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42 向かい合うゼフィランサスとマーガレット : 期待と信頼


 麗と色々話して、踏ん切りがついた。

 東条に会おうと思う。

 きちんと『花生み』として向かい合うから、家族に会わせてほしいと願おう。

 温室で育てていたマーガレットを一輪、名月に託す。

 花言葉は「信頼」

 東条が栞の返事だと気が付けばそれで良い。

 気がつかなければそこまでだ。


「晃様がお会いしたいと申しております」

「はい」


 名月が少し強張った声で、東条の希望を伝えて来た。

 きちんと花の意味は伝わった様だ。

 私はこくりと頷いて、場所を指定する。

 場所は以前の『温室』のリビング。

 中に入るのは、私と東条、瀧本と、名月に後藤の五人だけだ。


「ちゃんと顔を見て話すのは久しぶりだね、誘いに乗ってくれて嬉しいよ」

「そうですね。いつも新刊ありがとうございます」


 東条の笑顔は少し強張っているけれど、それでも嬉しそうに、にこにことしている。

 せっかくなので、新刊のお礼もここで言っておく。

 買い物にも行けないので、新刊が自動的に送ってこられるのはとても嬉しい。

 当たり障りのない話を二、三交して、本題に入った。


「少し長くなるけど、俺の話しを聞いてくれるかな?」

「はい」


 東条のテーブルの上に組んだ手に、力が込められ、ぎゅぅっと音を立てている。

 カップから手を離し、膝の上に置いた。

 東条が、『花食み』として自覚した幼い頃から、私と出会った頃までの話をポツリポツリとして来た。

 お腹が空いて、くらくらして、辛かった事。

 あやのさんに会って救われた事。

 すぐに足りなくなって、小鞠さんが此処に来た事。

 それでも足りず、新しい『花生み』を探し回った事。

 飢餓感に気が狂いそうになった事。

 そしてーーー


 私と出会った事。


 時間を掛けて、お茶を飲みながら東条の話を聞く。

 正直、可哀想だと思うけど、それでもやっぱり許せない。

 お腹が空いていたら、あんなに乱暴な事をして良いの?


「君に謝って許される事では無いと分かってはいるんだ。でも、君を傷つけたいと思った訳では無い……信じてはもらえないだろうな。俺はそれだけのことをした」

「そう、ですね。次は、もう知ってるかもしれませんが、私の話を聞いて下さい」

「ああ、聞かせてくれるなら、いくらでも」


 にこりと苦い笑顔で微笑む東条に私は今までのことを話した。

 小さい頃から奇病を患っていた事。

 それによって生活を制限され、家族を悲しませた事。

 生活が苦しく、お腹いっぱい食べた事はなく、ずっと空腹と戦っていた事。

 それでも家族と楽しく幸せに過ごしていた事。

 バイト先で『花』が名月にバレて生活が一変した事。

 それでも、この贅沢な生活に少しワクワクしていた事。

 いきなり襲われて、恐ろしかった事。

 痛くて苦しくて、家族に泣きつきたかった事。

 名月が手紙を届けてくれている事。


「私は逃げません。これからは定期的にここのサンルームに入ってでも、『花』を咲かせます。だから……だから、家族と会わせて下さい!」


 なんだったら東条が同伴でも構わない。

 鍵の掛かる部屋での再会でも構わない。

 それでも、会いたい。

 自分が元気だと、皆を愛していると、伝えて抱きしめたい。

 話しているうちに、涙が込み上げ、ボロボロとこぼれ落ちていく。

 視界は歪んでほとんど見えない。

 だけど、伝わって欲しいから、東条からは目を逸らさない。


「絶対に居なくならないから……『花』もちゃんと届けるから……」

「……わかった。君が『温室(ここ)』に居てくれるのなら、家族との面会も、外出も許可しよう」

「ーーーっ!」


 絞り出す様な苦い小さな声が聞こえて、目を見開く。

 聞き間違いじゃ、ないよね?


「俺達は協力者だ。お互いに『花』と体液をの交換し合うヤドリギ。君を閉じ込めるのはやめる。その代わり、必ず『温室(ここ)』に帰って来てくれ。君はもう俺にとって替えのきかない大切な『花生み』なんだ」

「〜〜っ!わか、り、ましたっ!」


 泣き過ぎて上手く喋れない。

 それでもなんとか了承を伝えて崩れ込んだ。

 瀧本がハンカチを持って来て肩を抱いて喜んでくれる。


 やっと、スタートラインに立てた気がした。


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