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第三話 少女の才能鑑定

 

 オーブリーが町を去って一年が経つ。


私は相変わらず教会裏にいて、一人だけど、最近はあまり泣くことはない。


オーブリーに貰った笛の練習で忙しいからだ。


家だと周りに気を使うし、弟もまだ小さいのでおもちゃにされかねない。


私は母に頼んで首から下げる袋を作って貰って持ち歩き、いつも教会裏で吹いている。




 幸い、記憶にある楽器に近いため音階や操作に不便はない。


ただ指が小さいので思うように音が出せなかった。


だけど、練習を始めてもうすぐ一年。


だいぶ慣れてきている。


「おや、素敵な音色が聴こえると思ったらアリーヤかい」


「神官さま、こんにちは」


私は急いで礼を取る。


白くて長い髭の高齢の神官様だ。


 このお爺さん神官は、私や私の家族にはいつも優しい。


私も弟も産まれた時にお世話になっているし、五歳の私の封印をこっそり解いてくれたのも、このお爺さんだ。


とても忙しそうなのに、時々こうして顔を見に来てくれる。




 この世界では神職者のほうが貴族より位が高いことがある。


人の生死に必ず必要な職業だし、かなりの修行が必要なので民の尊敬を集めていた。


それに魔力解除の儀式で子供に神職関係の才能があると分かると、すぐに神官学校に推薦される。


国からの援助で学費は無料だし、家族の生活面も保証されるので人気のある職業だ。


「そういえば、アリーヤの解除の儀式ももうすぐじゃな」


「は、はい」


私の場合は、すでに魔力の封印は解除されているけど、内緒だったため今までは家の中だけでしか使えなかった。


儀式が終われば外でも自由に使えるようになる。


 あとは、何の才能があるかを調べる儀式が残っていた。


「才能はただの目安じゃから、あまり気にしないように」


「はい」


何もない人のほうが多いらしい。


「ワシとしては、アリーヤに神職の才能があると嬉しいのじゃが」


神官様は優しく微笑む。


私も笑って頷いた。


修行は大変そうだけど、役立たずの私でも家族の生活の助けになるなら、ありがたいと思う。




 そうして、その日はやって来た。


この町で産まれた同年代の子供が一斉に教会に集まるため、その日は店や市場もお休みになる。


いつもの商店がお休みの代わりに教会前の通りにはお祭りのような露店が並んでいた。


父はもうすぐニ歳の弟を抱き上げ、私は母と手を繋ぐ。


「アリーヤ、大丈夫よ」


私の手から緊張が伝わるのだろう。


母は私を慰めるように微笑む。


「そうだぞ!。 何にもなくたってアリーヤは可愛いからな」


「ありがとう、お父さん、お母さん」


自分の記憶の底にある両親とは全然違うけど、この世界の私も以前とは違うのだから違って当たり前だ。


私は、こちらの両親も大好きだし、親が二組いるのだと思うことにしていた。




 教会の受付で番号を書いた札を渡される。


私たちは順番が来るまで神殿で祈りを捧げながら待つ。


この町は結構大きく子供の数も多いので、常駐している神官様たちが総出で解除にあたる。


他に、才能を見るために司祭さんが王都から来ているそうだ。


 今日は年に一度のお祭りなので、儀式の子供たちとは別に住民たちもたくさん参拝に来ている。


教会の中はいつもより賑やかだ。


「迷子にならないようにな」


「うん」


そこへ誰かが挨拶しながら近付いて来た。


「こんにちは」


弟のティモシーと同じ年くらいの子供を抱いている若い夫婦だ。


「あら、お詣りですか」


「ええ」


両親が親そうに話し始める。


「やあ、アリーヤちゃん」


旦那さんのほうが私に話し掛けてきた。


兵士なのか、父より若く細身だけど筋肉質の体をしていて剣を腰に下げている。


私はふとオーブリーが大人になったら、こんな感じになるのかな、と思った。


「こ、こんにちは」


