34 ヘレニウム:涙
ある日、学校に妹が乗り込んできた。
その日はもう夏真っ盛り、と言わんばかりの快晴で、真っ白な入道雲が、真っ青な空で自己主張していた。
教室に入る風も生ぬるく、終業の鐘をクラスみんなが待ち侘びていた。
これが終われば、昼休み。
クーラーの効いた食堂に逃げ込める、そう、考えていた。
そんな、ダレた教室に響いてくる幼い声。
「お姉ちゃんに会わせて!此処にいる事は知ってるんだから!家に行っても毎日毎日会えませんって言うんだから!昼間しか会えないのよ!」
肩がびくりと震えた。
恐らく守衛に止められているのだろう。
校門で誰かが騒ぐ声がした。
それは、とても、聞き馴染みのある、声で。
それは、とても、懐かしい響きで、私を、呼んでいた。
「おねえちゃあぁぁんっ!!みんな心配してるのよおぉっ!」
涙がぶわりと浮き上がってくる。
学校の事は何一つ伝えられていない。
それどころか自分がどんな生活をしているかさえも。
なのに、妹は私がこの学校に居ると確信していた。
どうやって調べたのだろう?
妹の悲痛な叫び声に、相当な努力と苦悩が見える。
席を立とうとしたら、肩に後藤の大きな手が置かれていた。
睨み付けると、眉毛をハの字にして、悲しそうに首を横に振る。
その姿に、後藤に対する怒りがシュルシュルと萎んでいく。
後に残るのは、耐えられない悲しみと、寂しさだけだった。
結局妹とは一言も言葉を交わせなかった。
それでも支離滅裂な妹の叫びに、故意に家族と引き離されている事を知る。
後藤に訊くと、「禁則事項です」と悲しそうに答えて、後は首を振るだけだった。
授業が終わり、食堂に入ると直ぐに瀧本を問い詰める。
やはりそうだった。
はじめから会わせる気など無かったらしい。
東条からの指示だと聞いて、全身の血が沸騰する様に感じた。
味方だと思っていた人達に隠し事をされていた事、家族は会いに来ていたのに教えられていなかった事、そんな事も知らずに勝手に両親に恨みを募らせていた事など、何から怒って、何を悲しめば良いのかわからない。
もう許容量オーバーだ。
涙が後から後から溢れてくる。
そんな状況なので、午後の授業は早退して、『温室』に戻った。
涙は止まらず、止まったと思っても直ぐに溢れ出す。
食欲も無い。
ただただ悲しかった。
その日から私は、食事も取らず、日光浴もせず、『花』が咲いても摘出も拒否した。
一度学校から脱走を試みたが、後藤には敵わなかった。
走り出した瞬間に抑え込まれてしまった。
脱走未遂の報告が為されると、登校を禁じられた。
脱走出来ないのであれば学校など煩わしいだけだ。
寝室に引き篭る。
既に首の後ろには沢山の花が咲いている。
重たくて、ちょっと擦れるだけでとても痛い。
それでも、摘出は拒否したし、食事も拒否した。
それを繰り返すうちに、あっという間に身体に力が入らなくなり、寝込む事が増えてしまった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
今回初めて評価を頂けました!
ブックマークに評価とても嬉しいです!
まだまだ恋愛は遠い涼菜ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。
2022/11/17 細かい修正を行いました。
お話に大きな変更はありません。




