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家督継承と地主のストライキ

 空が赤くなって、そろそろと客室女中パーラーメイドが蝋燭に火をつける。こういったパーティでは無礼講として屋敷女中ハウスメイドも姿を見せていいことになっているが、それでもこういった上流階級の面々が揃った場では極力姿を見せてはならぬ決まりがあるのだ。

 

 彼女ら(ハウスメイド)に変わって客室女中が明かりを灯していく。エノールの誕生日会は夜まで続くのだ。

 

 アイジスが目立つ場所に立つ。そろそろかと周囲の面々が伯爵を見た。

 

「皆様、改めて本日はお集まりくださりありがとうございました。今宵、我がアルガルド家にて大事な発表をさせていただきます」

 

 エノールとレガルドが前に出る。

 

「本日をもってこの私、アイジス・アルガルドはアルガルド家当主の座を降り、この場にいる我が娘エノール・アルガルドに家督を譲りたいと思います」

 

 周囲から拍手が巻き起こった。エノールはすらりと素晴らしい姿勢で頭を下げる。

 

「そして、ここに祝報を。本日お招きしたマルデリア公爵家の三男であらせられるレガルド・マルデリア殿とエノールの婚約を発表させていただきます。どうか何卒、ご祝福ください」

 

 もう一度、今度はより大きく拍手が巻き起こった。まるでこちらがメインだと言わんばかりに。

 

 商会長達にしても寄子の家にしても擦り寄りたいのはアルガルド家ではなくエノール個人であり、前当主となったアイジスのことなどどうでもよく、さらに言えばマルデリア公爵家との縁談の方を祝福してあわよくば公爵家とお近づきに……と考えるものが多かった。

 

 もう一度、今度はレガルドとエノールが二人で手を繋いで頭を下げる。

 

「本日はこのようなパーティにお集まりくださりありがとうございます。私のような若輩のためにこのような席を用意していただき、謝意の限りにございます」

 

 『若輩』という件で周囲が苦笑いした。誰もがエノールのような若輩がいるかと笑っている。

 

 そこにいるのは一度エノールの異質性に当てられたもの達ばかりだ。誰もがエノールを一度みくびり、そして痛い目にあって来たものばかりである。

 

 例外がいるとすればこの場にいる公爵家とエノールの両親ぐらいであろうか。

 

「これまで我が家を支えてくださった父にお礼を。これからはより一層、アルガルド家の当主として領地を守り民を豊かにすることを誓います」

 

 今日一番の拍手が起こった。レガルドはエノールが拍手を浴びている光景を見て、なんだか誇らしくなった。

 

 主役の宣言が終わると比較的ゆったりとした時間が流れる。次第に帰るものも多くなって、エノールが直々に送り出していた。

 

「それでは、エノール様。またの日に」

 

「ええ、それまでお元気で」

 

 商会長の一人がさっていく。夜更けの屋敷の周辺は真っ暗で、夜の馬車に影が消えていった。

 

 レガルドはまだ残っている。エノールは人目を忍んでキスをした。

 

「もう、エノール。ダメじゃないか。こんなところではしたない」

 

「あら、こっちに婿入りして来たことを忘れたの? 自分の男にちょっかい出して何が悪いのかしら」

 

「本当に敵わないな、君には」

 

 仲良さげにしていると公爵夫妻がやってくる。

 

「エノール君」

 

「マルデリア公爵」

 

「お父さんと呼んでもいいのだぞ?」

 

「まだ畏れ多いですわ」

 

「まだ、か。まあいい。レガルドとの結婚は十八の時になるだろうが、それで良いか?」

 

「はい。私としても下手な波風を立てるより王国の慣習に則って堂々とレガルドとの結婚を祝福されたいですわ」

 

「約束を破ると君の父君がうるさいだろうからね」

 

「私の父は娘思いなんですよ」

 

 エノールはクスクスと笑う。

 

「エノールちゃん、久しぶり」

 

「まあ、ジャニュエル夫人。お元気でしたか?」

 