人見知りを発揮して父の大きな背中に隠れていたら、奥さんが笑っている。


「あなた、忙しくてあまり顔を出していないから忘れられてるのよ。


こんにちは、アリーヤちゃん。 私なら分かるかしら?」


今度は奥さんのほうが話し掛けてきた。


あ、この人なら分かる。


「お隣の小母さん」


奥さんは勝ち誇ったように旦那さんを見た。


いつも弟の面倒を見てくれているお隣の若い夫婦だった。




 楽しくお喋りしている間に周りの人影がかなり減っている。


私たちはのんびり来たせいか、どうやら最後のほうだったみたい。


番号が呼ばれて返事をすると修道服のお婆さんが迎えに来てくれた。


「行こうか」


「うん」


私は父と手を繋ぎ、後ろから弟の手を引いた母が付いて来る。




 扉を開け小部屋に入ると、いつもの神官のお爺さんがいた。


「ご家族は隣の部屋でお待ちください」


修道女の言葉に父が、


「承知いたしました」


と、丁寧な礼をとり、私を神官様に任せる。


「アリーヤ、すぐ隣の部屋にいるからな」


父も珍しく緊張しているのが分かる。


「うん」


私が務めて明るく答えると、両親は頷いて部屋から出て行った。




 神官のお爺さんはニコニコしながら私に座るように勧める。


来客用の部屋らしく、低めのテーブルに三人掛けのソファが向かい合わせに置かれていた。


よく見ると部屋の隅に見たことのない若い神官様がいたので驚いてビクッとした。


お爺さんも新しい神官服だけど、その人は見たこともない豪華な祭礼用の服だ。


若い神官様もお爺さんの隣の席に座った。


 いつも子供たちの面倒を見てくれている修道女の小母さんがお茶を運んで来る。


「アリーヤちゃんもどうぞ」


三つのカップが並ぶ。


「はい、ありがとうございます」


カップはいつもより上品で、お茶もすごく香りが良いから高級品なんだろうな。


でも、知らない人がいるので気になって手が出ない。


(たぶん、この人、身分が高い人だよね)


若い神官様を上目でそっと見る。


どうして私はここにいるんだろう。


いやいや、こんな人がここにいるのがおかしい。




 グルグル考えていたら、お爺さんがコホンと咳払いした。


「アリーヤ、コイツのことは気にせんで良い。


ワシの遠縁でな。 まだ王都で修行中の身なのじゃよ」


「は、はあ」


修行中にしては服や装飾品も高そう。


それに、さっきからずっと睨まれてる気がする。


「さてと、手を出してごらん」


「はい、神官さま」


若い神官様を横目で見ながら恐る恐る手を出す。


お爺さん神官の手には小さなメダルが握られていて、それと一緒に私の手を包み込む。


「このメダルは鑑定用でな。 魔力を通すことでその者が持つ才能を示してくれるんじゃ」


私は不安な顔で握られた手を見る。


「大丈夫じゃ、お前さんの秘密は守るでな」


「えっ」


あ、個人情報だもんね。 教会側は子供たちの才能について口出しはしない。


ただ稀有なものや神職に関する才能については国や教会に推薦することはある。




 ホワンと握られた手の中が光った。


びっくりしたけど手は暖かい程度。


お爺さんはしっかりと私の手を握っていて、離してはくれない。


目を閉じている。


「あのぉ」


私が声を掛けるとお爺さん神官は静かに目を開いた。


「ふむ、面白い。 アリーヤの才能は『音』じゃな」


「『音』ですか?」


お爺さんは頷いた。


手を開いてメダルを回収し、テーブルに置いてあった箱に納める。


儀式はもう終わったみたい。


「アリーヤや、コヤツにお前さんの笛を聴かせてやってくれんか」


「う、うん、いいよ」


私は言われるままに、笛を取り出して吹く。


若い神官様は少し驚いたような顔をしてたけど、吹き終わると「素晴らしい」と微笑んでくれた。



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