37 虫食いのオリーブ:偽りの平和
家族からの手紙に、私からも書いて名月に届けてもらった。
通話やメールはバレやすいのでダメらしい。
仕事の都合で週に一度しか届けられない事を名月は謝るけれど、むしろ感謝をしている。
名月のおかげで、手紙とはいえ、また、家族と触れ合える。
それだけで本当に嬉しいのだから。
週に一回家族からの手紙を持ってきてくれる名月が待ち遠しい。
それだけが心の支えだ。
あれから首に鈴なりに出来ていた『花』を纏めて摘出してもらい、栄養剤を飲んで、たくさんのご飯を食べた。
翌日には東条からいつもの花と回復を祝う言葉と共に『花』のお礼のメッセージが届いた。
(貴方は何もしていないじゃない。それどころか面会もまだ断り続けているし、絶対許さない)
それからも、東条の花束・メッセージは続いている。
メッセージは恐らく東条の本当の気持ちなのだろう事は解る。
だが、こちらの気持ちを一切鑑みない自己満足な考えが透けて見え、ただただ不快だった。
名月を通じて、花代が勿体無いのでもうやめてくれと伝えたら二日おきになった。
そうじゃない。
東条、そうじゃない。
とにかく、東条は関係なく、家族や、瀧本達や、自分の為に食事も摂って、日光浴もして、栄養剤も飲んで。
いっぱい努力して、無事学校に復帰した。
学校は相変わらずよそよそしかったけれど、それにもだいぶ慣れた。
ヒソヒソ話も少なくなったし、麗との会話も楽しい。
他にも少しずつ話せる人も増えた。
後藤も学校に馴染んできてる。
この間なんて、女の子達からお菓子をもらって食べていた。
びっくりだ。
面倒な期末試験が終われば、あっという間に、夏休みになる。
中学の時は家事を手伝って、涼しい図書館に逃げ込んで宿題したり、本を浴びるほど読んだりして、たまに友達と遊んで過ごした。
高校に入ったら今年からバイト三昧だと思っていたのに、こんなことになってしまったので、ずっと『温室』に引きこもりらしい。
麗は色々誘ってくれるけど、外出は許されない(念のため瀧本に確認した)ので、麗に『温室』まで遊びに来てもらう約束をした。
夏休み初日は日光浴をしながら宿題を進めた。
心置き無く麗と遊び倒す為にめちゃくちゃ頑張った。
程よいタイミングで、瀧本がお茶やお菓子に軽食を用意してくれるので、集中力が続いて、一番苦手な英語の宿題が終わった。
私、頑張った。
翌日は、朝から麗が遊びに来て、宿題をやっつけたり、瀧本が用意してくれたそうめん流しで、無限に素麺を食べたり、手持ち花火をして、子供の様にはしゃいだり楽しかった。




