39 エリンジウム 前編 : 光を求める
遅くなってしまい申し訳ありません。
読み返して修正に思いの外時間が掛かってしまいました。
今、私は真綿の檻に包まれている。
週に一回の家族との手紙のやり取り、衣食住は完備、優しい瀧本と、職務の範囲を越えて良くしてくれる名月。
週に何度も遊びに来てくれる麗。
あれから姿を現さない東条。
無意味な花束とメッセージも名月が止めてくれた。
私にとって優しい世界だ。
それでも、相変わらず外には出られないし、家族には会えないし、スマホも返してもらえない。
麗とのやり取りは名月を通じて瀧本に連絡が来る。
正直、かなりもどかしくて面倒だ。
食事をして、日光浴をして、本を読んだり、宿題をして、時々麗が来て、それでおしまい。
あとはお風呂に入って眠るだけだ。
やっぱり少しだけ、息苦しい。
でも、それでいい。
お金をもらっているのにのうのうと暮らすだけなんて申し訳なさすぎる。
それに今までとは違い、週一とはいえ家族と連絡が取れる。
そのなんと幸せなことか。
家は約束通りリフォームされて、おばあちゃんが躓く事は無くなったし、膝も楽になったそうだ。
毎月振り込まれるお金で弟妹は人並みの学生生活を送れる様になった。
月に一度好きな服が買える、と妹の手紙に書いてあった。
お母さんはパートの時間を短くして(仕事をやめるとボケちゃいそうだから働き続けると書いてあった)気楽に働いて、趣味を見つけたらしい。
お父さんは気の合う職人さんと出会えて新しい職場でのびのびと働けているとのこと。
家族が幸せになって嬉しい。
だから、少しくらいの息苦しさなんて気にしない。
カサリと手の中で音を立てるお母さんからの手紙。
“家族の時間がゆっくり取れるようになりました。ここに涼菜が居たら最高なのに”と書かれた一文はひどくよれていて読み難い。
じわりと滲む涙を強く目を閉じてやり過ごす。
麗は何度かに一度の割合で、妹の花蓮も連れて来てくれる。
見た目は本当に似ていない。
全体的に色素が薄くて、ふわふわの柔らかに波打つ琥珀色の長い髪は、まるで絵本のお姫様の様だ。
なのに性格は麗とそっくりで、さっぱりとしていて人当たりが良い。
花蓮は料理上手で、大きなホールケーキを焼いてきてくれたりもした。
瀧本の淹れた紅茶を飲みながら食べたらあっという間に無くなってしまったけれど。
花蓮もたくさん食事を摂ると聞いた料理人さんが張り切っていっぱい作ってくれたお昼ご飯を三人でお腹いっぱい食べたりもした。
食べ過ぎて動けず、そのままお昼寝に雪崩れ込んだ事も一度や二度ではない。
中学の頃から考えると、圧倒的に満たされたとても楽しい毎日だった。
それでも、東条のことが魚の小骨の様に引っかかって手放しには喜べない。
この檻を壊してしまえたら楽なのに。
何度か名月が間を取り持とうとお茶会をしたり、庭を東条に案内させたりしたけれど、どうしても拒否感が先に出る。
贈り物よりも、謝罪よりも、まずは家族との面会に許可を出す事をしてよ、と思ってしまう。
そうしたら、少しだけ、許せるのにーーー




