32 ナナカマド:貴女を見守る 前編
はじめてあやの達に暴言を吐かれてから、手を変え品を変え瀧本の居ない場所での虐めがはじまった。
手を挙げられるわけではないし、事実を述べられているだけなのにとても辛いけど、瀧本には言い辛い。
身体も心もみるみる憔悴していく。
二人が帰る頃には蕾や『花』が咲いてしまうことが増えた。
体に無理をさせているからだろうと瀧本は心配して、事あるごとにお茶とお菓子を食べさせようとしてくる。
そして、その優しさと美味しそうな香りにいつも負けてしまう。
リラックス出来るお茶のおかげか、すぐに眠たくなる。
こんな時は寝逃げするに限る。
あやの達のいじめはもう二週間程続いている。
来る度に、ものすごい敵意を感じる。
あんなに優しくて、綺麗だったあやのが顔を恐ろしく歪めて、私をひたすらに貶す。
『花』が下品だ、晃を誑かすな、私には居場所など無い、いつまで晃に甘えるのだ。
瀧本が帰ってくるまでの短い時間に言えるだけ、とにかくずっと怒り続けている。
どんなにちがう、誤解だと訴えても聞き入れてはくれない。
昨日はとうとうパシンと頬を打たれた。
手を上げられたのは初日だけだったので油断した。
そしてまた、今日も四人はやってきた。
この四人は必ず、連絡なしで毎日時間をずらしてやって来るので、先に用意しておくことができないと瀧本がぼやいていた。
いつものごとく、花垣がお茶の準備を手伝うと言ったが、今日は瀧本が手伝いを断って自分だけで用意するから、と一人で行ってしまった。
瀧本に置いて行かれた様な、取り残された様な、心細い気持ちになる。
ドアの閉まる音がするとあやの、小毬、それから熊谷の三人が私を取り囲む。
「なんでそんなに私を嫌うの?」
涙と共にぽろりと溢れる。
「貴女がいつまでも晃を誘惑し続けるからよ」
「私は東条、さんを、誘惑なんてして無いし、むしろここを出ていきたいのに、でも、妹たちのために頑張ってここに居るのに、あやのさんが心配することなんて何にも無いのにっ!」
支離滅裂に叫んで言い返す。
パシンと頬を張られた。
「帰りたい!こんな怖いところはもう嫌だよ!」
痛む頬を押さえて叫ぶ。
ーーーバンっ!
寝室の扉が音を立てて開いた。
 




