24 黄色のカーネーション:拒絶 後編
浩二は優しくないので、自分に優しくしてくれる者の元に訪れた。
「あら、晃!来てくださったのね!教えてくださればお出迎えのご用意をしておきましたのに!」
「うん。気にしないで。ちょっとあやのに会いたくなってさ」
チャイムを鳴らすと、あやのが華やかな笑顔で出迎えてくれた。
あやのはいつだって自分の味方だ。
少し頼りない所を見せても受け入れてくれる。
「まあぁっ!まぁまぁっ!なんと嬉しい事でしょう!晃にそう言ってもらえるなんて!ええ、ええ、何時でも会いに来られて良くってよ!」
自分の何気ない言葉に上機嫌になるあやのはいつもの事なので気にしない。
勧められるままに室内に入り、二人掛けのソファに腰掛ける。
「少し待っていてくださいな。すぐにお茶を淹れて参ります」
うきうきと軽やかな足取りでキッチンに向かい鼻歌を歌いながらお茶を用意するあやの。
そのふわりと緩やかにウェーブを描く薄茶の髪に小さな黄色い蕾が二つ、三つ見え隠れする。
(あの『花』は後二、三日で開花しそうだな……)
ぼんやり、楽しそうにお茶の用意をするあやのを眺めていると、それに気づいたあやのが嬉しそうに微笑む。
「まぁ、晃ったら。そんなに見つめられたら恥ずかしいですわ」
クスクスと頬を染めて笑うあやのに、ごめんと口だけで謝ると、差し出された紅茶を一口含む。
飲み易く、香り高い紅茶にほぅ、と溜息が出た。
「それで、晃はどうなさったの?わたくしに会いたいだなんて普段は言わないでしょう?」
「あやのには敵わないな。なんでもお見通しみたいだ」
お茶を飲んで落ち着くのを待ってくれるあやのの優しさが嬉しい。
晃は最近の浩二の塩対応の傷が癒される様に感じた。
「うふふ、わたくし晃の事ならなんでもお見通しですわよ」
うっとりと微笑むあやのは晃の言葉を待っている。
こちらの気持ちが落ち着くまで待てるあやのに晃は感謝しながら話し始める。
「実は……」
新しく三人目の『花生み』が『温室』に入った事。
その『花生み』のトリガーは強いストレスだという事。
差し出された『花』がどれだけ良い香りで、美味しく、栄養価が高いか。
それを求めて『花生み』を苦しめて『花』を『摘んだ』事。
その為、その『花生み』に晃自身が怯えられて、まともに話をする事も出来ないこと。
様々な贈り物をしてみたけど改善がみられない事。
どうにか彼女と対話を図り、関係の改善に努めたい事など心の赴くままに晃は語った。
話し始めて、内容を把握した途端にあやのの表情が消え、握りしめた指先が真っ白になっていた事に、俯いて考えながら話した晃は気付かない。
「つまり、晃は、涼菜ちゃんと、仲良く、なりたいって、ことかしら?」
殊更ゆっくりと話し掛けるあやのに、我が意を得たり、と満面の笑顔で頷く晃。
「そうだな、言葉を飾らなければその通りだ。あやの程とは言わないが、せめて小毬程度くらいには仲良くなりたい。仲良く出来るなら出来るだけ良いけれど……」
それは難しいよな、と続いた言葉にあやのは優しく微笑んだ。
「仲良くなりたいのであればやはり何度も会いに行って晃を知っていただくしかありませんわね。多分涼菜ちゃんは拒否すると思いますが、諦めず何度も会いにいくのですわ」
晃の手に自分の手を優しく重ね、語り掛けるあやのに、お礼を言って部屋を出る。
(あやのに相談したのは正解だったな。やっぱり悪い事したのだから何度でも謝り続けなくちゃならないよな)
明日から毎日涼菜の『温室』に顔を出そう、と決意して、晃は歩き出した。
最後まであやのの瞳によぎる影に気付くことはなかった。
ああ、晃がダメ男一直線。
カッコいいヒーローとは……っ?
2022/11/12 気になる句読点などの細かい修正を行いました。




