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破瓜

 エノールの眼前には吐瀉物が広がっている。

 

 レガルドの方にも刺激臭が飛んできた。エノールの様子にレガルドは同様する。

 

 しかし、何よりもその後に続けられたエノールの言葉に目を剥いた。

 

「……もう、嫌なの。貴方に抱かれないと、私、私……」

 

「っ……!」

 

 レガルドは本気で苛立った。

 

 エノールはひどい顔で、真っ青で、嘔吐さえしてしまっているのに、こんな状況でさえ『抱かれないと』なんていうのだ。

 

 どうしてそんな勝手を言うのか。いい加減困るようなことを言うのもやめてほしい。どうして自分を顧みてくれないのか。

 

 彼女の悪い癖だ。全てを抱え込んでしまう癖がある。普段はそのキャパシティで周囲も気づきにくいが、エノールにだって限界があるのだ。

 

 だからこそ、自分が一緒にいて支えようと、そう決めていたのに……

 

 レガルドは自分の無力感をエノールにぶつけた。うずくまって見上げてきたエノールの手首を掴み上げて、ベッドに引っ張り上げた。

 

 ベッドの横で吐き出された吐瀉物で、部屋が不快な匂いに満ちている。二人はそんな部屋で互いの顔を突き合わせた。

 

 エノールの口元からは吐瀉物の匂いがする。顔色は嘔吐したことで幾分かよくなっていた。

 

 レガルドは怒気を滲ませた声色でエノールに問いかける。

 

「いい加減にしろよ……いつまでそんなこと言ってるつもりだ」

 

「……貴方に抱かれるまで、一生言ってるわよ」

 

「っ、だったら──」


 レガルドは、望み通りにしてやろうじゃないかと怒りのままにエノールの服をひん剥き始めた。それに対して、エノールは全くと言って良いほど無抵抗だ。

 

 その様子にレガルドはたじろぐ。一瞬、脱がせる手が揺らめいて、もはや引けなくなっていた。

 

「君が、君が望んだんだぞ!」

 

「ええ、そうよ」

 

「っ、俺は、初夜はもっと優しく……」

 

「ええ、私もそう思っていたわ」

 

 エノールは顔に涙の跡を浮かべ、目元なんかは赤く腫らしているというのに、瞳だけは覚悟に染まりきっていた。

 

 口元には吐瀉物の滴を垂らして、ひどい有様で自分の服を剥くレガルドの手つきをじっと見つめている。それがまるでテストされているようで、品定めするような瞳に恐ろしさを覚えた。

 

 レガルドは同様する。彼は、エノールが直前になって止めてくると思ったのだ。否、その可能性に期待した。冷静に考えればそんなはずもない。エノールはこういう時冗談を言わない。

 

 それでも、自分の蛮行をこの女性が止めてくれると思ったのだ。最早それは理性的な信頼というより期待であった。そして、残酷にもエノールは一言も言葉を発さない。

 

 ただただ自分が犯される様を、犯す人間のことをじっと見ている。それどころか早くしろと圧力を感じさせるような視線さえ投げかけてくるのだ。

 

 それが、犯している側のレガルドの身体を鉛のように重くした。

 

「犯しなさい」

 

「っ……」

 

 まるで止め刺すように言われる。それが、ただただレガルドは悲しかった。

 

 初めてはもっと甘い夜になると思っていた。二人で準備して、静かな夜に、一生の誓いを立てるのだと。

 

 けれど、それを否定するようにエノールはレガルドに強姦を強制する。最早それは、エノールによる強姦であったかもしれない。何せ、レガルドは一切求めていないのだから。

 

 彼女の言葉にレガルドは逆らえない。自分を蝕んでいる劣等感と日頃からのエノールに対する尊敬は、相対的にレガルドがエノールの言葉に逆らうことを許さなくなっていた。

 

 自分で掛けた呪いが、エノールの言葉に従えと強制してくる。その強迫観念のもとにレガルドは手を動かした。どうにか回り道できないかとおぼつかない手つきで、十分に躊躇しながら。

 

