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20 ルリタマアザミ:傷つく心 後編

 サンルームに入ると、あの時の恐怖が襲い掛かってくる。


 東条の怒っている声、『花』が咲く首の痛み、息の出来ない苦しみ、首を締め付ける大きな手、唇をなぞるザラリとした感触。


 様々な情景と感覚が無秩序に投影される。

 目がチカチカして、頭が痛い。


「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 頭を抱えて膝に埋める。

 こわいこわい怖い怖い怖い!

 痛い痛い痛い痛い痛い!

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!


 世界が揺れているのか、私が震えているだけなのか分からない。

 ガクガクと揺れる視界はあっという間にぼやけて、溢れる。


「偉いね、栄養剤もちゃんと飲んで、こんなに沢山咲かせて、君はとっても良い子だ」


 それなのに。


 なぜ?


 何故か東条の声だけはハッキリと聞こえた。


「偉いね、良い子だね。そう、その調子でもっと、もっと、もっと『花』を咲かそうね」


 何かにぎゅうっと抱きしめられる。

 温かなそこは不思議と恐怖が薄い。

 手元にある布を掴んで、痛みと恐怖に耐える。


「ああぁぁああぁぁあっ!」


 何か音がすると思っていたけれど、コレは自分から出ている声?

 そう自覚した所でプツリと意識が途切れた。



 ふと、目が覚める。

 どうやらまた、倒れたらしい。

 左腕には点滴が打たれていて、頭がぼんやりと痛い。

 口の中は妙に甘くてカラカラだ。


「……ど……ぁゎ、た……」

「涼菜様?!目が覚めたのですね!」


 喉が乾いた、と言おうとして全く声が出無かったが、瀧本は気が付いた様だ。

 何処にいたのかは分からないが、走ってくるのが気配でわかった。


 口元に濡らした棉を持ってきて押し付けられる。

 じわりと滲む水分が驚くほど甘くて美味しかった。


 そこで自分が指先を動かす事すら辛いくらいに疲弊していることに気づいた。

 もっと、と唇を動かすと、長いストローを口元に運ばれた。

 苦労してストローの先を咥えると、湯冷しが口に流れ込んでくる。


「今回は本当に危なかったんですよ」


 涙声の瀧本が状況を説明し出した。

 今回、トラウマの元であるサンルームに無理やり入った事でストレスが飽和状態となって、次から次へと『花』となって現れたそうだ。


 悲鳴を上げながら大量の『花』を咲かせて意識を失った私は、すぐにベッドに連れ戻され、摘出を始めた。

 しかし、摘出する端から新しい『蕾』が生まれ、花開く、私はあっという間に衰弱してしまった。

 栄養剤を点滴で挿れながらの摘出。

 それでも形を保てていない奇形の『花』を次々と生み出していく私に、みんなは私の死を覚悟したのだそうだ。


 弱って死に向かう私に、東条がタッピングという何かを繰り返し行った事で、なんとか命を繋ぐことが出来たのだと涙ながらに説明する瀧本。

 東条のおかげで命がある様に言われたけれど、そもそも死にかけたのは、その東条が原因だ。


「も……ゃだ……」


 涙が頬を伝って枕を濡らす。

 このままでは死んでしまう。

 呼吸をして、心臓が動いていても、心が死んでしまう。

 誰かに、助けて欲しかった。


 誰かに。

 家族にもう助けを呼べない涼菜には頼る相手が居ない。

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