33 ニゲラ:当惑
みるみるうちに環境が変わっていく。
東条の宣言通り、四人は追い出されてしまった。
『花生み』は一人になるし、他の『温室』は壊されている。
私の居る『温室』だけが残された形だ。
『温室』跡地になにやら新しい建物が出来ている様子だ。
現金な私の身体は、あっという間に回復して、また、学校に通い始めることが出来た。
後藤は「回復してくれてよかった。危うく仕事がなくなってしまう所だった」等と冗談を言う程だった。
「心配してくれてありがとうございます」
「いいえ、これが私の仕事ですから」
久しぶりの登校なのに、車の中で少しだけ泣いてしまった。
優しい後藤は見て見ぬ振りで、運転をつづけてくれた。
「涼菜!元気になったんだね!良かった!」
「麗!戻って来れたよ!」
教室に入ると麗が待ち構えていた。
前回お見舞いに来てくれた時に、今日から復帰する話をしていたので、知っているはずなのに喜んでくれる麗が嬉しい。
はしゃいで手を取り合っていると、そっと椅子が引かれる。
そろそろ座れ、と後藤の目が言っていた。
倒れてまた休みたく無いので、大人しく座って、また麗と話しはじめる。
授業は麗が遊びに来てくれた時にノートを貸してくれていたので、遅れはない。
ちょっとわかりづらいところも麗に訊けば教えてくれる。
平和な日々は、あっという間に一月過ぎた。
実は、あやの達が居なくなってから、毎日東条から花が届く様になった。
律儀に毎回、手書きのメッセージカードが付いている。
体調が回復したらそれを喜ぶ言葉が、『花』が咲いたらお礼の言葉が、学校に復帰したらそれを祝う言葉が。
そのメッセージカードを見れば本当は優しい人なんだなってわかる。
毎日毎日、違う内容のメッセージカードと、可愛らしい花束。
名月の言葉を信じるなら、全て東条が用意しているらしい。
あやの達を追い出しに乗り込んだ日以外、顔を見せない東条。
心に刺さった棘の様で、気になる。
けれど、まだ、会うのは怖い。