 レガルドはエノールを神格化し過ぎているのだ。そのせいで歪な価値観が彼の自由を自ら奪わせている。

 

 レガルドは言われるがままに彼女をレイプしようとしている。身体をひん剥き、力づくで服を脱がせて女陰に男根を捩じ込む。それはレガルドが求めていたものと真反対のものだ。

 

 初夜というものはもっと初々しいものだ。なりたての夫婦がつがいになるための行為。失敗することだってあるだろう。案外うまくいくかもしれない。

 

 どうであろうと二人にとってはかけがえのない思い出になるはずだった。

 

 しかし、実際は違う。ゲロの匂いで満ちる部屋で、強姦も同然の如くレガルドが服をひん剥いて無理やり犯そうとしている。しかも、実際は女が男に強制しているのだ。

 

 レガルドははやる気持ちで自分のズボンをずり下げた。それは単純な性衝動ではない。強迫観念と焦燥の入り混じった、レイプ魔らしからぬ心理状態だ。

 

 そもそも、この状況に彼の理想とするところはいっぺんも含まれていないのだ。獣としての感性とこれまで蓄積してきたエノールに対する好意のみが彼を突き動かしている。目の前の、今から犯されようとしている被害者のはずの人からの無言の圧力は、レガルドに逃げることを許さない。

 

 エノールの言葉には従わなければという彼の歪な価値観が露呈していた。本当に夫婦になるというのなら、ここで突き放して仕舞えばよかったのだ。その上で喧嘩でもして、互いに言いたいことをぶちまけあって、話し合えば良かった。

 

 それなのに、レガルドはその選択をしなかった。それは彼自身が、潜在意識下においてエノールとの関係を対等でなくしてしまっていたからだ。

 

 エノールに対する好意、尊敬、羨望、そういったプラスの感情が今度はマイナスの方向に作用していた。好意が罪悪感と強迫観念に、尊敬が劣等感に、羨望が惨めさに置き換わっている。

 

 彼女が上で自分が下、エノールの言うことには間違いがないのだから逆らってはいけないという、夫婦になるならあるまじき自戒が彼の中に巣食って、そのまま蝕んでいた。

 

 スカートを捲り上げて、下着を脱がすだけで終わるはずの準備を、レガルドは勿体ぶって回り道した。臭い物に蓋をする用に、憂鬱な宿題を休暇の最後まで後回しにするように、どうにかやらなくていい方法を考えようとして時間を欲した。

 

 しかし、脱がせるのに困難なはずのガーターベルトさえ、もう脱げてしまっている。レガルドはエノールの下着に手をかけた時、心臓が早鐘を打つのを感じた。

 

 これまで何度もエノールの下着を脱がすことを夢想した。それが今、目の前で起こっている。倒錯的な状況に、指先が伝えるエノールの肌の柔らかさと暖かさは、彼が好きな人の肌に触れていることを教えている。

 

 その感触があるたびに、幸せな気持ちが過去の心情をリフレインするように蘇らせるたびに、今の自分にはそれを享受する資格はないのだと胃酸が逆流する感覚に襲われた。気持ち悪さの中、彼女の下着をずり下ろす。

 

 手先に感じる布と肌の摩擦、下着をずり下ろしているという実感が感触となって過ぎ去っていく。

 

 すでに臨戦体勢であった彼の剛直を見て、一瞬エノールは身体をこわばらせた。しかし、レガルドはそんなエノールを気にすることなく、女の割れ目にあてがうと、声をかける間もなく身体を一つにする。

 

「イッ………………」

 

「はーっ、はーっ!」

 

 無理矢理、処女膜を貫いた。

 

 最後まで一息だ。一切の前戯もないし、二人とも欲情してるわけでもない。ただ、処女という花を散らすためだけの行為は性行為として正しくない。

 

 レガルドはこんなはずじゃなかったと心が悲しさで塗りつぶされそうになって、込み上げる涙を押し殺す。

 

 もっと幸せで、愛おしかったはずだ。それなのに自分の手で汚された。その実感が絶望となってレガルドを苛む。彼女の初めてはもう二度と元に戻らない。手遅れ、不可逆、そんな言葉が頭をよぎる。