「ええ、ほんと。貴方のおかげで夜も眠れるようになったのよ。子供ができないかって心配で……」

 

「良さないか」

 

「あら、いいじゃない。もうすぐ家族になるのよ」

 

「家族だからダメなんだよ、母さん」

 

 レガルドの言葉にジャニュエルは頬を膨らませた。

 

「レガルドはお母さんよりエノールちゃんの味方をするのね」

 

「当たり前だよ……」

 

「うわーん、エノールちゃん。自分が腹を痛めて産んだ息子がいじめてくるよー」

 

「ほら、もう帰るぞ。失敬したな、アルガルド伯爵。また後日手紙を送らせてもらう」

 

「はい、その時を楽しみにしております」

 

「レガルドは泊まっていけ。仮にも婚約者なのだろう?」

 

「えっ⁉︎」

 

 レガルドは大層驚いていた。どうやら聞かされていなかったようである。寝耳に水といった感じだ。

 

「夫婦になるんだ。別にいいだろう?」

 

「だ、だけど! 俺たちはまだ婚約関係で、まだ結婚してなくて!」

 

「堅いこと言うな。伯爵、それでもよろしいか?」

 

「かしこまりました、謹んでお受けします」

 

「エノール!」

 

「そうか。それじゃあ、またの日を」

 

「ええ、またの日を」

 

 ユレグニスはジャニュエルを引きずって馬車で屋敷を後にしていく。その後ろ姿を認めて、レガルドはぼやいた。

 

「もう……父はいつも強引だ」

 

「まさか、レガルドと同じ屋敷で夜を共にするとは思わなかったわ」

 

「あの……」

 

「……部屋を用意させるわ。別室がいいでしょう? それとも、結婚前に手を出しちゃう?」

 

「だ、出さないよ!」

 

「ふふ、ざんねん。それじゃあ案内させましょう。バルター」

 

「は」

 

「レガルドを部屋に案内して。そこの荷物も運ぶこと」

 

 いつの間にか公爵達が置いて行ったレガルドの荷物が置かれてあった。

 

「かしこまりました」

 

「エノール、何から何までありがとね?」

 

「何をいってるの? 感謝するのはこちらの方よ。公爵には感謝しなくっちゃ」

 

「え?」

 

 レガルドが呆けた顔をする。彼はエノールの本質を分かっていなかったのだ。

 

 きちんと理解するまでまだ数年はかかる。

 

「だって、約束通り貴方を置いて行ってくれたんだもの」

 

「……」

 

 レガルドはエノールにしてやられたと思った。

 

 

 

 

 

 レガルドの同居生活は翌日から始まった。

 

 使用人達を伴ってレガルドと朝食をとり、執務室にこもってバルターの報告を聞いて職務を遂行したり、各町に伯爵に就任したという手紙を出したりした。

 

 レガルドはアルガルド家の食堂を見て驚いていた。使用人を伴っての食事は珍しいようである。

 

「アルガルド家では使用人と一緒に食事をするんだな……」

 

「お父様とお母様がいなかったときに私が駄々をこねてね。みんなも私が寂しくないようにってそれからは一緒に食事をしてくれるようになったのよ」

 

「そういえば、ご両親は?」

 

「上で食べてるわ。長らく伯爵として働いてもらったし、今は二人でゆっくりしてほしいの」

 

「エノールは本当に親思いなんだな」

 

「ふふん」

 

 ない胸を張ってみた……いや、もうあるんだった。

 

 最近、また胸が張るようになってきた。これはブラジャーのサイズを買い替えないといけないかもしれない。

 

 貴族用の下着というのはかなり高いのだ。数着セットで金貨数枚とか馬鹿げた値段が相場になっている。

 

 あまり私の肌着なんかで無駄遣いはしたくないが、伯爵にもなったことだし下手な格好をしているわけにもいかない。アルベレット先生にも顔向けできなくなるし、見えないところでも身だしなみには気をつけなければならないのだ。

 

 執務室で仕事をしている間は、レガルドに私の普段の生活ぶりを見せようと思ってそばにいてもらった。バルターはレガルドに気を遣って、だからこそいつも通り振る舞った。

 

