4 マリーゴールド:悲しみ
早速読んでくださって、ブックマーク、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
まだまだ冒頭ですが、楽しんで頂ける様に頑張ります。
スマホとお財布に数枚の着替えを纏めると、すぐにあの高級車に乗せられた。
普段の私なら恐縮して乗ることすら緊張してしまっただろうが、今はもう、どうでもいい。
見送りに来た家族は、みんながくもりのない笑顔だ。
心から私にとって、みんなにとって良いことだと思っているんだろう。
(少しは寂しいとか、ごめんとか思ってくれても良いじゃない)
ゆっくりと車が走り出す。
ーーーズキンッ
首の後ろに痛みが走る。
花が成長しているのだ。
日々の小さなストレスではそこまで成長したりしないが、大きなストレスを受けると今の様に急に成長する事がある。
急に大きく蕾が膨らみ、花開く時には必ず苦痛が伴う。
「ぅ、くぅ……っ!」
何かを引き抜かれる様な、引き裂かれる様な痛みに呻き声が溢れる。
泣かない。
こんな事で、泣いたりなんかしない。
これでみんな幸せになれるんだから。
お金がないのは本当に辛い。
中学生の弟妹も、もう色んな我慢をしなくて良いんだから。
だから、泣いたり、しない。
ぺり、ぺり、と何かが剥がれていく感触と、全速力で走り抜けた後の様な虚脱感。
座っている事すら辛くて、背もたれに身体を預けたいが、花を潰すわけにはいかない。
ぐったりと自分の脚に肘をついて身体を支える。
車中には得も言われぬ花の薫りが広がる。
「素晴らしいですね。もう、一輪咲かせてしまわれたのですか?期待以上の早さですね、それに薫りも良い」
運転をしている名月がバックミラーでこちらを見ていた。
「恐れ入りますが、しばらくその体勢で我慢して、花を潰さない様、お願い致します。お屋敷に着きましたら医療班が綺麗に跡を残さず採取させていただきますのでご安心下さい。痛みもなく、すぐに終わりますので」
胡散臭い笑顔でそう言うと、車のスピードを上げた。
乗り慣れない高級な車に酔ってしまった様で、潤んだ目から何粒も水が落ちていった。