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27 ロベリア:悪意 後編

 あやのは、瀧本が晃達を見送る為に席を外した瞬間、居ても立ってもいられずツカツカと足音を立てて涼菜に近づいた。


「瀧本さん?」


 涼菜の、悪びれずに瀧本を呼ぶ声がした。

 車椅子から身を起こしたことで、こちらが見える様になったのだろう。


「あやの、さん?」


 小首を傾げ、怯える様に呼びかけて来た。


(自分の浅ましい駆け引きを見られていたとは、ちっとも考えていない顔ですわね)


 あやのは怒りを表現するかの様に一際大きな靴音を立てて涼菜の正面に立った。


「晃はわたくしのモノだと話したはずですわよね?!」

「え?あの……、なんの……こ、と、です、か?」


 端的に注意をしたはずなのにしらばっくれる涼菜。

 瞬間、沸騰するかの様に感情が溢れた。

 人間、怒りが頂点に達すると言いたいことの十分の一も言葉に出来ないものだ。

 怒りに声は震え、視界は歪む。


「あんなに……、あんなに気に掛けてあげたのに……ッ!」


(お母さんにすら上品な言葉遣いを心掛けて、もう何年もこんな見苦しい言葉なんて使ったことないのに……!)


 自分の感情が上手く制御できないし、しようとも思えない。


「晃を一番愛して、支えられるのはわたくしなの!決してポッと出の貴女のような教養のない小娘などではないわ!」


 心の悲鳴をそのままに、目の前の「私、何かしましたか?」とでも言いたげな性悪女にぶつけていく。


「何も知らないフリをしてっ、晃を手玉に取って楽しいかしら?!」

「え?え?ちが……」


 どれだけ言葉をぶつけても、まるで可哀想な被害者の顔をして「何のことかわからない」「誤解です、あやのさん」と繰り返す。

 あれだけ沢山『水』を受け取っておきながら、今更何を言ったところで全く意味をなさない。


「“知りませんでした”ですって?どの口がそんなことを言うのかしら!」


 遂に涼菜は泣き出した。

 でもそれはあやのの怒りに油を注いだだけだった。


(晃を誘惑するのはやめなさいと注意しているだけなのに、泣けば許されるとでも思っているのかしら?!)


 抱えきれない怒りと苛立ちに思わず手が出てしまう。

 パチン、と乾いた音が温室に響く。


「この泥棒猫が!」


 吐き捨てた言葉はまるで出来の悪い昼ドラの様で。

 言葉にならない悔しさと、悲しみと、怒りが、後から後から涙となって溢れ出て、止まらなかった。

 くるりと踵を返すと走り出す。


「信じてよ……あやのさん……」


 後ろから聞こえた悲しげな声を無視してその場を立ち去る。

 胸の中のモヤモヤが膨れ上がって気持ち悪かった。


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