「造幣局庁舎の建設は進んでおります。アイビス親子の屋敷は今しばらくかかるかと」

 

 庁舎の建設は去年の春から地元の土木家の人たちに依頼して話を進めて着工してもらっているが、何せ堅牢な作りにするためにここいらではあまり主流でない石造りを用いた建設になっている。

 

 庁舎自体は木造だが、その周りを石造の塀で囲むことになっているのだ。石材を積み上げてそれらをコンクリートで補強する。コンクリートは王都から輸入しなければならない。

 

 王国ではコンクリートは貴重なのだ。何せ周囲に火山が少ない。原材料が火山周辺で取れるのだという。

 

 アルガルド領では専ら木造建築が主流で、石積み程度なら経験があるそうだがコンクリートは扱ったことがないという。だから、工期は十全にとって慎重に建設を運ぶことになった。

 

 コンクリートは貴重だから、失敗してやり直しになったら目も当てられない。その上私から『爆発にも耐えられるぐらいにして』と無茶振りを受けているので四苦八苦しているそうだ。

 

 コンクリートといえば、と私は佐藤健の記憶の中から『鉄筋コンクリート』を思い出し、商会に話を通して地元の土木家達と連携して開発をしてもらっている。

 

 私が『石材やコンクリートの中に鉄筋を張り巡らせば強度が格段に上がるのではないか』と話すと半信半疑といった感じだった。アイデア自体は面白く感じたそうなので資金援助して研究してもらっていた。

 

 石材に穴を通すのは割れてしまうので難しいらしい。コンクリートを鉄筋に流し込むのならいいが、コンクリートがないと難しいということで現在は半分凍結状態である。コンクリートは王国では貴重なのだ。

 

 こういうふうに佐藤健の記憶は実に豊富な知識を私にもたらすが、そのほとんどが役立たずだ。無用な知識ばかりが蓄積されているといっても過言ではない。何せ、あっちとこっちでは条件が違うのだ。あの文明力を前提にしてもらっては困る。

 

 造幣局の建設に人員を割いて、アイビス達活版職人の屋敷はまだ建設途中だそうだ。工期は半年から一年と聞いているが、まだ土台作りの段階らしい。何せこっちも塀で囲って周囲を警備することになる。

 

 屋敷の塀は木造でいいんじゃないかという話があったが、アイビス達は造幣局と同じで領札発行後は存在価値が高まる。造幣局の原版が盗めないとなれば、次はアイビス達を狙うだろう。どちらかだけを守っても意味がない。

 

 造幣局とアイビスの屋敷の守りは同程度でなければ意味がないというと、いっそのこと造幣局庁舎とアイビス達活版職人の作業場を一緒にしてはどうかという話になった。確かに外部からの侵入には強くなるが、引き換えに内部からの侵入が弱くなる。

 

 例えば、造幣局の職員が何らかしらの形で買収されたとしよう。そして、おそらく彼女(あまり力仕事でないので女性を雇うつもりだ)がアイビス達の屋敷に侵入したとする。そこで何らかしらの工作を謀ったら目も当てられない。

 

 まだ原版はいい。次のストックがあるし定期的に私やアリスが監査に向かうから、原版がなくなっていたらすぐに気づくし、型を取られたとしても最悪紙幣を新しくすればいいのだ。

 

 しかし、アイビス達が手がけるのは『次の原版』なのである。これが何からしらの形で盗み出されれば先手を取られることになる。それは絶対に避けなくてはならない。

 

 土木家達と相談して、庁舎と屋敷を柵や仕切りで区切ればいいのではと提案されたが、その程度すぐに越えられる。警戒しているのは屋敷への『侵入』なのだ。その時点でその程度の障害はものともしないだろう。

 

 ならばいっその事、塀で区切ればという話になって、台なんかを用意されれば終わりだろうと意見が出たが、私はベルリンの壁みたいに鉄条網を返しとして設置すればいいんじゃないかと考えて、金属加工で有名なバルワルド商会に連絡を取った。