 

 ぷつりと彼女の肌に血が滴る。破瓜した証拠だ。エノールは自分のためにその純潔を守り続けてくれていたのである。とても、とても大切なものがあった。

 

 大切なものを壊してしまった感覚がありありと感触として伝わってきて、だというのに、きゅうきゅうと締め付けてくる肉感は結局気持ちがいい。レガルドは悲壮と快感にぐちゃぐちゃになりそうだった。

 

 性的な刺激を与えることによってレガルドの獣はどうにか興奮状態を保てている。けれど、レガルドの心は快感を抱く度に掻きむしられるようだった。

 

 彼が迷わず挿入できたのも、初夜の時のために本を読みあさっていたからだ。女性にはどうしてあげるべきなのか、レガルドはそれを想像しながら自慰をして、できる限り稚拙に準備していた。

 

 それなのに、全てが水の泡になる。あらゆる想定が無に帰する。目の前の彼女は痛みだけに顔を歪めていて、想定通りなことは何一つない。

 

 二人の初めては一方的なレガルドの快楽に終わろうとしているのだ。

 

 ──彼女達エノールとレガルドは対照的だった。

 

 エノールは肉体的苦痛で顔を歪めていたが、口角は少しばかり吊り上がっている。彼女自身はその痛みを良しとしていたのだ。

 

 元々、そのつもりで屋敷に来たし、むしろようやく愛しの人と繋がれたことに湧き上がるような高揚を感じていた。

 

 鈍痛のように響く衝撃の中で、エノールの女は徐々に湿り気を帯びてきている。彼を愛しく思っている証拠だ。

 

 対して、レガルドは悲壮に顔を歪めていた。

 

 精神的な苦痛が、肉体的快楽を上回っている。むしろ肉体的な喜びが罪悪感を助長させてさえいる。

 

 奪う側の彼が、奪われているはずのエノールより余裕がない。むしろピストンをするたびにエノールの体の負担は徐々に軽くなるのに対し、彼の心はより摩耗していく。

 

 それは彼の罪だ。レガルドが性感を抱くたび、それは彼が犯しているということで、今の状況ではレイプに他ならない。

 

 たとえどんな事情があったとしても彼の中でそれはレイプであり、胸中で自分のことを断罪し続けているのだ。そんな中、自分の獣が喜ぶ刺激は、まさに彼の犯行の証左でしかない。

 

 彼の下半身に蓄積する快感はそのまま彼の罪であり、カルマだった。それらが紅蓮の如く彼の心を燃やし続けている。

 

 もはや考えることを許されず、ただ一心不乱に腰を振ることだけに注力した。けれども初めてのレガルドがうまく腰を振れるわけもなく、また、下手をすればこのまま果ててしまいかねないのだ。

 

 破瓜の直後に動きが鈍かったのは、エノールにとっては良かった(・・・・)だろう。処女膜を破られた直後にむやみぬ動かれなかったというのは、乱暴にしてという彼女の意思に反して、彼女の体の負担を軽くしていた。

 

 レガルドは行為の最中に、一度冷静になれば彼は自分の心がぽっきり折れてしまうだろうことを感じとっていた。この状況で行為を中断してしまうのは何よりも許されないことだから、最早彼に選択権などなかった。

 

 レイプというのは男が女を奪う行為なのにも関わらず、その場にはどこにも勝者はいなかった。いや、むしろ組み敷かれて犯されているエノールの方が奪っている側と言える。

 

 そこにレガルドの意思などない。本質的な加害者がすり替わっていた。

 

 エノールによるレガルドの心に対するレイプ。彼の心を簒奪せんがために自らレイプを『強要』しているのだ。むしろ、肉体的にも彼は被害者かもしれない。何せ彼はその行為を望まないばかりか、それで精神的に傷ついているのだから。

 

 レイプの本質はそれによる被害者への心理的苦痛である。それに照らし合わせれば、エノールは自らのためにレガルドに精神的苦痛を強いているのだ。彼に拒否権などない。全く新しいレイプの形だ。

