24 黄色のカーネーション:拒絶 前編
東条晃は困惑していた。
浩二にクラスメイトが見舞いに来たと報告を受け、ならば自分もと見舞いに行った。
晃が入り口から顔を出した瞬間、涼菜は表情を凍り付かせぶわりと『花』を咲かせた。
「うぐ……っぅぁぁぁッ!」
くぐもった声を上げてベッドの上でのたうつ涼菜に、晃は戸惑う以外に何もできなかった。
辺りにはたまらなく芳しい香りが広がる。
口の中には唾液がじゅわりと湧き出て、顎関節がキュンと痛む。
(この素晴らしい香りの『花』を口いっぱいに頬張りたい、まだまだ足りない……っ)
飛びつきたくなる衝動をどうにか抑え、ベッド傍に置かれた椅子に腰掛け、語り掛けた。
「っ今日は、君を傷つけるつもりは、無いんだ」
口から出た声は動揺と緊張で掠れて、聞き取り辛かったが、心からの言葉だった。
だが、その言葉も、涼菜の心は怯えと涙で染まって、届かない。
無言でジリジリと晃の居ない方のベッドの端に寄っていく。
「知っているかもしれないが、オレは、東条晃という」
「オレは『花食み』で、『花生み』である君の生み出した『花』を求めていたんだ」
「どうか、恐れないで」
「少しだけでも良いから話さないか?」
アレコレと声を掛けても、怯えて身を固くするだけ。
次第に涼菜は顔色が青から白になり、呼吸も浅く、早くなっていく。
手だけでなく、身体も小刻みに震え始めてしまった。
あまりにも酷く怯える涼菜に自分のしでかした事の大きさを思い知る。
溜息を一つ吐くと、席を立つ。
「ひっ!」
腰を上げた途端、引き攣れた悲鳴をあげ、震える手で布団を握りしめる。
再び『花』が咲いた。
何か言いたげな瀧本に追い出される前に自分から部屋を出る。
「急に来て、ごめん」
自分でも驚くくらいするりと言葉が溢れた。
自分が出た部屋の中からは啜り泣く声が響いてきた。
分かりやすいくらいに『拒絶』されていた。
「大変申し訳ございませんが、坊っちゃま、涼菜様がもっと回復するまでしばらくは寝ている時だけにしてくださいませ」
「あそこまで怯えていては会話もままなりませんしね」
瀧本と浩二が口々に苦言を呈してくる。
『花』はこの後キチンと部屋に持っていくからしばらくは大人しくしていろ、と二人は繰り返し言葉を重ねられた。
しかし、晃には先程の涼菜の様子が衝撃的過ぎて全く言葉が届いていなかった。
上の空ではあるが、いつもの調子で「ああ」「分かった」「大丈夫だ」などと返事をした為、三人はお互いの思いが伝わっていないことに気が付かなかった。




