41 デンファレのブーケとラペル : お似合いの二人
今回も説明回。
ちょっと長いです。
「ね、涼菜。ずっと私気になっていたんだけど、涼菜は、身体に花とか、咲いたりしない?」
新しい温室に遊びに来た麗の一言に、後藤と瀧本が瞬時に私達の間に割り込んだ。
私も、予想外の言葉に身を固くする。
「あー、やっぱりそうか。大丈夫。私には『ブートニア』が居る。涼菜に手は出さないよ」
麗の言った意味はいまいち良く分からないが、後藤の警戒が少し緩んだ。
険しい顔が元の無表情に戻り、少し横にズレる。
瀧本はそのままだ。
「涼菜がヤドリギとの関係に悩んでいるみたいだったからね。相談に乗ってあげたくてさ」
ブートニア?ヤドリギ?知らない単語が出てくる。
頭をこてりと傾げると、麗が大きくため息を吐く。
「貴方達ねぇ、ちゃんと教えるべき事を教えてないでしょ?それでどうやって理解してもらおうと思ってた訳?」
「それは…」
呆れる麗に視線を逸らす二人。
席に着き直し、新しい紅茶を出す様に指示すると、麗はまっすぐに私を見た。
「ねえ、涼菜は花体質についてどれくらい知ってるの?」
「え、えっと……」
麗の質問に答えて良いのかどうか判らず、瀧本を見る。
こくりと頷かれたので、知っている事を伝える。
『花生み』と『花食み』がいる事、
『花生み』はその身に『花』を咲かせる者のことで、『花』の生み方はそれぞれ個々人で違う。
『花』を生み出すタイミングは完全にコントロールはできず、生み出す際には苦痛を感じる人もいること。
『花生み』によっては、この体質のせいで体が弱い者もいるらしい事。
そして、イマイチ実感は無いけれど、『花生み』にとっての一番の栄養は『花食み』の体液であるのだそう。
飲んだ事は無いけどね。
『花生み』と『花食み』の関係性として、恋人、夫婦関係に相当するブートニエールというものがある事、ブートニエールである『花食み』の体液であれば、『花生み』にとって更なる活力をもたらすとか、愛されているという自覚があるほど、生み出す際の苦痛を軽減する効果を持つとか、言われたけどちっとも理解出来ない。
『花食み』はその名の通り、『花』を食う者。
『花生み』の生み出す『花』を食し、自身の糧とする。
『花食み』は何らかの能力に秀でている者が多いが、その反面、性格面・精神面に不安定なものを抱えている人が多いらしい事。
普通の人間の食事も可能ではあるが、『花生み』が生み出した『花』は『花食み』にとって栄養価が高く、『花』を食するという行為は『花食み』にとって非常に有益な効果をもたらすらしい。
『花生み』が生み出す『花』であればどんな『花』でも食せるが、相性のいい相手、特にブートニエールの関係になった『花生み』の生み出す『花』や体液は、『花食み』に最も美味しいと感じさせ、得られる効果も高まる。
この為、ブートニエールの関係に至った『花生み』への愛情は特別深く、依存度・独占欲が強い傾向にある。
「……ってことくらい?よくわからないけど、私の『花』を、東条さんが食べてるって事だけは、わかってる。そのおかげで、私の家族が生活を援助してもらえてる。前は他にも二人居たけど……今は私一人だから足りてるかはわかんないけど」
「ヤドリギではなくヒヨドリだったのね?呆れるわ。流石東条ね……。涼菜、頑張ったんだね」
ギュッと抱きしめられて、頭を撫でられる。
何故だか涙がポロポロ出てきて、部屋が騒然とした。
「落ち着いたかな?じゃあ基本は知ってるみたいだから、ちょっと補足する」
「あ、うん……ごめん」
そうして麗は、紅茶を一口飲むと、改めて説明を始めた。
「まず私は『花食み』だ。花蓮が『花生み』。双子で二人とも花体質だったんだ。双子だから相性も良くて、幼い頃にブートニエールになった。
花蓮は『ブートニア』 、ブートニエールが成立している『花生み』を指す呼び方なんだよね。そして、同じくブートニエールが成立している『花食み』はラペルと呼ばれるんだ。ここまでは大丈夫?」
「う、うん」
結婚して、夫婦になった人を夫、妻って呼ぶ感じかな?となんとなく理解する。
「そして、ブートニエールが成立している花体質は安定している。栄養不足にもならないし、お互いが居るだけで幸せだからね。だから、私が『花食み』でもブーケ…ブートニアが居る、と聞いてそこの二人は警戒を解いたんだよ」
もう奥さんが居るから他の人とは結婚出来ないって事かな?
「で、ここからが涼菜にとって重要な事。涼菜と東条はブートニエールでは無いんだよね?」
「うん。花が咲いたら全部渡す代わりに生活を援助してもらう契約だけの関係」
言葉にすると、何か胸が締め付けられる気がする。
私、お金のためだけにここに居るみたい。
実質そういう事なんだけど、ちょっとモヤモヤする。
「そういうブートニエールの関係ではないけれど、定期的に体液と花を交換・供給する仲にある二人を『ヤドリギ』っていうんだ。そして、東条は『ヒヨドリ』ブートニエールになっている・なっていないに関わらず、複数の花生みを自分の為だけに抱えている『花食み』だ。あまり正しい関係とは言えないね」
麗は、嫌悪感を隠しもせずに、吐き捨てる様に言った。
『花』との相性があるから仕方ないのだ、出会った『花生み』達の『花』では足りなかった、今は居ないし、涼菜一人、ヤドリギで間違いない、と瀧本が東条を、擁護している。
正直呼び方なんて、どうでも良い。
私を見つけた名月と、東条のおかげで、妹と弟は伸び伸び生きていけるし、おばあちゃんも過ごしやすい家になった。
私だって、今はストレスも少なく、東条に会うこともなく生活出来ている。
家族に会えない事だけが悲しいけれど、それ以外はそんなに悪くない。
「ま、東条がどうだとしても、涼菜が納得してるなら問題は無いよ?でも、絶対、悩んでるでしょ?」
麗と瀧本のやり取りをぼんやり流しつつ紅茶を飲んでいた時に、核心を突かれた所為だろう。
「家族に、会いたい」
本音がぽろりと溢れた。
このタイトルのお似合いの二人、は麗と花蓮の事です。
双子で生まれた時からずっと一緒で、身体の弱い妹を守りたくて、ブートニアを守りたくて、男の子みたいな喋り方で、全方位を警戒、威嚇していた麗は、妹によく似た雰囲気の涼菜が気になって仕方がなかった様です。
花蓮がたまに可愛い嫉妬をしてくれるのがまた、嬉しい様子。
二人の両親については、タイミングがあれば、麗視点で色々語りたいと思います。