 

 レガルドはベッドの上で腰をふり、ギシギシと音を立てる。その度に彼の下半身には甘くまろやかな快楽が伝わるのである。一切痛みなどない。負担があるエノールに対して、それがどこまでも残酷だ。

 

 二人の影が辿々しく交差する。エノールは段々と良さを感じ始めていた。図らずも初めてのエノールに優しくすることとなっていたために、その感触に対して文字通り手探りのエノールからすれば、むしろ理想的な情事だったと言える。無論、他の一切に目を瞑れば、だが。

 

 二人はしばらくして果てた。レガルドは甘い快感の果てに膣内射精を避けんがためシーツに子種をばら撒いた。破瓜の血と精液が混じり合った、赤白いピンクの混ざり物がシーツを彩る。

 

 吐瀉物でひどい匂いのする部屋で、二人の初体験は終わった。甘い快感がまだレガルドに刻まれている。これまで理想的な恋人を演じてきた二人は、最後の最後で最も最悪な末路を辿ったのだ。

 

 エノールだけ幸せそうな表情を浮かべていた。対してレガルドは虚脱感と地獄のような絶望に苛まれている。

 

 レイプしたのはエノールの方である。その結果が、どこまで行っても彼女が自分勝手なことを物語っている。

 

 だというのに、やはり肉体的な関係は対照的だ。レガルドは、エノールを見下ろして、裸になったエノールを、下半身だけ露出させた彼女の姿を一方的に俯瞰している。

 

 それは視覚による蹂躙だ。自分の精液が彼女の肌の上にふりかかっている。彼女の母が送ったというドレスも汚している。

 

 ひどい罪悪感と自分に対する失望の中で、男として、オスとして彼女を支配したのだという征服感が彼の背中を駆け巡った。

 

 エノールの様はまさにレイプされたという具合だ。目の前の光景は、レイプ現場そのものである。辛く冷酷な現実がレガルドの前に横たわっていた。

 

 その光景を見て、彼の獣はまた臨戦状態になろうと血液を集めようとしている。

 

 彼の脳髄はそれにたまらない罪悪感を覚えているというのに、まるで下半身と脳みそが切り離された感覚がとめどもない気持ち悪さを味わった。

 

 エノールはそんなレガルドを抱き寄せると、一緒にベッドで横になる。思いっきり抱きしめて、彼を落ち着けるように言うのだ。

 

「ありがと、ごめんね」

 

「……」

 

 レガルドはもう何も言えない。エノールの温もりに身を投じた。

 

 彼はもう一歩も動けない。

 

 

 


 

「はっ、はっ」

 

「あっ……」

 

 二人はあの後、呆然と抱き合っていた。吐瀉物の匂いのする、あの場所で。

 

 そして、徐々に夕暮れが近づいてくると、エノールは彼の固くなったものをまた導いた。まだまだジンジンと痛むのにだ。

 

 レガルドも一回も二回も変わらないと、冷め切った思いだった。獣のように二人は混じり合う。

 

 二人とも、これまでずっと我慢してきたのだ。ようやくと言った感じに、徐々にエノールの体もよさを覚えていく。レガルドも、初めてで生だというのにかなり持っている方だった。

 

 そもそもすぐに二回戦へと突入できるというのは結構すごい。それだけで絶倫と言っても差し支えないのだが、お互い初めて同士なのでそんなこと気づくはずもない。

 

 そのまま、二人は日が暮れても交尾していた。エノールは好いた男に自分の背中を見せ、レガルドはエノールに背後から抱きつく。

 

 お互い獣のように、ただただ情欲に身を任せて性行為に耽る。彼女の背後から、尻から後頭部までを俯瞰するのはひどい興奮を男に与えた。エノールも後ろから抱きつかれて、ズンズンと尻に伝わる衝撃に倒錯的な欲情を覚えていた。

 

 恋人が行う最も思考かつ神聖な行為だが、そんな高尚さは一片たりともない。二人は目線だけで言葉を交わして、部屋には二人の吐息だけが響いていた。

 