 

 有刺鉄線を生産可能かという私の問いに対し、『作ったことはないが、可能だろう』という返事をもらった。すぐに研究と生産の方向で話が進み、結局二つは一箇所に集められることとなった。

 

 元からアルガノドはアイビス達が利用する街になるので警備団を置こうと考えていた。造幣局と屋敷がある周辺を警備し、何かあればアルガノド駐屯兵が応援に来る。

 

 一箇所に集める以上、警備体制も厳重になる。それを突破しようとすればそれ相応の戦力を必要とするし、しかし、あまりにも規模が大き過ぎればそれは警備団の取り締まり対象になる。

 

 規模が小さければ警備を抜けず、規模が大き過ぎればアルガノドの駐屯警備団に目をつけられる。

 

 警備体制が決まったところで本格的に工事に着手してもらったが、今のところ屋敷の方が進んでいないらしい。まあ、敷地面積が大きいし広くなればなるほど頑丈に造らなければならないからな。

 

 屋敷の着工もつい最近だからあと一年はかかるだろう。有刺鉄線はもう開発しているから、そちらはそちらで防備や警備体制強化のために貴族や王国相手に売れるんじゃないかということで、バルワルド商会は出張営業している。とりあえずマルデリア公爵には話をしておいた。

 

 外壁技術に関しても堅牢なものを作れるようになった場合、伯爵家がそれを買い取ることになっている。警備体制の強化は元々伯爵家の課題の一つだったし、こちらが金を出すとなれば各地で土木産業が活性化するだろう。

 

 そういう狙いもあって造幣局建設は公共事業や経済の活性化の側面も帯びるようになっていた。

 

「有刺鉄線の売れ行きはどうなのかしら」

 

「あまり芳しくないようですね。導入に戸惑いがある貴族が多いようですし、それらを張り巡らせるとなるとどれだけ効果があるのか疑わしく、効果があるにしても見栄えが悪いと考える貴族は多いようです」

 

「貴族にとって家は自分の顔みたいなものだから、芸術品のように金をかけるところも多いからね」

 

 側にいたレガルドが口を挟む。

 

「治安が悪いから売れると思ったのだけれど……あまり危機意識が王国では芽生えていないようね」

 

「むしろエノールが高いほうじゃないかな。こんなに熱心に警備体制について考える人は見たことないよ」

 

「エノール様は先見眼に富んでいらっしゃいますから」

 

「ただ必要があるだけよ。いつ伯爵家が襲われてもおかしくないのに……ギリギリ貴族の周りは平和で前例がないことが仇になっているわね」

 

「前例なんてない方がいいんじゃない?」

 

「そうかしら」

 

 エノールは背もたれにかける。いつかその前例がやってくるんじゃないかと考えていた。

 

「まあそれならうちの独占技術にしたらいいわね。需要もうちが一番でしょうし、他で売れないとなればバルワルド商会も安くしてくれるでしょう」

 

「エノール様、もう一つお耳に入れておきたいことが」


「何?」

 

「地主の一部が麦の取引規制に関して不満を訴え、一切の取引をやめてしまったようです。そのせいで麦商人や商会などから苦情が来ており……」

 

 レガルドはその言葉に緊張した。地主とのいざこざは貴族にとっても厄介なのである。

 

「それなら伯爵家から麦を売りなさい。麦の供給は民の生活にかかっているわ……なるほど、価格規制と数量規制でどうにもできないのは地主の売買ストライキね。儲けるためでなくあくまで伯爵家に対するデモ……参ったわね。それは予想していなかったわ。バルター、どうしたらいいと思う?」

 

「地主が今後、そのような真似ができないようになさるのいいかと思われます」

 

「方法は?」

 

「罰による見せしめ、もしくは原理的にストライキをしても何の影響もなくなるようにすればいいかと」

 

「罰による見せしめの名分とその影響は?」

 

「『民の生活を揺るがした』が十分な大義名分になるかと。しかし、そうなればますます地主が反感を募らせて売買取り止めが全体に波及すれば大きな問題になります」

 

