21 紫のバーベナ 後悔
東条晃は後悔していた。
『花』が欲しかった。
とにかく自分の中の飢えを凌ぐことしか考えられなかった。
だから、トラウマになっているサンルームに彼女を呼んだ。
名月に何も告げずに連れて来いと指示を出した。
そうなる様に仕向けた。
栄養剤かキスか、初心な女子高校生には、極論一択の選択だ。
勿論キスを選んでいたらきちんと『水遣り』はするつもりであったが、恐らく栄養剤を選ぶであろう事は推察できた。
三本一気飲みは予想出来なかったが。
しかし、それが彼女を助ける事になったのは不幸中の幸いだった。
あの栄養剤摂取がなければ、間違いなくこの腕の中で死んでいた。
サンルームに入ってくる彼女は、憐れなくらい怯えていた。
中に入るとあっという間に『花』を咲かせ始めた。
この部屋に連れてくるだけで沢山咲かせてくれるならとても便利だとすら思える程に。
だから抱き締めて、褒めてあげた。
あまりにも辛そうに泣き始めるから、宥めるつもりで。
『花』は咲かせて欲しいけど、泣かせたいわけじゃない。
前回首を絞めたのだって、手っ取り早く咲かせてもらう為で、殺したいとか、苦しめたいとかそういう気持ちは一切無かった。
なのに。
彼女はオレに縋り付いて泣き叫んだ。
「嫌だ、怖い、苦しい」いつまでも悲鳴を上げて、首の後ろにブーケができるほど『花』を大量に咲かせた。
遅まきながら、そこで、気付いた。
彼女は、一人の人間である、と。
たまらなく魅力的な、暴力的な薫りを撒き散らしながら彼女の身体がぐらりと傾ぐ。
倒れない様に、『花』が潰れぬように、抱き締める。
医療班が顔色を変えて駆け寄って来た。
注射で栄養剤を直接打ち込む。
『花』を回収する。
しかし、彼女の『花』は切り取っても、切り取っても、すぐに生えて、花開く。
抗い難い魅力的なその薫りに、溺れてしまいそうになる。
みるみる内に籠に積み上がる『花』
そのうちの一つを口に放り込んで、飲み込む。
それだけで腹の中からじわりと力が湧き出てくる。
大量の『花』を生んで土気色をしたその口に己のそれを重ね合わせる。
『花生み』の一番の栄養は『花食み』の体液だ。
ゆっくりと送り込み、口内に擦り込んでいく。
もう形を保てない様な奇形の『花』を幾つも首筋に生やしている少女を抱き締めて、繰り返し口付ける。
だらりと下がっていた手が、シャツの胸を掴む。
本能的に体液を受け取りやすい体勢になって、離さないとばかりにしっかりと握り締められたシャツ。
小さく嚥下する喉元に安堵の息を吐く。
息継ぎもそこそこに、繰り返し口付けを交わす。
彼女ーー日野涼菜は、五日間、目覚めなかった。
やっっっっっと!晃が涼菜を知覚しました!
でも涼菜は虫の息。
気付いたからって罪は無かったことにはならないよ、晃。




