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39 エリンジウム 後編 : 光を求める 2

遅くなって申し訳ありません。

長くなったのに終わりませんでした。

 東条晃はやり方を間違った。


 晃は涼菜を大事に、大事に扱うべきだったのだ。

 喪失感と飢えに苦しみ、見えた一条の光。

 それが涼菜であったのに。


 本能の望むままに『花』を求め、一人の人間として見ることが出来なかった。

 涼菜の花咲くトリガーが「強いストレス」だったという事も間違いに拍車を掛けた。

 暴力で安易に求める物が手に入ってしまったのだから。


 飢餓感が落ち着き、“日野涼菜”という人間の存在を認識出来た後も、間違いを繰り返した。

 自分に恐怖を覚えていると言われる相手に軽い気持ちで会いに行き、恐怖を与えて激しく拒絶された。

 そうして、よりにもよって、自分に強い執着を見せるあやのに相談(情報漏洩)してしまったのだ。


 晃からすれば、浩二に慰めてもらおうとしたのに冷たくあしらわれ、幼馴染であり、涼菜と同性のあやのに相談しただけだ。

 あやののアドバイスに従い、訪れて謝罪を繰り返すも効果は無く、何故か浩二や瀧本にやたら叱られる日々。


「晃は何も悪くありませんわ。勿論涼菜ちゃんも。お互いに少しすれ違ってしまっているのね。わたくしには瀧本が少し過保護に思えますけれど」


 あやのだけが優しく慰めてくれる。

 諦めずに何度も謝って許してもらう様に、と背中を押してくれ、折れかけた心を奮い立たせて、さらなる接触を試み続けた。


「お願いだ、何か、話してくれ」


 思いつく限りあれこれ話しかけても無反応で、あまりの虚しさに懇願すると、ハッと顔を上げて此方を見る。

 その表情は今まで見たことの無い、こちらを心配する様な表情で。

 すぐに不安げな表情に戻ってしまったものの、初めてまともに視線が合ったのだ。


「やっと!やっとこちらを見てくれた!」


 思わず笑みが溢れる。

 途端、涼菜の表情はあっという間に凍りつき、悲鳴の様な声を上げて、再び晃を拒絶した。


ーーー悪いと思っているなら二度と顔を見せるな


 ショックだった。

 ここまで激しく拒絶された事など無かった。


 母親に「他人に咲いた花を食べるなど気持ち悪い」と頬を打たれて拒絶された時よりもずっと痛む。

 ずっとずっと胸が痛い。


 一気に晃の世界は灰色に変わった。

 驚く程にやる気が出ず、ベッドにうずくまる。


(何故?オレはそれほどに酷いことを涼菜にしてしまったのだろうか?)


 自問自答するも答えは出ない。

 明白に間違いを犯し、浩二や瀧本から答えを与えられているというのに理解が出来ていなかった。

 悲し過ぎて何も考えられず、部屋に篭り、その日はタッピングに行くこともなかった。


 翌朝、一番で瀧本に叱られ、それからは涼菜が寝入ったタイミングで必ずタッピングをしにいくと約束させられた。


 が、涼菜はどれだけ待っても回復しない。

 毎日、三度の食事の後瀧本が睡眠薬を飲ませて眠らせる。

 食事も『水』も足りているはずである。

 「一番のストレスの元である」と言われた為会いに行くのもやめたのに、『花』が咲く。


 答えは単純であった。

 他から強いストレスを浴びていたのだ。

 瀧本の目を盗み、あやのと小毬、ひいては二人のガーデナーが糸を引いて、涼菜を虐めていた。


「此方が映像でございます」


 瀧本が差し出した映像を見た瞬間、怒りが頂点に達し、目の前が真っ赤に染まった。


 本来であれば嬲り殺してしまいたいところではあったが、浩二と瀧本が涼菜にこれ以上恐怖を与えない為に暴力に頼るなと繰り返した。

 涼菜の『温室』に潜み、四人が来るのを待つ。

 瀧本が一人で出てきて、直ぐに暴言が始まった。

 扉の前で中の様子を窺う。


「私は東条、さんを、誘惑なんてして無いし、むしろここを出ていきたいのに、でも、妹たちのために頑張ってここに居るのに、あやのさんが心配することなんて何にも無いのにっ!」


 あやのに叫んで言い返した涼菜。

 直後、パシンと乾いた音がした。

 脳が沸騰する様な怒りに身体が勝手に動きだす。


「帰りたい!こんな怖いところはもう嫌だよ!」


 悲鳴の様な声で「ここは嫌だ」と叫ぶ涼菜は、部屋に押し入った晃を見て固まる。

 己を見てカタカタと震え、『花』を咲かせる涼菜に胸が締め付けられ、口の中に苦い物が広がる。

 なんとか暴力を行使せずに四人を追い出し、泣きじゃくる涼菜に謝罪をして、「君を守りたい」とだけ伝えた。

 ……きちんと伝わったかはわからない。


 四人を排除した効果は抜群だった。

 あっという間に回復して学校に通えるほどになった。

 なのに何故こんなに悪いことが重なるのか。

 面会を拒否し続けてきた家族が、妹が強硬手段に出た事でまた涼菜は心を閉ざしてしまった。

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