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30 スグリ:あなたの不機嫌が私を苦しめる

ーーーリンゴーン


 チャイムが鳴った。

 不自然に身体が強張る。


 瀧本が不思議そうに確認に行く。

 チャイムの音を久しぶりに聞いた気がする。

 東条達がくる時は、瀧本が迎えに行くから気づかなかった。

 多分、チャイムが怖い事に気付いた瀧本が配慮してくれていたのだろうな、とわかる。

 ぽわりと心が温かくなった。

 

 瀧本が寝室に戻ってきた時、後ろに四人の人を連れていた。

 あやのとそのお世話係、そして、小毬とそのお世話係だ。


 あやのとは今日の昼、温室でのやりとりが最後で、どうしても緊張してしまう。

 でも視線が合うとにこりと優しく微笑まれてホッとした。


「具合はいかがかしら?少しは楽になって?」

「まだ顔色悪いねぇ」


 あやのと小毬が声を掛けてくれながらベッドサイドの椅子に座る。

 昼の事は夢だったのか、と思う程にいつも通りだ。


 瀧本と小毬の世話係の花垣敏江がお茶を淹れに行く、と席を外す。

 部屋には『花生み』三人とあやのの世話係熊谷郁恵だけになった。


「ねぇ、涼菜はいつ出て行くの?」

「ここに貴女の居場所なんてありません」

「え?」


 パタンと扉の閉まる音がした途端に、先程までの態度を翻す二人。

 聞き間違えたかと聞き返すけれど、聞き間違いではなかった様で、あやのと小毬の恐ろしい表情に息を呑む。


「貴女が疎ましいから大事にされず『花』だけ求められるのですよ」

「だってこまり達には、ふつーにやさしいし?乱暴されてるのはあんただけでしょ?」


 理解が、追いつかない。

 あやのは認めたくないけど、晃関連が原因で嫌われているのだろうとわかる。

 でも、小毬は違う。

 なぜ?


「“貴女”を晃が求めているとは勘違いしてはダメよ?」


 するりと優雅に伸ばされたあやのの手が私の頬に触れる。

 ぺち、ぺち、と涼菜の頬を優しく叩きながら、麗しい笑顔を見せるあやの。


「わたくしは毎日家族と会っていますが、貴女は会っていないのでしょう?」

「こまりはクソ家族と会いたくないから面会シャゼツしてるけど定期的に申し込んでくるよ」


 直視したくない現実を突き付けてくるあやのと小毬。

 クリクリと愛らしい瞳が今は冷たい光を放っている。


 チラリとドアに視線をやれば、その前に立つ郁恵。

 やっと最近なんとか立てる様になった、萎えた自分の足。

 この部屋から逃げ出すのは無理そうだ。


 ぺち、ぺち、頬に当たる指先が少し強くなってきた様に感じる。


「あ、の……なん、で……?」


 困惑と、言い知れない不安にうまく言葉が出てこない。

 私に対する悪意を持つ人達から「逃げられない」という恐怖に身体が震える。

 笑顔なのに、目が笑っていないあやのがおそろしい。

 的確に心の弱い場所を責めてくる小毬が怖くて仕方ない。


「“なんで?”貴女、今、なんでとおっしゃいまして?」


 急に表情が消えるあやのに「ヒッ」と喉が鳴る。


「あやの様」


 郁恵の小さな声がすると二人とも元いた椅子に腰掛ける。


「え?え?」


 すると数拍の後にノックの音が響き、瀧本達が現れる。

 その後は何事もなかったかの様に見舞われ、しばらくすると四人は帰っていく。

 首の後ろの『花』だけがふわりと開いた。

 いつも『薔薇籠』読んでくださってありがとうございます。

 感想、ブックマークありがとうございます!

 お話の内容は重めですが、私の心はふわふわです。

 ありがとうございます。

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