第32話 問題発生
おれ達はサ店ことスターチップスコーヒーを出て駅構内へと向かう。あそこには色々な店があるから、なにかしら買いたい物が見つかるかもしれないしな。
だが、その途中でおれのスマホが鳴った。どうやら、誰かから電話がかかってきたようで、確認するとマイプリティーシスターこと海希からの電話だった。
「悪い、海希から電話だ。ちょっとその辺で待っててくれ」
「うん、分かった」
おれは人が少ないところへ移動し電話に出る。
「もしもしもしもし~」
『出るのが遅いよ、お兄ちゃん』
「悪い悪い、でなんか用か?」
『お兄ちゃんってまだ駅にいる? 買ってきてほしい物があるんだけど』
「いるけど、なにを買えばいいんだ?」
『アレだよ、アレ』
「アレってなんだよ? 全神タイガースの優勝か?」
『お兄ちゃん、なに言ってんの。違うよ、ほらアレだよアレ』
「いやだから、アレじゃわかんないから」
『まったく、これだからお兄ちゃんは……』
「ええ……、おれが悪いの」
『そうだ、思い出した。パンを買ってきてほしいんだった』
「ああ、駅にあるあのパン屋か」
『そうそう』
「で、なんのパンがいいんだ?」
『それはもちろんアレだよアレ』
「いやだから、アレじゃわかんないから」
『まったく、これだからお兄ちゃんは……』
「ええ……、おれが悪いの」
ていうかこのやりとり、さっきもやった気がする。なにこれイサナミ?
『あ、ちょっと待ってね。お母さんにも聞いてみるから』
さきほどの琉奈はお母さん達と言っていたが海希はお母さんとしか言っていないので、どうやら父さんは含まれていないようだ。仕方ないので、父さんの分はおれが適当になにか買っていこう。それから、しばし待ちなにを買うかが決まり電話を終える。
よく考えたら、すぐ買う必要はないんだしあとでライソで連絡してもらえばよかったな、と思いつつ琉奈のところへと戻ろうとする。すると、琉奈の前に三人の男が近づいていくのが見え、おれは弾かれたように走り出していた。しまった、琉奈を一人にするべきではなかった。
「お嬢ちゃん、一人?」
「なあなあ、この女の子」
「かなり可愛い方だよな…」
すぐ近くまでいくとそんな話し声が聞こえてくる。やはりナンパのようだ。そして、すぐにおれは琉奈とナンパ男と思われる三人組の間に割り込んだ。
「んん? 兄ちゃん何者?」
さて、どう答えるべきか。この三人組が琉奈を諦めて立ち去ってほしいとなるとかなり恥ずかしいがここはやはり……、
「……お、おれはこの子の……か、彼氏です」
「っ!!」
おれの嘘に琉奈が動揺する。まあ、急にこんなこと言われたらそうなるよなあ。で、問題はこの三人組にこの嘘が通じるかどうかだが。
「……って言ってるけどどうなんだ、お嬢ちゃん?」
そうきたか。ここで、琉奈が上手くおれの嘘に合わせてくれればいいんだがどうなる。と、思っていると琉奈はおれの腕に抱きついた。
「……わ、わたしはこの人の、…………かかかかか、彼……女……です………………」
おれの発言の意図を察してそう言ってくれたようだが、後半になるにつれ声がしぼんでいった。さらに、顔も真っ赤であり恥ずかしさに耐えかねたのか下を向いてしまった。さすがに、これではこの場しのぎの嘘をついているとバレバレだろう。
「…………なるほど、そういうことか」
やはり嘘だとバレてしまったらしい。どうすべきか考えているとナンパ男のうちの一人が俺に向かって手を伸ばしてきた。
まさか、暴力か? どうする、おれは喧嘩なんかしたことないから勝てる気はしないぞ。いや、おれはどうなってもいいから、琉奈さえ逃がせればいいんだ。
そこで問題だ! この三対一の状況でどうやって琉奈を逃がすか?
3択――ひとつだけ選びなさい。
答え① ハンサムの日希は突如反撃のアイデアがひらめく。
答え② 友達がきて助けてくれる。
答え③ 逃がせない。現実は非情である。
おれがマルをつけたいのは答え②だが期待はできない。ただでさえ少ないおれの友達が、あと数秒の間にここに都合よくあらわれて、アメリカンコミック・ヒーローのようにジャジャーンと登場して、「まってました!」と間一髪助けてくれるってわけにはいかねーゼ。となると、やはり答えは、……………………①しかねえようだ!
だが、反撃のアイデアをひらめく時間やスタント能力がおれには存在しなかった。よって、
答え――③ 答え③ 答え③
ナンパ男の伸ばしてきた手がおれの肩にポンと置かれた。
「おい、兄ちゃん。その子のこと幸せにしてやれよ」
「………………へ?」
そう言って、ナンパ男達は去っていった。そのあと、おれ達と少し距離ができたところでナンパ男達が話し始める。
「尊い……」
「これがエーーックスで読んだ漫画だったら『いいね』が一回しか押せないことに文句を付けてるところだ」
「くそっ……じれってーな、俺ちょっとやらしい雰囲気にして来ます!!」
そのような会話が聞こえた気がしたが、距離が離れておりはっきりとは聞こえなかった。そのあと、おそらく最後の発言をした人がこちらに戻ってこようとしたようだが、残りの二人に捕まり引きずられていった。なんかよく分からんが助かったようだ。
……というか、最初の会話を思い返してみると、琉奈をどこかに連れていこうとしている感じでもなかったし、単に女の子が一人でいることが心配で声をかけた良い人達だったのかもしれない。
「とりあえず、行ってくれてよかったな」
「……うん」
と、そこで互いに今の状況に気付く。そういえば、恋人のふりをするために琉奈がおれの腕に抱きついていたんだった。そのため、琉奈は慌てておれから離れた。
「ご、ごめんね。こうしたほうがそれっぽく見えると思って……」
「い、いや、おれもそう思うし……」
「あ、それと、助けてくれてありがと……。その……、か、かっこよかったよ……」
「……お、おう。そうか……」
頬を赤く染めながらそんなことを言われると照れくさくなってしまう。まあ、琉奈に何事もなくて良かった。
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