第23話 きっと夕日のせい
栗栖さんに恋人ができたということはつまり、龍心は好きな人ができてからものの十数分で失恋したことになるわけか。さすがに失恋マスターは格が違った。
まあ、DEAD ENDフラグがおれたと考えれば悪いことでもないし、あいつはドラゴンメンタルだから大丈夫だろう。
それに、自分の命はこの世にたったひとつだが、恋人はまた見つけりゃいい。いかん、こんな考え方ではハンター試験に挑んだ際に、おれにDEAD ENDフラグが立ってしまう。
それはそれとして、おれの出場する競技は無事ではないが終わったので、観客席に戻り空いている場所に座る。
肉体的な疲労はそこまででもないが、栗栖さんのナレーションやお題のせいで精神的な疲労が大きい。「もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……」と、言いたい気分だ。そう言う代わりに、おれはため息をついた。
「なんかすごいため息だね、天方君」
どうやら、ため息が大きかったようで、隣から女子と思われる声がかかる。そちらを見ると、中性的な顔立ちをした子が心配そうな顔でこちらを見ていた。以前、鬼咲さんが気になると言っていた香和君だ。
「悪い、うるさかったか?」
「別に、それは大丈夫だけど……。どうかしたの?」
「いや、さっきの借り物競走のお題が厄介だったから疲れてな……」
「あー、そっか。確かにあれは大変だったね」
ふむ、これは言い流れな気がするな。鬼咲さんに可能であれば香和君の好きなタイプをお訊いてみるという話をしていたが、その話ができそうだ。
「ちなみに、香和君はどうなんだ? 別に髪型限定じゃなくて好きなタイプとかでもいいんだけど?」
というか、髪型よりもむしろそっちが本命だしな。
「好きなタイプかあ……。うーーーん……」
香和君は目を閉じ小首をかしげ考え始める。その際にショートポニーの髪が少し揺れた。しかし、声も顔も髪型も女子っぽいな。名前は確か由なので女子でもありえる名前だし、傍から見たら女子にしか見えない。だが男だ。
「……ごめん、よく分かんないや」
分からないのは残念だが、ある意味この回答で良かった気がするな。下手に鬼咲さんとは全然違うタイプを答えられたら、そのほうが困るだろうし。せっかくなので、ついでにもうひとつ訊いておこう。
「じゃあ、逆に苦手なタイプはあるか? こういう人とは関わりづらいとか?」
「……うーん、それも思いつかないかなあ……」
これは良い回答だな。香和君は特に鬼咲さんを怖がっていたりはしないようだ。よし、あとで伝えておこう。と、思っていたら香和君は物憂げな顔をして口を開く。
「……むしろ、ぼくがクラスの男子から関わりづらい人だと思われてるみたいなんだよね。なんか男子から避けられてるというか、態度がよそよそしいというか……」
「そうなのか……」
「うん。でも、天方君はぼくと普通に話してくれるんだね。嬉しいな」
そう言って、香和君は微笑んだ。こうやって笑うとますます女子に見えるな。正直可愛いと思う、男だけど。
「まあ、おれでよかったら友達になるぞ。そうだ、あとで連絡先でも交換するか?」
「いいの? ありがとう!」
香和君はおれの右手を取り自分の両手でぎゅっと握ってきて、さらに今度は輝くような笑顔を見せた。
……なるほど、クラスの男子が香和君を避ける理由がわかった気がする。こうも可愛い顔や態度をとられると、ついうっかり惚れてしまい、下手すると新しい扉を開きかねない。そうならないために香和君と接するのを避けているのだろう。
幸い、俺の場合はもっと可愛い女の子が身近にいるためそんな心配はないな。ついでに言うと、俺の場合は可愛い妹までいるので、可愛い子にはかなりの免疫があると言っていい。
「あっ、いけない。そろそろぼくが出る種目だから行かないと」
「そうか。じゃあ、またあとでな」
「うん、またあとで」
香和君は笑顔で手を振りながら去っていった。うん、そういうとこだぞ。しかし、香和君は本当に男子なのだろうか?
たとえば、漫画とかで男子だと思ったキャラが実は女子だったりするパターンがあるが、香和君もそうだったりしない? まあ胸はなかったけど、海希の胸も同じくらいだしなあ。
そのあと、体育祭は滞りなく進み無事に終了した。圧巻だったのは、やはり騎馬戦での鬼咲さんの無双っぷりだろう。
まず、鬼咲さんが相手のリーダーと見られる生徒と戦っているうちに、次々に仲間がハチマキを奪われ脱落していった。そして、リーダーを倒したときには人数に大きな差がついており、さすがの鬼咲さんにも動揺が見え負けるのかと思われた。
だが、鬼咲さんは自分を慕う女子生徒達の応援で奮起し、そのあとは一騎当千の活躍を見せ、最終的には本人の宣言通り圧勝していた。
もし、あの状況で鬼咲さんが負けるとすれば、どこかの先生と生徒が、
「応援で本来の実力を取り戻した鬼咲に対し、その鬼咲に気圧され動きも鈍くリーダーを失いハチマキを奪うための徒手空拳もままならないプレッシャーを負った相手」
「これって……」
「ああ、鬼咲の勝ちだ」
――“最強”の戦跡、学校に刻む!!
と、そんなことにならない限りありえなかっただろう。
*****
そして、いつものように琉奈と一緒に帰宅しているのだが、またも空気が重い。原因は借り物競走のときのあのナレーションとお題のせいだろう。あの男子生徒の劇的な告白のおかげで、ほかの人達は忘れてくれたみたいだが、当事者だったおれはさすがに忘れられないし、それは琉奈も同様だろう。
「……つ、疲れたな」
「……うん、そうだね」
このままでは間が持たないし、恥ずかしいという感情が消えない。あのとき、借り物の内容について言わなくてもいいことまで言ってしまったからなあ。……どうせ恥ずかしいのならば、そのことについて気になったことを訊いてしまおうか。
「……そういえば、琉奈って昔はもっと髪が短かったよな? なにか伸ばすきっかけとかあったのか?」
「…………それは、……内緒」
そう言って、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。やばい、もしかして訊かれたくないことだったか? 髪の隙間から見えている耳が赤くなっているのが、怒りのせいではないといいんだが。とりあえず、話題を逸らさないと。
「……まあ、あれだな。色々と大変なこともあったけど、練習とかも含めて体育祭は楽しかったよな?」
「……うん、そうだね。楽しかった……」
今度は、嬉しそうに微笑みを浮かべてくれて、頬はやや赤く染まっていた。よかった、怒ってはいないようだ。だとすると、耳や頬が赤いのはきっと夕日のせいなのだろう。
なにはともあれ、最初は体育祭を嫌そうにしていた琉奈が、こうして笑顔で体育祭を終えられてなによりだと思った。
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