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48 リナリアのタッピング:乱れる乙女心 後編

 なんかえっちくなりましたがただのタッピング(医療行為)です。


「…………瀧本、どういう事だ?」

「見ていただいた通りです」


 低く問われた東条の言葉に、シレッと何事もないかの様に答える瀧本が少し憎らしい。

 背後にいた名月も目を丸くしている。

 もしかしなくてもこれは瀧本の独断では?

 じとりと瀧本を見れば、涼しい顔で笑っている。


「本日からタッピングは本人の許可を得てから、と思いまして」

「……せめて一言教えておいてくれ。心臓に悪い」


 フラリと壁に寄りかかる東条は顔色が悪い。

 どうしたのだろうか、体調が悪い中わざわざタッピングをしにきてくれたのだろうか?

 それはなんだかとても悪い事をした気がする。


「だ、大丈夫ですか?」

「いや、問題ない……いや、あるか?あるな。これから何をするか聞いているかい?」


 ソファーに座り直して声を掛ければ、疲れ切った声が返ってくる。

 頭を抱えて視線を逸らしつつ確認する東条は、今度は顔が真っ赤だ。

 熱が出てきたのかもしれない。


「っ!……た、タッピングを……」


 最後の方はごにょごにょと濁してしまったが、どうやら意味は正しく伝わったらしい。

 少しホッとした様子でこちらを見る。


「では、もう聞いているかもしれないが、今まで黙っていて済まなかった。キスは嫌だと言っていたにも関わらず寝ている間に何度もタッピングをしてしまった。涼菜の身体の為とはいえ、申し訳ない」

「い、いえ、確かにとても驚きましたし、『私のファーストキス!』とも思いましたが、私の心と身体の健康を維持する為だとちゃんと把握していますから……」


 真摯に謝ってくる東条にあわてて気にしていないと伝える。

 焦りすぎて変なことまで言ってしまった気がするが、精神衛生上気のせいにしておきたい。


「ファーストキス……」


 そこを復唱しないで!

 二人で赤くなったり青くなったりしながら謝り合う。

 収集がつかなくなった為、私は瀧本にリクライニングソファーに押し倒され、手で強制的に目を瞑らされた。


「さ、坊ちゃんも。もう夜遅いですからね。サクサク終わらせてさっさと寝ないと明日が大変ですよ」

「……わ、かった」


 ムードもへったくれもなく、さっさとヤレ!そして寝ろ!と全身で言われる事に妙に笑いが込み上げてくる。

 そうだ、これはただの医療行為。

 愛とか恋とかキスとかではなく、タッピングなのだ。

 そう思うと、力が抜ける。


「その、じゃあ、リラックスしていてくれ……」

「ハイ」


 目を閉じているのに、何故か東条が近づいてくるのがわかる。

 足音、衣擦れの音、吐息ーーー。

 ソファーの縁に腰掛けたのだろう、きしりという音と共に右側が沈む。

 ゆっくりと被さってくる気配に、必死で瞼に力を込める。


 目を閉じているからこそ、顔の前に近づく他人の温度が分かる。

 ふ、と唇に掛かったのは東条の息だろうか?

 不意に心臓がどくどくと鼓動を早め出した。


(こんなに近いなんて……!)


ーーーふに


 柔らかなものが唇に触れた。

 反射的に身体が跳ねる。

 一瞬引いた後、ゆっくりと押し付けられる()()は、想像していたよりもとても柔らかく、ふわふわとしていた。

 唇の隙間を開く様に舐められて、思わず目を開いてしまった。

 視界いっぱいに映るのは東条の瞳。

 真っ直ぐに私を見ていて、目が合うと嬉しげに微笑んだ。


(ふぁーーーーっ!)


 何が何だかわからない感情が頭と胸をぐわんぐわんに振り回す。

 叫びそうになって開いた口に()()()が入ってきた。


 柔らかくて少しざらついたソレは、とても甘く芳醇で、身体の奥から蕩けそうになる。

 ジン…と頭の奥が痺れ、何も考えられなくなる。

 目も開けていられなくて、ぎゅっと瞑る。


 ふ、唇がほんの一瞬離れてまた東条が笑った気配がした。

 頭を撫でる様に手を滑らせて、数度の後、後頭部を抱えこまれた。

 思いがけない力強さで、でもそれは嫌ではなく。

 より深い角度で口付けられて、送り込まれるのは何よりも抗いがたい甘露。


 本能がソレを求めるかの様で、勝手に身体が動く。

 お腹の上で絡めていた指を解き、逃げられない様に前にある東条のシャツを掴んだ。


 自分が何をしているかぼんやりと霧がかかった様な向こうから見ている気分だ。

 濡れた音が響く度に体から力抜けていく。

 美味しくて、多幸感でいっぱいで、ずっとそうしていたいのに頭の奥が痺れて気が遠くなる。

 ずっと掴んでいたいのに、手には力が入らなくなる。

 なのに心はとても満たされて。

 心と身体の全部が幸せに包まれている気がする。

 その幸福感に耐えられず、私はくたりと脱力してしまった。

 全身に全く力が入らない。


「ふふふ、お腹いっぱいになったのかな?」


 くたくたになった私の頭を撫でて微笑む東条はとてもとても幸せそうだ。

 そのまま私をお姫様抱っこでベッドまで運んでくれる。

 恥ずかしすぎて顔がまともに見れない。

 何これ、キスより恥ずかしいんじゃない?


「じゃあ、おやすみ。良い夢を」


 頭を撫でて、額にキスを落とした東条は微笑んで寝室から出て行った。

 無言の私は、ようやく動く様になった手で布団を頭まで被る。

 今までこれ、無意識で受けてたのか。

 恥ずか死ねる。

 涼菜の本能覚醒。

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