろそろ花火が上がる時間だな」


「うん、そうだね」


 そのとき、琉奈のスマホが鳴った。どうやら、誰かから電話がかかってきたようだ。琉奈の顔に緊張が走っているところを見ると、重要な電話らしい。


「ごめん、日希くん。わたし、ちょっと向こうに行くからここにいてね」


「……いや、それならおれが離れるよ」


 どうやら、人には聞かれたくない内容らしい。だが、怪我をした琉奈に歩かせるのは悪いので、おれが琉奈から距離を取り声が聞こえないところまで移動した。


 それから、少しして電話を終えた琉奈から声がかかり、おれは琉奈のところへ戻る。そして、琉奈の顔を見ると、とても嬉しそうに笑っていた。


「なんか、いい電話だったのか?」


「あ、うん。前にした恋愛相談のこと、覚えてる?」


「! ああ、それがどうかしたのか?」


「えっと……、おかげさまで上手くいったよ。本当にありがと」


 そう言って、笑顔を浮かべる琉奈を見て、おれの心はズキリと痛んだ。そうか、琉奈はすでに気になる人に告白していて、その返事待ちだったのか。そして、今の電話でOKをもらったようだ。


「……そうか、良かったな」


「うん、本当に良かったよ」


 琉奈はずっとニコニコしている。対するおれの方はどうだろうか? 恐らく作り笑いさえできていない。ひどい顔をしていないといいのだが。


「え? どうして泣いてるの?」


「……えっ?」


 いつの間にか、おれの頬を雫がつたっていた。


「……あー、これは嬉し泣きだな。恋愛相談が上手くいったのが嬉しくて……」


「……嘘、全然嬉しいって顔してない」


「……う」


 まさか、琉奈に嘘を見抜かれるとはな。今のおれは相当ひどい顔をしているらしい。


「なにかあったの?」


 心配そうに顔を覗き込まれた。おれは「いや、なにも」と返そうとして思いとどまる。この状況ではどう考えても嘘だとバレるだろう。


「……あった。……けどお前には言えない。絶対迷惑だろうし……」


「迷惑だなんて、そんなこと気にしなくていいのに……」


「いや、でもな……」


「……お願いだから、なにがあったか話してくれないかな。日希くんがそんな辛そうな顔をしてると、わたしも辛いんだよ……」


 琉奈は今にも泣きそうな顔をしていた。話さなければ、むしろその方が迷惑をかけそうだ。それに、おれとしても、なにもせずに琉奈への想いを諦めるというのは出来そうになかった。


「……分かった。ちゃんと話すよ」


「……うん」


 とはいえ、どう話したものか。少し考えてみたが、上手く考えがまとまらない。仕方ない、思っていたことを素直に話そう。


「……その、あれだ。……おれはお前のことが、……す、好きなんだ」


「…………………………え?」


「でも、お前にはもう……、っておい!」


 話を続けようとしたら、琉奈は顔を真っ赤にして硬直していて、頭からは『シュー』と煙でも出そうな状態だった。


「おーい、大丈夫か」と言いながら、目の前で手を振るが反応がない。名前を呼びながら少し肩を揺らしていると琉奈は復活した。


「おい、琉奈、大丈夫か?」


「……ご、ごめん。思いもよらない内容だったからすごくびっくりしちゃって……」


「ああ、そうだよな……。悪い」


「ううん、全然。……えっと、それで返事なんだけど……」


「えっ? ああ、そうか」


 そういえば、おれが告白みたいなことを言ったところで話が止まってしまったからそうなるか。まあ、答えは分かってるんだけど。


「……えっと、……わ、わたしもあなたのことが、…………す、好きです」


「…………………………へ?」


 予想外の答えが返ってきた。声が小さくて聞こえづらかったし、もしかしておれの聞き間違いだろうか?