「そうね、あまり賢いやり方とはいえないけど、逆に伯爵家が完全に取引相手を独占する方法があるんじゃないかしら?」

 

「……私にはそういうことは得意ではありません。エノール様の方がお考え着くのでは?」

 

「主人に考えさせるとはいい度胸ね。いいでしょう……」

 

 エノールはしばらく考え込む。バルターは瞠目し、レガルドは緊張した様子でエノールを見ていた。

 

「……ストライキを起こした地主の売買権停止はどうかしら」

 

「そうなれば彼らが持つ麦を遊ばせることになります。エノール様が危惧していた闇市場拡大にもつながる恐れがありますし、そもそもどれだけ地主を抑え込めるか……地主との全面戦争になる恐れがあります」

 

「論外ね。見せしめには地主が納得する理由が必要ね」

 

「地主は元々取引規制に対して否定的なので納得しないかもしれません」

 

「それならストライキを無意味にすればいいのね。だったら手筈通りよ」

 

「と言いますと?」

 

「以前話したでしょう? 『限定売買』を利用する。伯爵家が市場介入して十分量を市場に供給して、売却分を後から数量規制の対象外となる『限定売買』によって地主から回収する。普段より高いレートで売れるから、そのままのレートで買い取れば地主も食いつくはずよ。多少手数料としてレートを低くしてもいいけど、今回のストライキも不正取引を目的としたカルテルもやっていることは一緒だから、対処も一緒でいいわ」

 

「エノール、ちょっといいかい?」

 

「何、レガルド?」

 

 バルターはレガルドがエノールの仕事の手を止めていることについては何も言わない。婿入りするのであればある程度エノールの仕事について理解しておく必要があると考えたからだ。

 

「ごめんよ、仕事の邪魔をして」

 

「いいのよ。貴方に私の仕事ぶりを見せるために居てもらってるんだから。それで、どうしたの?」

 

「それなら伯爵家がそのまま売り払って仕舞えばいいんじゃない? 結局、地主の在庫が伯爵家に移動しているだけだし……」

 

「だからよ」

 

「え?」

 

「この狙いは二つ、伯爵家の財源となる麦の在庫を減らさないこと。もう一つは一部の地主のストライキを利用して他の地主が儲けられることによって、その影響を打ち消してしまうシステムを作ることよ。地主の伯爵家に対する反抗を自己利益を追求する他の地主の行動によって無意味にしてしまうの。それが地主全体の団結を防ぐことになる。伯爵家の麦の在庫も無限ではないから対処にも限度があるのよ。収穫の半分だけじゃ領民達を食べさせていけないわ。そこで数量規制によってあまり儲けられなくなった地主に、数量規制を受けない取引をちらつかせれば必ず彼らは食いついてくる。こちらが先に麦を売っておいて、麦の量に応じて周辺の相場より高いレートで買い取れば他の地主にしても利益が出る。だから、売買停止のカルテルに参加しない地主は必ず出てくるってわけ。早い者勝ちにすれば競争心が出てこのシステムの価値はより高くなる。そうなれば地主全体の協調が乱れて、必ず売買ストライキを起こしていない地主が得をするために内輪揉めをすることになるわ。人は自分の利益を追求したがるもの。結局、売買停止は民も困るけど地主も収入が入らなくなるから、離反者は必ず出てくる。そんな彼らに甘い汁を吸わせれば、それが利益に結びついた自治機能に繋がるの。反抗に対する抑止力、敵同士で争わさせるの。擬似的な集団的自衛権の構築ね。分かったかしら?」

 

 レガルドはこくんこくんと頷く。その様子に執事長は満足そうにしていた。

 

「エノールは、すごいことを考えているんだね。集団的自衛権とか……俺じゃあ絶対思いつかないや」

 

「私の仕事ぶりを見ていたらその内思いつくようになるわ。貴方を私色で染め上げてあげる」

 

「エノール、そんな……」

 

「……」

 

 バルターはこれさえなければ完璧なんだろうなぁ……と遠い目で見ていた。


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