「出して」

 

「でも……」

 

「いいから」

 

 エノールは外に出すことを決して許さなかった。下腹部に温かい感触が広がるのを感じる。

 

 そのまま二人は、もう一度だけ子作りをして眠りについた。






 翌日、二人が目を覚ますと、エノールは迅速に行動した。

 

 杖に『来い』と命じると、先ほどまでどこにもなかった杖が今は手の中に握られている。おかしな話だが、今はいい。

 

 エノールはレガルドに一度部屋に出るよう指示すると、エノールは『全ての不浄を祓え』と念ずる。すると、杖は部屋に無色の炎を出現させた。

 

 蜃気楼のような揺らぎでしか知覚できない、透明な炎だ。エノールはそれがどんな作用を引き起こすのか直感的に理解する。炎にあらゆる『汚れ』を食べさせた。

 

 その炎はシーツの汚れと吐瀉物までをも全て消滅させた。杖の能力を解除する。

 

 この杖も、こういう時は便利だ。

 

 綺麗になった部屋に再びレガルドを呼び戻した。彼は驚いて『どうやったんだ』と聞いてきたが、エノールは答えなかった。

 

「あはは」

 

「どうしたんだい……?」

 

「いや、やっちゃったなって」

 

「……」

 

「何、その顔。不服そうね」

 

「そりゃ……」

 

「私は、これでいいって思ってる」

 

 それは実に身勝手な答えだ。

 

「……エノールはそれでいいのかもしれないけど──」

 

「これで、貴方と結婚するしかないわ」

 

「え?」

 

「『え?』って、当然でしょ? 王家に嫁入りにきた娘が万が一にでも処女じゃないとかありえないもの。王子にバレたら何をされるかわからないし、もうこれで取り入る道は無くなったわ」

 

「そんな──!」


 レガルドは悲鳴のような声を上げた。

 

「なんてことをしたんだ!」

 

「何って、宣戦布告? でも、王子はこのことを知らないから……背水の陣?」

 

「君は、何をしたかわかって──」


「何って、バレなきゃいいんでしょ?」

 

「そんなの無理に決まってるだろ! 初夜の時にどうするつもりなんだ!」

 

「だから、貴方と結婚すればいいのよ」

 

「…………」

 

「あの王子と結婚しないで貴方と結婚する。それで全て丸く収まるわ」

 

「何を言って……」

 

「貴方と結婚して全て問題なくなるか、王子と結婚して破滅するか。二つに一つよ。これで覚悟が決まったわ。私は、貴方としか結婚しない」

 

「……婚約したんだろ」

 

「でも、結婚するとは言ってないわ」

 

「婚約は結婚の約束だぞ⁉︎ それに……」

 

「それに?」

 

「……俺がいるのに、婚約したんだろ」

 

 レガルドは初めてエノールを咎めた。

 

「ええ、そうよ」

 

「だったら!」

 

「だから、もう二度と貴方を裏切らない」

 

「っ……」

 

「これはその決意表明よ。貴方を裏切った瞬間に私は破滅する。どうにかしてこの縁談を破棄させるわ」

 

「そんなの……交渉じゃ、不利なんじゃなかったのか。自分から不利になるようなことなんて──」


「あら、確かに私は『人脈』と『立場』の二点で遅れはとっているけど、他は劣っているつもりはないわよ」

 

「……どういうこと?」

 

「だ・か・ら、貴方のお嫁さんは『知力』であの王子に劣ってるつもりなんて毛頭ないって、そう言ってるの!」

 

 エノールはレガルドの額を指で突いた。その仕草にレガルドも困惑する。

 

「でも、いくらなんでも……」

 

「いいから、貴方の未来の奥さんを信じなさい! 私がどうにかしてみせるわ! 貴方のためならなんだってやってあげる!」

 

「……そのために、あんなことしたのかよ。俺たちを初夜を汚すような真似を……」

 

 その言葉にエノールも黙った。

 

「……ごめんなさい。それは、本当に悪かったと思ってる」

 

