8 アロエ:苦痛 後編
後編は痛い表現も多くなっております。
苦手な方はご遠慮下さい。
二人で玄関を見つめていると待ちきれなかったのか連続してチャイムを押される。
ーーーリンゴンリンゴンリンゴン
ーーードンドンドンドンドンドン
あまりの異質な訪いにより恐怖が膨れ上がる。
「うぁっ……ッ!」
人生で初めて、といっても過言ではないスピードで『花』が成長を始める。
あまりの痛みに立って居られず、うずくまる様にして蕾を押さえる。
それでも成長は止まらない。
押えていた手の平を押し上げる様に蕾が膨らみ始め、花弁も柔らかく、もう咲く寸前である。
契約があるので潰す訳にもいかず、痛みを堪えて手を離した。
チャイムの音に、慌てて飛び出して行った瀧本が、チャイムのスピーカーで外の人に内側からは鍵が開けられない事を説明している。
ああ、やっぱり私は閉じ込められたんだな、と他人事の様に思った。
ドアの外で何事か話している声が聞こえて、間もなく激しい音を立てて扉が開いた。
ーーーガチャリ、バンッ!
ーーーダッダッダンダンダンッ
開いた扉から、荒々しくこちらまで走ってきていることが分かるが、首が、背中が、痛くて動けない。
車の中での急成長の疲れも回復していないうちから、また咲くなんて私は死んでしまうのではないだろうか?
一際大きく足音を立てて、私の視界に綺麗に磨かれた革靴が現れた。
「ああ……コレだ」
あれだけ激しい音を立てていたのに、存外静かに落ちた声は狂気を孕んでいた。
うずくまる私の頭を大きな手で押さえて、反対の手でゆっくりと髪を退ける。
「ねぇ、どうやったら、コレ、咲くの?」
優しく、甘く、恐ろしい声が降って来る。
ぶわりと全身から嫌な汗が吹き出して、メリメリペリペリと『花』の咲く音が頭に響いた。
「ふっ、ぐぅぅ……!」
「アハっ!イイね!お前、イイよ?ホラ、あと少し、頑張んなよ!咲いたらちゃーんと食べてあげるからさぁ!」
激痛と、恐怖で体が震えて涙が溢れる。
咲き切った『花』は車の中よりも鮮烈に甘く強い香りを撒き散らした。
「咲いたぁ、咲いたよ!あぁ、おまえは本当ぉーにイイ子だね。動いたらダメだよ?ジッとしているんだ。分かったね?」
アハハハハハ、と狂った様に笑いながら、私の頭を床に押し付ける。
グッタリと全身を襲う倦怠感と、自分を抑えつけている大きな手の恐怖に身動きが取れない。
手の主は私の上に覆い被さり、花弁を一枚噛みちぎった。
「あああぁぁぁぁっ!」
初めての「噛みちぎられる」痛みに悲鳴が上がる。
ぶわりと視界が歪み、奥歯がガチガチと音を立て、手が勝手に首を押さえる。
転げ回りたいくらいに痛いのに、抑え込まれていて出来ない。
「はあぁぁぁぁ……っ」
悶え苦しんでいる私の上に、満足気な溜息が落ちてくる。
「サイコー……、ほんっとぉーに、おいっしい。ね?このままさ、ぜぇんぶ、食べても、イイ?」
心の底から幸せそうな声で語り掛けられる。
私の苦しみなど欠片も考慮に値しない様な態度だ。
だというのに、私には拒否権が無い。
この「坊ちゃん」と呼ばれる人の為に、私は買われたのだから。
でも。
「お願い、します……せめて、切り、落として、下さい……」
でもお願いしたら、叶えてくれないかな?
こんな、ケモノみたいな食べ方よりも普通に食べた方が食べやすいよね?
痛みにボヤけた頭で考えた時に、覚えのある痛みが首筋に走った。
ーーーメリッ
新しい蕾の出現に、涙と悲鳴が溢れるのを止められなかった。