第36話 姫宮家訪問
莉奈さんのお迎えが無事? に終わったあと、帰宅した日の夜。
「あ、莉奈さんのハンカチを返すの忘れてた」
風呂に入る前にポケットになにか入ってないか確認し、ハンカチが入れっぱなしになっているのに気が付いた。
まあ、ハンカチであればそのまま洗濯しても問題にはならないだろうが、ポケットティッシュの場合は大惨事になったりするので注意が必要である。ただ、衣類についたティッシュは柔軟剤を使えばわりと楽に落とせるらしい。
「とりあえず、莉奈さんに連絡しておくか」
莉奈さんにライソでメッセージを送っておいたが、そのあと丸一日以上、返事がなかった。これが、ほかの人であればなにかあったのかと心配になるが、まああの人なら気にしなくても大丈夫だろう。理由はだいだい察しがつくし。
*****
莉奈さんにメッセージを送ってから三日後の昼、スマホを見るとメッセージが返ってきていた。
『ごめんごめん。琉奈ちゃんに夢中でスマホなんかまったく見てなかったわ』
まあ、そんなことだろうとは思っていた。現代人の中にはスマホ依存症と言われる人もいるようので、スマホをまったく気にしない莉奈さんのこの姿勢を見習うべきかもしれない。いや、莉奈さんを見習うとルナニウム依存症になってしまうので、やっぱ見習っちゃ駄目だな、うん。
『それで、悪いんだけど明日、家まで届けに来てくれないかな? この前のお礼もしたいし』
莉奈さんは今は特に琉奈と一緒にいたいだろうし、それくらいはしてあげてもいいか。
『分かりました』
でも、別にお礼をされるほどのことではないし、わざわざ悪いからそっちは断っておくか。と、思っていたら、さきに莉奈さんからメッセージが届いた。
『ありがとう。それと、来るときはお腹をすかせてきてね。お礼は琉奈ちゃんの手作り料理だから』
………………いや、やっぱあれだな。わざわざ相手がお礼をしてくれるというのに断るというのは、逆に悪い気がするな。うん、人の好意を無下にするとか、どう考えても悪い。やはりここは、ありがたくお礼をしてもらおうと思う。
というわけで、明日は姫宮家にお邪魔することになった。
*****
翌日の昼、おれは予定通り姫宮家を訪れた。インターホンを鳴らし、少し待つと玄関から琉奈が出てきた。
「いらっしゃい、日希くん。さ、あがって」
「ああ、お邪魔します」
「じゃあ、今からご飯を作るから、少し待っててね」
「分かった。それで、このハンカチはどうする?」
「たぶん、洗濯していいと思うけど。あとで、お姉ちゃんに確認しておくね」
「それなら、おれが訊いておくよ。莉奈さんは部屋にいるのか?」
「うん、いるよ。じゃあ、悪いけどお願い」
そんなやりとりのあと、おれは家に上がり莉奈さんの部屋へと向かう。そういえば、部屋の場所を確認しなかったが、たぶん昔と同じだろう。そう思っていたら、ちょうど莉奈さんが部屋から出てきた。
「あ、いらっしゃい、日希君。わざわざ悪いわね」
「いえ、別に……、って、ちょ、莉奈さん、なんですかその格好!?」
「え? いいじゃない別に、家の中なんだし」
「いや、まあそうですけど……」
確かに家の中ならば問題ないんだろうがおれはつい、とある部分に目がいってしまった。
「日希君、さっきから視線が下にいってるわね」
「いや、だって……」
「ま、そうよね。大抵の男の人は好きだから、仕方がないわよね」
いまだに視線が下を向いているおれに対し、莉奈さんはまったく動じる様子がない。こんな格好を見られて平然としていられるとか、これが大人の余裕というやつなのだろうか?
「なんだったら、もっと近くで見てもいいわよ」
そう言って、莉奈さんはおれのすぐ目の前までやってきた。改めて、間近で見ると本当にすごいな。
「……これだけ見てるんだから、感想のひとつくらいは聞きたいんだけど、なにかないのかしら?」
「あ、すいません。いや、とても素晴らしいと思います。さすがは莉奈さんです」
「ふふん、そうでしょ」
「いやでも、本当にすごいですね。やっぱこれ、自分で作ったんですよね?」
「もちろんよ。名付けて、お姉ちゃん特製・琉奈ちゃんの笑顔Tシャツ」
その名が示すとおり、莉奈さんは琉奈の笑顔がプリントされたTシャツを着ていた。アニメ化された作品で、キャラクターのイラストが描かれたTシャツが発売されることがあるが、その琉奈バージョンといった感じだ。その奇抜な格好に加え、琉奈の笑顔の可愛さに、おれはつい目を奪われてしまった。
「あ、そうだ。ほかにも色々あるから、特別に見せてあげるわ」
そう言うと、莉奈さんはおれの手を取り、自分の部屋へと引っ張っていった。
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