第40話 夏祭り
夏休みのとある日、おれは鬼咲さんに呼び出された。ちなみに、見た目がヤンキーっぽい鬼咲さんに呼び出されたと言っても、「屋上へ行こうぜ……久しぶりに…………キレちまったよ……」とかそんなことではなく、そのへんのファミレスである。
「アタシ、香和に告ろうと思うんだ」
「……お、おう。そうか……」
大胆な告白は女の子の特権、と言わんばかりのその言葉におれは面食らってしまった。ふむ、以前は由のことを、「好きかどうかはよく分からないんだが気になる」と言ってたと思うが、おれの知らないところでなにかあったんだろうな。
「……それで、なんでそれをおれに言うんだ?」
「理由のひとつは決意表明だな。こうやって誰かに言っとかないと、いざってときにひよっちまうような気がしてさ」
「そういうことか。……ひとつってことはほかにもあるんだよな?」
「ああ、悪いんだが、香和を今度の夏祭りに誘ってくれないか?」
なるほど、その夏祭りで告白するつもりなのか。確かに、告白するにはいいイベントな気がする。ただ、そうなると、
「鬼咲さんと由とおれの三人で行くのか?」
「いや、それだと不自然に思われる気がするから、ほかに誘いたいやつがいたら誘ってくれ。ほら、お前達は迅列って奴とも仲がいいんだろ?」
「そうだな。分かった」
「アタシのほうは姫宮を誘おうと思うんだ。実は、あいつにもこの話はしてあるし」
「えっ、そうなのか?」
「ああ、姫宮とは体育祭をきっかけに話すようになって、仲良くなったからな」
そう言われれば、二人が教室で話しているのを何度も見た気がするな。琉奈に友達ができるのは喜ばしいことなので、ぜひとも友情を深めてもらいたいものだ。なんなら、百合情を深めてもらっても構わない。
「じゃあ、そういうことで。頼めるか?」
「ああ、大丈夫だ」
こうして、おれ達は夏祭りに行くことになった。となると、まずは由と龍心の二人に連絡しないとな。
*****
まず、ライソで由に連絡した結果、無事に夏祭りに誘うことができた。さて、次は龍心か。
『良かったら、今度の夏祭りに行かないか? 友達と何人かで行こうって話になってるんだが』
『その夏祭りには行く予定だがスマンな。オレは一人で行かせてもらう』
『えっ、なんでだ?』
『フッ、その夏祭りでオレは運命に人に出会える予感がするからさ』
『そうか。分かった』
……相変わらず通常運転だなあ、あいつは。まあ、今回の目的を考えれば、由を誘えた時点で問題はないし別にいいか。そんなことを考えていたら、誰かからメッセージが届いた。スマホを確認すると、ある意味ではおれの同士とも呼べる莉奈さんからだった。
『琉奈ちゃんから聞いたんだけど、日希君も今度の夏祭りに行くのかしら?』
『そのつもりです。莉奈さんも行くんですか?』
『残念ながら、お姉ちゃんは事情があって行けないの。だから、お姉ちゃんの代わりに琉奈ちゃんをよろしくね』
『そうですか。分かりました』
『ありがとう。琉奈ちゃんをめいっぱい楽しませてあげてね。そのお礼と言ってはなんだけど、夏祭りにかかる費用は全部お姉ちゃんが出すわ。琉奈ちゃんにお小遣いを渡しておくから、日希君もそれを使っていいわよ』
『いや、さすがにそれは……』
『遠慮しなくていいのよ。だって、貴方とお姉ちゃんは盟友じゃない』
『! 分かりました。ありがとうございます』
こんなことを言われたら断るわけにはいかない。シスコンのよしみで、ありがたく使わせてもらおう。
さて、あとは海希をどうするか。お兄ちゃんとしては誘ってやりたいところだが、あまり人が増えても困る気がするな。できれば、由と鬼咲さんを二人きりにしてあげたいし。どうしようか迷いながらリビングへ向かうと、海希がいて声をかけられた。
「あ、お兄ちゃん、今度の夏祭りなんだけど」
「もしかして、行きたいのか?」
「そう思ってたんだけど、勉強に集中しないとやばそうなんだよね。だから」
「分かった。お土産をたくさん買ってきてやるからな」
「わーい。さっすがお兄ちゃん、好きー」
「ああ、お兄ちゃんも大好きだぞ」
「いや、あたしはそこまで本気で言ってないよ……」
……なんだろう。かけてくれたはしごを蹴り飛ばされた気分だ。反抗期かな? だが、真のシスコンを目指すものとして、この程度でへこたれるわけにはいかない。可愛い妹が喜ぶお土産をたくさん買ってこようとおれは決意した。
40話を読んでいただきありがとうございました!




