第28話 妹とおでかけ
無事に期末テストも終了し、琉奈と一緒に映画を見に行くおでかけの予定が目前に迫ったとある日、おれは自室にて悩んでいた。
まず、今度のおでかけはデートなのだろうか? そして、デートだとして、こういう場合はいったいどういう服を着るべきなのだろうか? 駄目だ、まったく分からん。
くそっ、こんなときにおれにもうひとつの人格があれば、「オレからすればまだ地味すぎるくらいだぜ! もっと腕とかにシルバー巻くとかよ!」とアドバイスしてもらえるのに。
うーむ、やはりなにか新しい服を買いに行くべきか。なんというかこう、そこはかとなくいい感じの服を。だが、服を買いに行こうにも、服を買いに行くために服がないので、まずは服を買いに行くための服を買いに行くための服を買いに……。
「なにやってんの、お兄ちゃん?」
「うおっ、びっくりした!」
悩んでいたり集中していたりするときに急に声をかけられると驚くから気を付けてほしいものだ。具体的に言うと、まず声をかけるための声をかけるための声を……。
「なに、もしかして服でも買いにいくの?」
ベットに並べられた服を見て海希がそう言う。そういえば、ノックの音がしなかった気がするが、おれが聞き漏らしたのか、それとも海希がノックをせずに入ってきたのかどっちなんだろうか?
仮に後者だとしても、それはおれの顔を一秒でも速く見たい妹の愛なので許さざるを得ないことだが。
「まあ、そうだな。なにか買いに行こうかと」
「じゃあ、あたしも一緒に行っていい?」
「いいけど、そんなに高い服は買ってやれないぞ」
「さっすがお兄ちゃん。話が早い」
海希は笑顔でそう返してくる。やはり、おれに服を買ってもらおうとして一緒に行くと言ったのか。だが、これはお兄ちゃんに服を買ってもらいたい妹心というやつなので仕方がない。間違っても、お兄ちゃんにたかろうとか、そんなことは考えていないはずだ。
まあ、それはおいといて、おれは可愛い妹とともに服を買いに行くことになった。
……あれ、ちょっと待って。もしかして、このおでかけはデートなのだろうか? いや、おれは別にシスコンじゃないからどうでもいいんだけどね。うん、ホントにどうでもいいな。いや、マジでどうでもいいわ。で、結局デートなのこれ?
*****
服屋にて、おれが買う服はいい感じのやつを海希が選んでくれた。そして、今は海希が買う服を選んでいるところだ。
「お兄ちゃん、これとこれだとどっちがいいと思う?」
「な……」
こ、これは確か女性の中ではすでにどちらがいいか答えが決まっていて、その答えを男性も選ぶことができるかとか、そういうたぐいの質問じゃなかったか? ど、どうする、ここで選択を誤れば妹からの好感度がダダ下がりしたりするのか?
……くっ、どっちが正解かわからん。こうなったら……、
「せっかくだから、おれはこの赤の服を選ぶぜ!」
「いや、別に赤くないんだけど……。まあいいや、じゃあこっちを試着してくるね」
そう言って、海希は試着室へと向かっていった。海希の反応を見る限り、おれの選択は間違っていなかったようだ。もしかすると、おれには傭兵の素質があるかもしれないので、将来もし傭兵になるようなことがあれば、コードネームはコンバット天方にしよう。
そして、試着室の近くでしばし待っていると、着替えた海希が試着室のカーテンを開いた。
「どうかな、お兄ちゃん?」
「うむ、よく似合ってるぞ。さすがはおれの妹だ」
「わーい、ありがとう。じゃあ、これにするね」
さて、無事に海希の服も決まり、改めて海希が元々着ていた服に着替えて試着室から出てきたところで誰かから声をかけられた。
「あれっ、天方君?」
「おお、由か。奇遇だな」
「うん、偶然だね。ところで、そっちの子は?」
「ああ、こっちは妹の海希だ」
「あ、妹さんなんだね。はじめまして、お兄さんの友達の香和由です」
「…………………………」
挨拶をした由に対しなぜか海希のへんじがない。まさか、ただのしかばねのようだ、なんてことがあるわけないので海希のほうを見ると、由のほうをじーと見ていた。まさか、由に見とれているのか!?
「……あの、どうかしたの?」
「……あっ、ごめんなさい。……その、少し考え事をしていて。あたしは兄の妹の海希です」
「うん、よろしくね。天方さん」
「はい、よろしくお願いします。というわけで、ちょっとお兄ちゃん、こっち来て!」
なにが、「というわけ」なのか分からないが、海希は由に会話を聞かれなさそうなところまでおれを引っ張っていった。いったいなんの話なんだろう? まさか、そういう話じゃないだろうな?
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