「……今なんて言ったんだ?」


「……もう一回言うのは恥ずかしいんだけど…………」


 琉奈は頬を赤く染めながら下を向いてしまった。


「……えーと、じゃあおれのことを、その、……好きって言ったのか?」


 言葉の代わりに琉奈はコクリとうなずきを返す。どうやら、聞き間違いではなかったようだ。だが、そうだとするとおかしい。


「いやでも、お前にはもう彼氏がいるだろ?」


「え? なんのこと?」


 おれの言っていることがまったく理解できないのか、琉奈はきょとんとしている。


「いや、だからさっき恋愛相談が上手くいったって言ってただろ?」


「うん、そうだけどそれがどうかしたの?」


「上手くいったってことは、お前に彼氏ができたってことだろ?」


「……? なんでそういう話になるの? あれは友達の話だよ」


「いや、その友達の話ってのは建前で、実際はお前の話だろ?」


「え? 本当に友達の話なんだけどどういうこと? わたしの友達の告白が上手くいったってことだよ。ほら、今日はわたしのほかの友達も来てるって言ったでしょ。その友達のことだよ」


 そう言われ、ようやくおれは話が噛み合わない理由を理解した。確かに、琉奈はあの恋愛相談のとき、友達の話と言っていた。なのに、おれがアニメや漫画とかでよく見かけるという理由で、『友達の話=本当は琉奈自身の話』と思い込んでいたんだ。そして、その友達がさきほど告白に成功して、琉奈に電話をしてきたということか。


「ははは……、そういうことか。おれは馬鹿だなあ……」


「えっと、結局どういうことなの?」


「あー、それはあとで説明するよ、それよりも……」


 まずは、話を戻そう。どう考えても、おれ達にとってそっちのほうが大切だろうし。


「……その、おれ達は付き合うってことでいいんだよな?」


「えっ、あっ、はい、そうですね……」


 琉奈は急に戻った話に動揺したのか、敬語で返事をしてきた。顔が下を向いているせいで表情は窺い知れないが、髪の隙間から見える耳は真っ赤に染まっていた。


「えーと、じゃあ、改めてよろしくお願いします」


「こ、こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします」


 つられてこちらも敬語で返すと思わぬ言葉が返ってきた。それはもはや、プロポーズへの返事なのではないだろうか? そんなことを考えていると、空に花火が打ち上がる。それはまるで、おれ達のことを祝福してくれているように思えた。


 *****


 おれ達は肩を寄せ合い、手を繋ぎながら花火を見ていた。


「そういえば、ごめんね」


「なんのことだ?」


「こんなことになるなら、やっぱり特等席で花火を見れたら良かったなって思って……」


「ああ、そのことか。別に気にしなくていいぞ」


「でも……」


 おれがそう言っても、琉奈は気になるようでしゅんとした顔をしていた。本当に気にしなくていいんだけどな。こうして、琉奈と一緒に花火を見られれば、おれは充分に幸せだ。だけど、もっとちゃんと言葉にしないと、その想いは伝わらないだろう。


「本当に気にしなくていいぞ。……その、どこで見るかじゃなくて誰と見るかが大切だし。つまり、あれだ」


 おれはそこで一度言葉を切り、琉奈の目を見てその続きを口にする。


「おれにとっては、……その、琉奈の隣が一番の特等席だから」


「!! ………………うん、そうだね。わたしにとっては、日希くんの隣が一番の特等席だよ」


 おれの言葉に、琉奈は繋いだ手を強く握り返してそう答えた。そのあと、空にとても大きくて赤い花火が打ち上がり、周囲が明るく照らされる。


 そして、照らされて見える彼女の笑顔は、その花火のように赤く、とてもきれいだった。


以上で、本作は完結になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。


次回作に関してはまだ未定ですが、なにか投稿した際には読んでいただけると嬉しいです。

それと、よければ本作の評価・ブックマーク・感想などをお願いします。次回作を書くうえでの励みになります。


では改めて、本作を最後まで読んでいただきありがとうございました。

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