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47 赤いシクラメン : 嫉妬 前編

 ホームルームが終わり、麗と一緒に教室を出た。

 なんて事ない話をしながら、校門前に向かおうとすると、後藤が止めた。

 なんと珍しく東条が迎えに来ていないらしい。

 ここ最近はほぼ毎日と言っても良いほどに来ていたので、何か違和感がある。


「今日は後藤さんが運転なんだ」

「ええ。いつもとは逆に、坊ちゃんを迎えにでも行きますか?」

「え?!」


 車に乗り込みながら後藤と話す。

 何だか久しぶりだ。

 確かにいつも迎えに来てもらっているから、迎えに行ってみたら喜ぶだろうか?


「いや、冗談…」

「……行っても良いのかな?」


 ポツリと心の声が溢れると、後藤が慌てて振り返る。

 あ、ダメっぽい?

 無理ならこのまま家に帰るけど。


「やっぱり、だめ、かな?」

「い、いいえっ、勿論大丈夫ですっ!」


 妙に焦る後藤が、一度名月に連絡をすると言って運転席から出ていった。

 変に緊張した感じに電話していて、観察していると面白い。

 大人は電話しながらぺこぺこお辞儀するって本当なんだ。

 スマホを耳につけた状態でぺこぺこしている厳つい見た目の後藤が、とてもコミカルに見える。

 

 いつもより少し荒れ気味の運転で、見慣れぬ道を走る。

 それは思っていたよりも新鮮で、窓の外の変化を楽しんでいるうちに、東条の通う有名大学に着いてしまった。

 専用の駐車場に入り、後藤の案内に従って大学への訪問手続きを終える。

 東条が門前まで迎えに来てくれているらしいので、そちらに向かう。

 歩いている最中に、彼方此方からの視線を感じた。

 制服のまま来てしまったので、女子高生が居るとちょっとした騒ぎになっているらしい。

 「野生の女子高生だ!」や「今日オープンキャンパスだったっけ?」「あの制服お嬢様高校のー」など聞き慣れぬ言葉で、ざわざわと騒ぎが広がっていく。


 居心地の悪い中、正門に向かって歩いていると、東条がこちらに走ってきた。

 普段と同じように、シャツとジャケット、細身のパンツで清潔感のあるスタイルだが、首に学生証を下げているのがどこか新鮮に見えた。


「涼菜。よく来てくれたね、迎え、ありがとう」


 喜色満面の笑顔で迎えられ、何故か途端に恥ずかしくなる。


「いつも、来て、くれてる……から」


 別にお礼なんかいらないと言いたかったのだが、どうにも恥ずかしくてどんどん声が出なくなる。

 赤くなっているであろう顔を上げていられなくなり、俯いてしまう。

 そんな自分に小さく笑って、手を出す東条。

 「もう少し時間がかかるから一緒に教室に行こう。そこで少しだけ待っていてほしい」と話しながらエスコートされる。

 先程も私を見つけた人たちが騒いでいたけど、今はそれ以上の騒ぎだ。

 「東条が女の子連れてる?!!」と誰かが大声で叫んだ途端、爆発的に衝撃が連鎖していった。

 わざわざ私達を見に建物から出てくる人が大勢いた。

 私は、さっき以上に居た堪れない気持ちで、ひたすらに足を動かす事だけに集中した。


 教室に入ると、五人の男女が迎えてくれた。

 どうやらグループ研究の総合レポートが終わっていないらしい。

 机の上にはいくつかの資料と、ノートパソコン、タブレット、デジカメ等が散らかっていた。


「お、やーっと帰ってきたな晃」

「いきなり出てくるって飛び出して行ったから焦ったぞ」

「そうそう。晃くんがいないと終わらないんだからね?」


 五人は口々に東条に文句を言っている。

 でも表情は楽しそうで、本気で怒っていないのはすぐにわかる。


「うふふ〜、晃くん、女子高生連れ込むなんてイケナイんだ〜」

「連れ込んでなんかいない。俺を迎えにきてくれたんだよ」


 ニマニマと私を見ながら笑う、綺麗な女の人と嬉しそうに話す東条。

 何故だかそれを見ているだけで、もやもやとした気持ちになる。

 知らない人に囲まれているからだろうか?

 エスコートで繋いでいた手を離し、そっと名月と後藤の間に挟まりに行く。


「ねえねえ、何ちゃん?お名前は?」

「ひゃっ!」


 最初に東条を揶揄っていた男の人が背後から声を掛けて来た。


「わあ、驚いた声も可愛いじゃん!冷たい晃には勿体無いね!」

「……」


 にこにこ笑いながら話しかけてくる男の人との間に後藤が身体を割り込ませた。

 物理的に距離が開いた事にホッとして、後藤の影に隠れるようにして名乗る。


「日野、涼菜です」

「高校生だよね!晃とは親戚か何か?迎えに来たって言ってたけどどっか行くの?」

「え……えと、あの……っ」


 矢継ぎ早に質問が飛んできて、どう答えて良いかわからない。

 それよりもこの人、まさか後藤が見えてないとか言わないよね?

 全く意に介せず、私にだけ話しかけてくるんだけど?!


「何涼菜に手を出そうとしてんの?亮輔」

「?!」


 冷えた声と共に腕がにゅっと出て来て、私を抱き寄せる。

 驚いて見上げれば、それは東条で、すごく怖い目で話しかけて来ていた男の人を睨んでいる。


「手を出したりなんかしてねーって。名前聞いたりしてただけじゃん。コミュニケーションだよコミュニケーション。晃が涼菜ちゃんほっとくからいけないんだろ?居心地悪くてお付きの二人の間に挟まりに行ってたぜ?なぁ、涼菜ちゃん」

「あ、えっと……ハィ…」


 いきなりいっぱい話しかけられてびっくりしたけど、この人いい人だった。

 私が居心地悪いのに気づいて話しかけてくれてたんだ、と顔を上げると、私を抱いている腕の力が強くなる。


「それはありがとう。でも亮輔がさっさとレポート書いててくれたら、涼菜はこんなとこまで来なくて済んだんだけどな」

「それは言わない約束だろ?」

「そんな約束してない」


 冷たくあしらう東条にもめげずに、ケラケラと笑いながらパソコンの前に戻ったその人は、ゆっくりしてってねー、と一言私に言ってカタカタと軽快にキーボードを叩き始めた。


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