「……許さない」

 

「ごめんな──」


「だから、許さないって言ってるだろ」

 

「ん……」

 

 レガルドは強引にエノールの唇を奪う。

 

「……ぷはっ」

 

「…………許すつもりはないから」

 

「はい」

 

「絶対だからな」

 

「うん、分かったわ」

 

「……分かれば、いいんだ」

 

「うふふ」

 

 エノールはレガルドに抱きついて、威張るのが下手だなぁと思った。それもまた彼の魅力である。

 

「私だけしか見てくれないような王子の元に行く気はないわ。私は最初から貴方にしか抱かれる気はないから」

 

「……王子に、抱かれろって言われたのか?」

 

「当然でしょ。夫婦なんだから当たり前だった言われちゃったわ。私もそうだと思うけど──」


「なら、行かせない」

 

「……うん」

 

「君を、あのクソ王子の元になんて──」


「ええ、行かせないで。ちゃんと首輪をつけて、逃がさないでちょうだい」

 

「……言ったな」

 

「うん」

 

「首輪、つけるからな」

 

「なんなら足枷と腕輪もしてほしいわ。鉄の鎖で何重にも繋いでちょうだい」

 

「……時々、エノールが男か女か分からなくなるよ」

 

「うふふ、どっちだと思う?」

 

「……」

 

 レガルドはミステリアスなところがエノールの魅力の一つだと思った。

 

 こうして二人は目標を得た。既に婚姻状態にある王子を、どうにか三人の輪から蹴落とそうとする勝負である。

 

 勝手に婚約を破棄できず、初夜を迎えた日にはエノールは王子から逆鱗を買うことだろう。そして、それはレガルドにも火の手を向かわせることとなる。


 迎え打つは神算鬼謀の策略家、アルファート王国の第一王子にして『放蕩王子』の名を持つカクレアス・アルファート。彼を出しぬいて、エノール達は二人だけの結婚を成し遂げなくてはならない。

 

 第二部、王国貴族編、開幕。

長い導入だった;;


このチャプターを書く上で、全年齢なのに大丈夫かなと戦々恐々としていました。


だから、実はこの話、そこまで具体的なことは書いていないんですよ。


・結果の羅列

・単純に見たという描写


はOKらしく、実はこれだけしかしていません。


①何をしました(結果の羅列)

②何を見ました(見たという描写)

③どう感じました(心理描写)


だけしかしていないので、具体的なことは何一つ書いていないんですよね。


性行為で当然に起こる『脱がせる』『本番』の二工程にしか細分化していません。


滅茶苦茶書いている感じなんですが、必要最低限しか書いていないんです。意外ですか? 意外ですよね。


滅茶苦茶ボリューミーに書いた感じになっていますが、何をして、最中に何を見て(健全な範囲)、事後にどうなったかを書くことで、その行間を読者の方の想像力に補完させ健全な描写で全体の流れを把握させるという……


どうにかこのシーンをねじ込みたいけど全年齢だから、というなんとも苦肉の策的な感じです。


確かに想像による補完でエッチなシーンに早変わりするかもしれないけど、それは君たちの頭の中がエッチなだけで、想像力で保管するまでは健全なんだよ? エノール達は傷ついてるんだから空気読みなよ! 医療現場で『むほほ、おっぱいだ』とかなる医者はいないでしょ⁉︎ ……という見苦しい言い訳をここに並べ立てます。


これでもまだダメですか? アウトですかね?


……アウトな気がしてきました。


そもそも、エッチなものとしてではなく二人の心理変化、これからの動機づけとして重要な場面なので描写しているので規約には違反しないんじゃないかなとは思いますが……どうにも、そんな希望的観測が鎌首をもたげます。


後はお祈りです。このチャプターの描写が生々しいからこそ、二人の初めてが汚れるきっかけとなった王子カクレアスが第二部を飾る強敵となれるわけでして、カクレアス君許すまじとなるためには大切な場面なんです。


というわけで、命乞いをしましょう。


許しくてください、運営さん! なんでもしますから!(なんでもするとは言っていない)

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