5 トルコキキョウ:希望
屋敷に着くと、名月が言っていた通り医療関係者と名乗る大人達が丁寧に花を切り落とす。
麻酔をしてくれたので痛みは感じなかった。
かかりつけ医の蓮田医院では、花は剪定鋏で切られて、残りを剥がしていたのでとても痛かった。
善意でやってくれていたので文句は言えなかったし、“花を切られるのが物凄く痛い”というのは人では無い気がして、ずっと我慢していた。
採取した花の行き先が気になって聞いてみた所、綺麗に洗浄して、『坊ちゃん』に渡すのだとか。
教えてもらえないかもと思っていたので少し驚いた。
そんなに綺麗な花でもないのに、お金持ちは考える事がよくわからない。
まずはお風呂に入るようにと指示を受け、指定の部屋に向かうと、広々とした脱衣所があった。
麻酔が残っているから、と四人のメイドさん達に服を剥かれ、隣のタイル張りの広い部屋に連れ込まれた。
この脱衣所と浴室だけでうちの部屋全部くらいあるのではないだろうか?
それくらい無駄に広い。
観葉植物や、不思議な形の花瓶に、様々な形と色の小瓶が並んでいる棚。
お風呂にこんな物必要なのだろうか?
中央に置かれている猫足のバスタブに優しく放り込まれ、全身隈なく洗われてしまった。
抵抗する隙を与えてくれない見事な手際で、大変に恥ずかしかった。
その後、全身マッサージをされて、『温室』と呼ばれる部屋へ連れて行かれた。
マッサージを受けるのは初めてだったのだが、あまりの気持ち良さにうとうとしてしまった。
特に首周りは念入りにやられた気がする。
首や肩周りがものすごく軽い。
『温室』は私と同じ様な『花生み』達の為の建物だ。
八角柱の大きな温室がある。
その温室を囲む様に七つの白い建物が建っていた。
その一つ一つが私の家よりも大きくて、可愛らしい装飾の付いた白い壁と出窓、二階にはベランダ代わりと思われるサンルームがある。
私は今日からここに住むらしい。